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第74話『斬れない物を斬る方法』

 あれから数千匹のモンスターを薙ぎ倒し、ようやく中層の試練の場まで辿り着いた。そこには巨大なエリアに鉄製の扉があった。しかもドアノブがついていない。ここでまたしても虚飾の魔王のアナウンスが入った。


「あっはっは。俺っちの試練その二の開幕だ! 拍手しろ! パチパチパチ!」


 俺たちはシーンと無視をした。しかし、虚飾の魔王のお気に召さなかったようで、頭の血管が切れそうな勢いでブチ切れた。


「おい! ざけんなぁぁぁぁぁぁ! ここはみんなで拍手するとこだろうが! 失格にして入口まで追い出すぞ?」


 そう言われては仕方ないので、みんな拍手した。心が込められていない軽い拍手だったが、そこでさらに虚飾の魔王は面倒なことにさらにブチ切れた。


「ざけんなやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! きちんと心を込めて拍手しろやぁぁぁぁぁ! 入口に戻されたいのかぁぁぁぁぁぁ!」


 この横柄な態度はなんかヤンキーというか金持ちの我儘坊ちゃんという感じだ。まるで悠久の時を生きている精神年齢とはとても思えない。


 俺たちは入り口に戻されたくなかったので、辛抱して強く拍手した。


 虚飾の魔王は満足そうに笑った。


「あっはっはっは。それで良いのだよ! では明かない扉の仕組みを解き明かしたまえ。あっはっは!」


 明かない扉つまりあの扉を開けることが今回の試練らしい。俺もやろうと思ったが、先に舞花が電光石火の居合抜きで扉を斬ろうとしたが、ガキンと刃が弾かれた。


「流石に斬って開けるというのは難しいみたいね」


「だったらこれならどうだ! マジックバスター!」


 しかし扉は全く明かなかった。俺はがっくりと肩を落とした。


「どうやら魔法攻撃でも無理みたいだな」


 そして、レビアが不満をぶちまけた。


「それにしてもダンジョンを攻略されたからってボスや仕掛けを変更するなんて卑怯だよね。これじゃあ伝説のダンジョン配信者の動画も意味ないし!」


 全く持ってその通りだ。普通ダンジョンマスターはダンジョンの仕組みを一度攻略されたくらいで変えたりしない。


 何故なら莫大なお金がかかるからである。


 でもこのダンジョンマスターは出し惜しみせずにダンジョンを改変した。よほどの負けず嫌いなのだろう。


 しかし、斬ってもダメ。魔法でもダメとしたら、何か謎があるのかもしれない。そこで絵美が天井に向かって呼びかけた。


「虚飾の魔王様。この扉の仕掛けについてヒントください。お願いします!」


 虚飾の魔王は嫌らしく笑いながら宣言した。


「いいぞ! その方が絶望を与えてやれるからな! その扉は斬撃でしか開けない。以上だ」


 それを聞いて舞花がブチ切れた。


「はぁ! ふざけんじゃないわよ! 斬って駄目だったからヒントくれって言ってんじゃない! 嘘吐いてんじゃないわよ! この卑怯者!」


 悔しがる舞花を遠くから眺めているのだろうか。虚飾の魔王は大爆笑した。


「あっはっはっはっはっは。その悔しそうな顔たまらないね! あと俺っちは嘘は吐いてない。もっとその足りない頭を使うことだな! あっはっはっはっは。げっほげっほげっほ……。む、むせた……!」


 なんかもうギャグ要員にしか思えない発言だ。思考回路が小学生なんじゃないだろうか。


 しかし、もっと頭を使えか、言われてみればただ斬ると言っても色々ある。もしかすると特定の斬り方をすれば開くとかそういうことだろうか。


 俺は舞花に指示を出した。


「舞花。色んな斬り方を試してみてくれ。もしかすると特定の斬り方のみに反応する仕掛けかもしれない!」


 舞花はパチンと指を鳴らした。


「卓也。あんた天才ね。よし。いっちょやってやろうじゃない!」


 舞花は勢いよく微塵斬りで斬り刻んだ。しかし、扉はびくともしない。その後も、虎乱刀や絶の太刀や燕返しなどありとあらゆる秘剣を試したが全く開かない。そこで絵美が何か思いついたように発言した。


「舞花。たぶん違います。日本で学んだ剣技では開きません。おそらく異世界での剣技が必要となるのでしょう!」


 絵美の言うことは的を射ていた。そうだ。ここは異世界だ。日本の剣技など虚飾の魔王が知るわけがない。だったら、おそらく異世界の剣技を試すしかない。舞花も納得して、剣術の構えを切り替えた。


「分かったわ! 中央大陸。西大陸。東大陸。全部試してやろうじゃない!」


 舞花は中央の剣技、西大陸の剣技、東大陸の剣技全部試したが、一向に扉が開こうとしない。


 ということは勇者流や剣聖流や虚無流もしくは魔王流なのかもしれない。もしくは他の独自流派の剣技かもしれない。


 これはもう詰みだ。お手上げだ。俺たちの使える剣技はおそらく設定されていないだろう。だが、俺は諦めたくない。ゲーマーのプライドに懸けてだ。


しかし、もう無理だと悟ったのか、レビアがけじめをつけるように言い放った。


「もういいよ。このクエスト諦めよう。わたしのせいでこれ以上迷惑かけるわけにはいかないよ。だから諦めよう、ね?」


 そこで俺は激怒した。


「レビア。ふざけるなよ! なんで諦めるんだよ! お前の夢はこんな所で終わっていいわけないだろうが!」


 俺は語勢を強めて続けた。


「それにな! 俺はゲーマーのプライドに懸けて、こんなところで諦めたりなんかしないぞ! 諦めるくらいなら最初から挑まない! 何がなんでもクリアしてやる!」


 俺の言葉に舞花も同意した。


「よく言ったわね。それこそ剣士の誇りよ! レビアわたしが絶対にクリアしてやるわ。だから絶対に諦めんじゃないわよ!」


 絵美もレビアを励ました。


「レビアたんは繊細だから諦めたくなる気持ちは分かります。でも攻略できない謎をあの虚飾の魔王が設定するはずがないと思うのです」


 確かに絵美の言う通りだ。あの負けず嫌いの塊が、クリアできない謎を設定するわけがないよな。そんなの虚飾の魔王としてのプライドが許さないから。


 レビアは涙を流しながらみんなにお礼を言った。


「ありがとう。みんなありがとう……」


 レビアは泣き崩れた。俺もちょっと泣きそうになったが、今は謎を解くことが優先だ。確かあの魔王は頭を使えと言っていた。ということは特定の剣技で開くなんて単純な発想ではないのではないか。


 俺はよく扉を監視した。扉は何の変哲もない扉だ。何処にも違和感なんかない。俺はこの中でおそらく一番賢い絵美の力を借りることにした。


「なあ? 絵美的にさ? この扉を開く方法って、他になんか思いつかない。もっといつもの柔軟な頭を貸してくれないか?」


 絵美は「うーん」と顎に手を当てて考え始めた。そして、扉に近寄りあちこち調べ尽くした。そして、扉と関係のない壁も調べてコンコンと叩き始めた。


 そこで絵美はポンと手を叩いた。


「舞花。扉の周りを綺麗に刀で斬り取ることできます? ほら、この壁おそらく魔力石だから最低攻撃力500以上のステータスがあれば斬れる気がするのです!」


 俺はあまりの柔軟な考え方に感心した。


「流石は絵美。その可能性は高いな。やってくれ! 舞花!」


 舞花は少し文句を言いながら、刀を構えた。


「みんなアタシを便利屋扱いしてんじゃないの! もう! やってやるわよ! てい!」


 舞花は壁の周りを綺麗に斬り刻み、扉だけを抜き取ることに成功した。そして、次の道が開けた。


 みんな一斉に歓声をあげた。


「やりましたね!」


「ああ。やったな!」


「うん。本当にありがとう舞花ちゃん」


「まあ。アタシにかかればこんなものよ!」


「いえ。絵美の手柄だけどな。お前は四割くらいしか活躍してないから」


「うっさいわね! ぶっ飛ばすわよ?」


 俺たちがわちゃわちゃやっていると、その瞬間、虚飾の魔王の悔しそうなアナウンスが聞こえた。


「ちくしょー! よくもクリアしやがったな。くそくそくそ! でもここで悩んでいるようじゃ次は無理だな。あっはっは。覚悟しとけよ! あっはっはっはっは。げっほげっほ……」


 本当にガキ丸出しの魔王だ。一体どんな姿をしているのか今から気になってきた。俺はみんなに告げた。


「よし。それじゃあ、先に進むか!」


 こうして俺たちは中層に試練もクリアした。


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