第72話『風竜バハムート』
次のエリアはボスの部屋だ。俺たちは三人に声をかけた。
「次はおそらくシャドウドラゴンとの戦いだ!」
俺は淡々と言葉を続ける。
「しかし、シャドウドラゴンは俺とレビアが一度討伐したボスモンスターだ。そう怖がることはない。いつも通り連携を取れば勝てない相手じゃない」
レビアは頷いた。
「そうだね。わたしたちもあの頃より強くなってるし、負ける要素なんてないよね!」
「ああ。絶対に大丈夫だ!」
そこで舞花が一つ不穏なことを言い出した。
「でもそう簡単に行くかしら? あの性格の悪そうな魔王のことだし。新たに罠を追加しているかも」
その件には絵美も賛同した。
「そうです。油断は禁物ですよ。きっとさっきイカサマされて凄く悔しがってましたからね。ああいう手合いは一度クリアされたダンジョンをそのままにしておくとは思えないのです!」
やはり舞花も絵美もダンジョンアタックでかなり洞察力が鍛えられている。確かにあの魔王がそのままにしているとは思えない。
だが、どちらにせよ進まなければどうしようもない。俺はふたりの言葉を肯定した。
「確かにふたりの言う通りだ。だとしても俺たちは進むしかない。だからみんな心して挑んでくれ!」
俺の言葉を聞いたあと、三人全員が頷いた。
「よし! 行くぞ!」
俺たちはボスの部屋の扉をゆっくりと開いた。
そこに鎮座していたのは【シャドウドラゴン】なんて可愛いレベルの物じゃなかった。
「あ、あれは風竜バハムート!!」
まさかのまさかだ。七神竜をダンジョンに用意していたとは、舞花や絵美の予感は当たっていた。
そして、虚飾の魔王の笑い声を響き渡った。
「あっはっは。俺っちが捕えてこのダンジョンで使役したんだ。あの伝説のダンジョン配信者とかいうふざけた名前の男に負けた腹いせにな。あっはっは!」
まさか伝説のダンジョン配信者の行動が俺たちにより高難易度な結果を生むことになるなんて、もしかすると、仮の俺たちがクリアしたら、次に挑戦する冒険者はもっと地獄な目に遭うのではないか。そう思うと、負けず嫌いも度が過ぎるとはた迷惑だと思った。
俺は虚飾の魔王に向かって言い放った。
「虚飾の魔王! ゲーマーのプライドを舐めるなよ! 俺はもう序列二位の水竜をソロ討伐しているんだからな!」
それを聞いた途端、虚飾の魔王は血相を変えたように激怒した。
「なんだと。ぐぬぬ。許さん! だったら風竜にバフかけちゃうもんね!」
俺はしまったと思ったと同時に好奇心が刺激されて喜んでしまった。そして、こう告げた。
「ああ♪ 最高だ♪ 最高だよ! 虚飾の魔王ベリアス!」
ベリアスはけらけら笑った。
「どうやら恐怖で頭が可笑しくなったようだな! でももう遅い! この地獄を堪能するがいい!」
そこで舞花が俺に釘を刺した。
「ねえ。卓也。あんたまさかまたソロでやりたいとか言い出すつもりじゃないでしょうね?」
俺はその言葉を否定した。
「いや。流石に虚飾のバフがかかった風竜相手にソロは無理だ。ここはみんなで行こう!」
三人は頷いた。そして、レビアが俺に近寄り耳元で囁いた。
「大人になったね。ルシフ。愛しているよ……」
俺は切ない気持ちが溢れ出しそうになった。そんな言葉を言われたら、もう頑張るしかないだろう。
魔装備を取り出し、ここで新調した魔剣をお披露目した。
【自尊の魔剣】という攻撃力350オーバーの超強力な魔剣だ。一か月の特訓でレビアに作って貰った。
それを構えて、俺はたった一言だけ号令をかけた!
「行くぞ!」
その瞬間、絵美がスキルを発動して、魔剣士ルシフを二人、聖女ガブリエラをふたり召喚した。
舞花も自前の【白竜魔刀】が進化した最強装備【炎虎の妖刀】を取り出した。これも一か月の特訓で新調した装備で攻撃力は400オーバー。どうやらレビアは攻撃力だけでは舞花に誰にも負けて欲しくないと願っているらしい。
まずは俺と舞花が敵前へ突っ込んだ。
「いくぞ! 遅れるんじゃないぞ?」
「それはこっちの科白よ!」
俺たちはふたりとも【新魔力強化・改】で物理特化に割り振った。今はとにかく魔力の消耗を抑えつつ戦う必要があるので、ここぞという時にしか【限界突破】は使えない。
一気に風竜相手に怒涛のラッシュで斬りつけた。
「はぁぁぁぁっ!」
「やぁぁぁぁっ!」
二人で交差するように何度も何度も斬りつける。ヘイトが溜まった風竜は羽を羽ばたかせた。
「ぎゃおおおおおおおおん!」
俺はすぐさま防御魔法【プロテクト】を使用して、地面に着地し俺と舞花を風のダメージから守った。後衛では聖女が同じように仲間に【プロテクト】を使用している流石だ。
防御魔法の効果が効いているうちに、俺はみんなに指示を出した。
「防御魔法の解除と共に、絵美はルシフ二人に虚無の禁忌魔法を頼む! レビアは俺と舞花に攻撃力アップの魔法札でバフをかけてくれ!」
「了解!」
正直、これほど心強い仲間がいたら、何処までもやれる気がする。俺は舞花の指示を出した。
「じゃあ。舞花。レビアのバフがかかったら、一気に免許皆伝奥義行くぞ?」
「ええ! 一発凄いのをぶちかましてやるわ!」
俺と舞花は【新魔力強化・改】で魔力特化に変換して、魔力をチャージした。
もうそろそろ防御結界が解ける。バハムートは何度も何度も暴風で攻撃しているが俺たちには少量しかダメージが入っていない。
そして、防御結界が解ける前にバハムートが少しばてた。その途端、少し早めだが、防御結界を解除させた。
「みんな行くぞ!」
まずは背後から魔剣士ルシフふたりが禁断魔法を発動した。
「「マジックバースト!」」
その圧倒的な虚無の巨砲は四つ、合計八つに分かれて、バハムートに直撃した。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおん!」
あまりのダメージにバハムートが怯んだ。俺はすぐにレビアに指示を出した。
「レビア頼む!」
レビアはふたつの魔法札はそれぞれ放った。
「パワーブースト×2!」
これで俺と舞花の攻撃力は最大強化された。そして、今度は【新魔力強化・改】を魔力特化から、物理特化に切り替えた。
「いくわよ! 卓也!」
「ああ! 風竜バハムート! 俺たちのゲーマーのプライドを思い知れ! ダークネスブレイカー!」
俺は虚無の奥義を放ったあと、舞花もすぐに奥義を解き放った。
「古今無双!」
虚無の斬撃の渦が四閃と、舞花の業火の一閃が風竜に襲いかかる。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおん!」
圧倒的なダメージ量により俺のダメージ感覚では削り切れたと確信した。その通り七神竜【風竜バハムート】は断末魔と共に、靄となってこの世から消え去った。
それを見ていたのか、上からまた煩いアナウンスが流れた。
「ちくしょー! やっぱり序列六位じゃ無理だったか! 次はもっと強い奴用意しているから覚悟しろ! お前らの装備と金は俺っちと世界のために消えるべきなんだからな。あっはっはっは!」
俺は口には出さなかったが、上空を睨みつけながら、心の中で叫んだ。
(そうはいくかよ! お前にゲーマーのプライドを思い知らせてやる!)
俺は強い決意を胸に、出現した宝箱にレビアたちが喜んではしゃいでいる姿が見えた。俺も中身は気になるが、これはほんの小手調べ。次はもっと凶悪なボスやら罠を出してくるに違いない。
警戒心とゲーマーとしての好奇心を同時に抱えて、俺は仲間たちに「そろそろ行くぞ!」と声をかけて、次のエリアへと向かった。




