第75話『神絵師の本領発揮』
中層を進むと、ついに難問と呼ばれている。虚飾の魔王が満足する絵を描けというボス部屋の前の試練がやってきた。
絵美を仲間にダンジョン攻略の仲間に引き入れた一番の動機だ。ここで失敗すれば俺たちは強制的に入口まで戻されてしまうという地獄が待ち受けている。
そうやって失敗してトライアンドエラーを繰り返すのも悪くないし、むしろ俺は好きだが、ガチゲーマーじゃない他の仲間の心が折れてしまうだろう。
そうさせてはならないと決意して、ボスの部屋の前に進んだ。
その瞬間、また例のアナウンスが流れた。
「あーてすてす。聞こえているかな。諸君。おそらく諸君らはここで入口に戻され、また金貨を支払い、再ドロップした七神竜とも戦わなければならなくなるだろう。残念だったなぁ。あっはっはっは」
どうやら虚飾の魔王はどんな神イラストを描いても、ここを通さないつもりらしい。
これはちょっと虚飾の魔王を刺激し過ぎたかと反省していたが、絵美が前に進み出た。
「ここはワタシに任せてください。虚飾の魔王をメロメロにする超絶美少女を描いてやりますから!」
絵美はダンジョンに置かれている液タブを持って、絵を描き始めた。
俺たちはその過程を見ていたが、まずは丁寧に青い線で下描き、そこから軽くラフを描いてから、線画を描く、その鮮やかに感動してしまい俺は言葉を失ってしまった。そして、塗りを開始して、ラノベのイラストっぽい絵が五時間かけて完成した。しかもものすごく肌色多めでえっちである。そのえっちなイラストを見て、舞花が激怒した。
「ちょっと絵美。あんたなんて恥ずかしいイラスト描いてんのよ! 恥を知りなさい!」
レビアも舞花に同意して、絵美を責めた。
「そ、そうだよ。女の子がそんなえっちな絵を描いたら駄目だよ! はしたないよ!」
男性である俺が口を挟んだらコンプラ的に不味いので、様子をみていると、絵美がハイテンションフルマックスモードで力説した。
「えっちなイラストだからいいのです! 虚飾の魔王はワタシが見たところわりとこういうえっちなイラストがお好きな方だと思いました。それにえっちなイラストの何が悪いのですか? これも立派な芸術です! エンターテイメントなのですよ!」
そこまで言われたら、ふたりは反論できなかった。そして、絵美はそのイラストを虚飾の魔王に液タブ事見せつけた。
「どうです? 虚飾の魔王さん? このえっちなイラスト欲しくないですか? 大人気神絵師のワタシが描いた最強えちえちイラストですよ! ねえ? 欲しいですよね? ね?」
少しの間が空いたあと、虚飾の魔王は咳払いをしてから、こう言った。
「う、うむ。なかなか素晴らしい芸術的に攻めたイラストじゃないか。ま、まあ。肌色多めなのはいただけないが。それでも凄まじい完成度である。いいだろう。俺っちがそのイラストを貰ってやる。だからボス部屋の前の試練クリアだ!」
そこでレビアと舞花はじとっとした目を上部へ向けた。
「うわぁ……。えっちな絵に釣られて合格させるなんて最低だね……」
「まさに女の敵ね。虚飾の魔王がこんなキモヲタ野郎だとは思わなかったわ。これじゃあ卓也と何も変わらないじゃない……」
なんか俺にまで飛び火がきたので、俺はさりげなく反論した。
「違うぞ。俺はえっちな絵が好きなんじゃなくて、美しい少女のイラストが好きなだけだ。確かにオタクはオタクだが、髪型や服装は清潔感を意識しているからキモヲタではない! そこを勘違いして貰いたいな!」
そこでレビアと舞花は文句をつけた。
「わたしという者がありながら最低……」
「ホントこれだから男って奴は……」
いやいやいや。なんで避難されなきゃならないのか、意味が分からないんだが。それにレビアについては自分だって錬金術オタクなんだから人のこと言えないと思う。
そこで絵美は自信満々にピースサインした。
「これでボスの部屋の試練合格ですね。いよいよ次はボス戦ですよ。張り切って行きましょう!」
この微妙な空気でよくそんな明るい科白が言えたものだ。ちょっとは空気を読めと言いたい。
しかし、思っていた反応と違い、レビアと舞花は納得したように頷いた。
「そうだね。いつまでもしょうもないことで議論してらんないよね!」
「そうよ! それに絵美の描く絵が上手かったから、虚飾の魔王も認めざるを得なかったわけだし、内容はともかくやっぱり絵美は大した女だわ!」
いやいやいやしょうもないとか、内容はともかくとか否定すんなし。めちゃくちゃいいイラストだったじゃん。どうして女性はちょっとえっちなイラストに過剰な批判をするのだろうか。
そして、絵美が俺に語りかけた。
「さぁ。パーティーリーダー。どうします? 進みます? ちょっと休憩してから行きます?」
ここは俺も絵美を気遣って答えた。
「少し休憩してから進もう。絵美もイラスト描いて疲れただろうし。クッキーと飲み物飲んで万全を期してボスに挑もう!」
その発言にレビアや舞花も絵美も同意した。
「その通りね。ここで無理に突っ込むより、一度休憩しつつ、次の敵の対策を考えていた方がいいわね!」
「舞花ちゃんの言う通りだね。ここは一度休んで体制を整えよう!」
「ワタシもそれに賛成です。うふふ。やっぱり卓也は優しいですね♪」
そう言って絵美は俺の頬をつんつんと突いてきた。俺は気恥ずかしくなったので、ちょっとだけ怒った。
「からかうなって。俺はもう彼女持ちだぞ? 幼馴染だからってあんま過度なスキンシップは駄目だってば!」
その言葉に絵美はほんの少ししゅんとした。
「そうだよね。もう卓也には彼女さんがいるもんね。ああ。なんでレビアたんはこんな男を選んだの……」
こんな男って、どんだけレビアが好きなんだよ。このオタクイラストレーターは。今の発言に共感はするが、共感性羞恥という奴で、ちょっと居心地が悪く感じた。
すると、すぐに女子たちは俺にお構いなしにガールズトークを開始して、俺はまたひとりぼっちでポーションクッキーを食べながら、気力回復ポーションを飲んで気合を入れていた。
次はおそらくまたSランク上位クラスのボスモンスターを用意してくるだろう。これは油断できない。
俺は次の戦いのシミュレーションを何通りもしながら、クッキーと気力回復ポーションをゆっくり食べ続けたのであった。




