第71話『じゃんけん』
ダンジョンを進むと、そこにはなんとカジノが会った。やはり伝説の動画配信者さんの言う通りだ。
ここのゲームをクリアしないことにはこの先へは進めない。そういうからくりだ。
俺たちはカジノに足を踏み入れると、急に声が聞こえてきた。
「ウェルカムトゥ冒険者諸君! 俺っちのダンジョンへようこそ!」
この声も織り込み済みだ。伝説の動画配信者の実況通りの展開だ。
この声の主は急に自己紹介を始めた。
「俺っちの名前は虚飾の魔王ベリアスだ!」
やはり声の主は虚飾の魔王だったか、俺たちは余計な口を挟まず冷静にベリアスの指示を聞いた。
「このダンジョンの上層の試練はじゃんけんで俺っちの手下に勝利するか、手下にも戦って勝つことだ。それができなければ失格とし、ダンジョンの外へと強制テレポートさせていただく、所持金は全部置いて行って貰ってね。にしし!」
そして、虚飾の魔王は続けた。
「さて最初のチャレンジャーは誰かな?」
そこで絵美が進み出た。
「ワタシが行きます! いいですよね?」
「ああ。もちろんだ。いつも通り頼んだぞ?」
「任せてください!」
何故絵美が進み出たのか、実は絵美はじゃんけんのイカサマの天才なのだ。ここは絵美に任せて大丈夫だろう。
絵美は前に出ると、手下であろう【デーモン】に頭を下げた。
「対戦よろしくお願いします!」
「ふん。来るがいい!」
傲慢なやっちゃなと思ったが、絵美はもう勝つ気満々らしい。ちなみに伝説の動画配信者さんは、ここで確実に勝つ方法はない。あえて負けて戦うことを選択していたが、絵美にその心配は要らないだろう。仮に見破られて負けてもそれはそれで俺としては戦えるので好都合だしな。
それに昨日の深夜会議でも「この試練だけは楽勝ですね」と余裕満々の絵美を浮かべていた。
絵美は余裕しゃくしゃくと言った様子で、拳を上に掲げた。同じように【デーモン】も拳を掲げる。
そこで虚飾の魔王からのアナウンスが入った。
「それでは開始!」
ふたりは一斉に声掛けをした。
「「最初は――」」
「グー」
そう【デーモン】がグーを出すと、一方絵美は――。
「パー」
はぁ? と【デーモン】は首を傾げた。そこで虚飾の魔王の怒りが飛んでくる。
「ふざけるな! こんなのイカサマだ!」
しかし、そこで絵美がこう言い訳をした。
「最初は必ずグーを出さないといけないと誰が決めました? 本来はじゃんけん。ほい。はずです。最初はグーなんて後から作られたしょうもないルールに過ぎないのでは?」
流石は絵美だ。虚飾の魔王も「ぐぬぬ……」と言いつつ、あっさりと認めた。
「確かにその嬢ちゃんの言う通りかもしれん。今後の対策を考えるとしよう。じゃあ先へ進め!」
絵美がピースサインで帰ってくると、俺たち四人それぞれとハイタッチを交わした。
「流石は絵美だな。凄かったよ!」
「本当にあんたはズル賢いわね!」
「絵美ちゃんって、すごく頭が柔らかいんだね。びっくりしたよ!」
そして、絵美はドヤ顔でもう一度ピースサインを決めた。
「当然です! 何故ならわたしは天才神絵師ですから!」
これには虚飾の魔王の一本取られたようで、カジノの先の扉が開かれた。
「さあ。先へ進むがいい! この卑怯な、クソ、バカ、カスな冒険者たちよ!」
やっぱり虚飾の魔王は何処か子供っぽい。それが面白いキャラをしているのだが、かつて世界を恐怖に陥れた魔王とは思えない雰囲気だ。
俺はみんなに声をかけた。
「よし。この調子でどんどん攻略するぞ!」
「ええ。もちろんよ!」
「やってやりましょう!」
「みんなで伝説の動画配信者さんに負けないように頑張ろうね!」
俺たちは上層の次のエリアへと進み出した。




