表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/144

第76話『闇竜アジダカーハ』

 ボス部屋の前で充分に休憩を取った俺たちは、装備やアイテムのチェックを終えてから、ボス部屋の扉を開いた。


 そこには明らかに異質とも呼べる邪竜がこちらを射殺すように睨んでいた。紫色の躰から生えた三つの頭部に、巨大は大きな羽を有したとてつもなく巨大なドラゴンだ。間違いない。神話では最強の竜と呼ばれていて、このゲームでも七神竜の序列一位と言われている【闇竜アジダカーハ】だ。


 最強の竜を前にして、レビアは震えていた。だから俺は彼女の手をぎゅっと握ってあげた。ここで虚飾の魔王のアナウンスが入る。


「あっはっは。無謀な冒険者諸君。どうかね? 俺っちの切り札である闇竜は! 絶望しただろう? 倒せそうもないだろう? これがこのダンジョンのレベルなのだ! その無謀なる挑戦心を後悔しつつ、屍となって所持金と装備を残して、俺っちと世界の贄となるがいい! あっはっはっはっは。げっほげっほ。テ、テンション上げ過ぎて、むせた、げっほげっほげっほ……」


 なんか絶望していいのか。呆れていいのか。よく分からない脅迫だ。それにしても、この【闇竜アジダカーハ】だけは本気で挑まないとちょっとやばいかもしれない。


 俺は絵美に指示を出した。


「絵美。スキルで召喚するのは聖女三人、賢者一人にしてくれ!」


 絵美は頷いた。


「はい。わかりました!」


 絵美は聖女ガブリエラ三人と賢者ラフィエル一人召喚した。続いて、舞花とレビアにも指示を出す。

「舞花はレビアが闇竜に襲われないように護衛していてくれ。ここは俺が限界突破で一気に片を付ける!」


 舞花とレビアも頷いた。


「確かに今回は大人しく卓也に任せた方が良さそうね」


「うん。今度の敵相手じゃわたしたちじゃ足手纏いになると思う。ルシフ。気を付けてね?」


 俺は静かに頷いた。


「ああ。任せろ。なんたって、俺は今最高にハイになっているからな!」


 そう俺の気分はいま有頂天になっている。つまりハイになっているのだ。ゲーマーのプライドが刺激され、戦闘欲求が刺激され、かつて原作ゲームで十回も負けた強敵相手に、好奇心が抑えきれないのだ。


 俺は全ての魔力を身体に込めて、思いっきり叫んだ。


「行くぞ! 闇竜アジダカーハ! ゲーマーのプライドを思い知れ! 限界突破――!!」


 黒紫の魔力が渦巻き、俺はその質も量も強度も最大まで振り絞っていた。まさに全力。己の魂をかけた最強の強化奥義だ。


 俺はしばらく闇竜と睨み合うと、奴も笑っているような気がした。きっと俺を好敵手と認めてくれたのだ。


 それがゲーム内で散々分からされた最強モンスターから送られた者だと思うと、喜びで溢れていた。


 俺と闇竜はしばらく見つめ合い。互いの間合いを確認した。その時、とうとう辛抱しきれなくなった闇竜から動いた。


「ぐおん!」


 最大強度を誇る三つの首による噛みつき攻撃。俺はそれを全て予測して冷静に回避した。敵の怒涛のラッシュが降り止むと、瞬歩を利用して、一気に距離を詰めて、電光石火の居合抜きを放つ。


「秘剣――居合抜き!」


 その抜刀された刀身は二太刀に分裂して、アジダカーハの首を二つ斬り落とした。


「ぐおおおおおおおおん!」


 しかし、その首をすぐに再生する。俺は続け様に最大火力で魔法をぶっ放した。


「マジックバースト!」


胴体を撃ち抜かれるが、アジダカーハはすぐに身体を再生させる。流石不死属性を持つ無敵の竜だ。


 しかし、いくら不死とは言え、一つだけ避けられない物がある。それは肉体の完全なる消滅だ。


 俺は何度も、何度も、闇竜と刃と牙を交わしながら、ひたすらに魔力を溜め込んだ。おそらく勝負は一瞬で決まる。


 それまでこの敵のこの怒涛の連続ラッシュを回避し続けなければならない。しかも魔力をチャージしながらだ。


 いくら攻撃しても、再生し、相手の攻撃は一度も当たらない。それを歯痒く思ったのか、闇竜はとうとう自身の最大奥義【常闇のダークネス】を使うつもりだ。このブレス攻撃は回避も防御も不能であり、相手の生命力を一ポイントまで減らすという反則級の超奥儀だ。これを喰らったら、おそらく立てなくなるだろう。だから、俺はポーチから【レア・エリクサー】を取り出し、口に軽く含んだまま飲まずにいた。


 そして、遂に闇竜の三つの口から【常闇のダークネス】が発射された。圧倒的な闇の吐息を前にして、俺はそれを真正面から受け止めた。


「ルシフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 レビアの悲痛な叫び声が聞こえた。しかし、俺は焦ることもなく、その攻撃を浴びながら快楽の渦に溺れていた。


 ああ。なんと心地よい。痛みだろうか。俺はハイになっているがゆえの痛みが快楽に変わるという現象を味わい、生命力が一ポイントにまで減ったことを実感した。


 その時、闇竜は勝ち誇った表情を見せた。しかし、俺はその予想に反するようにポーションを飲み込み、一気に身体の傷も、血だらけの装備の破れも回復させた。


 全快した俺を見て闇竜にほんの少し恐怖の色が滲んだ。ここでようやく魔力の溜めが終わり、俺は【闇竜アジダカーハ】に宣言した。


「いい攻撃だった。最高に気持ちよかったよ♪」


 そして、奴を睨み吠えた。


「行くぞ! 闇竜アジダカーハ! ゲーマーのプライドを思い知らせてやる! ダークネスブレイカー!!」


 自分が一番得意とする必殺の奥義。その奥義の四つの渦に飲み込まれて【闇竜アジダカーハ】は最後に盛大に吠えた。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」


 それは心まではお前には負けてないぞと言わんばかりの負けず嫌い特有の叫び方だった。俺は相手の誇りに敬意を払い、その身を虚無の闇の中へと葬りさった。


「闇竜アジダカーハ。お前、本当に気高かったよ!」


 俺はそう言い残して、仲間たちもとへと歩き出す。レビアや舞花や絵美も泣きだから俺に駆け寄ってくれた。


「もう! ルシフのバカァァァ! またすぐ無茶するんだから……!」


「そうよ! このバカ卓也! ちょっとは反省しなさいよね……!」


「ふふ。やっぱり卓也は世界一格好いい魔剣士ですね!」


 それぞれに俺に抱き着いてきて、どうしたものかと困ってしまった。


 その時、頭上からアナウンスが流れてきた。


「あっはっは。よくぞ! 闇竜を倒したな! 無謀なる冒険者諸君。認めてやろう。君たちはあの伝説の配信者以来の俺っちの好敵手だと。さあ。下層の最奥の部屋で待っているぞ。あっはっはっはっは! あ、熱ぅっ! コーヒー零したぁぁぁぁぁ! あっつぅぅぅぅぅ!」


 なんか何処までもしまらない魔王だ。俺は頭上に向かって宣言した。


「待っていろ! 虚飾の魔王ベリアス。お前にゲーマーのプライドを思い知らせてやる!」


 俺は拳を頭上に高く掲げて、仲間たちも同じように掲げてくれた。やってやるとも。俺はソロではないが、憧れの伝説の配信者がクリアしたこのエクストラダンジョンをクリアしてやる。


 そして、レビアの道具屋経営の夢を叶えるのだ。次の瞬間、宝箱がドロップして、俺たちはその中身を確認して、勝利の喜びを分かち合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ