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第70話『レイルズエクストラダンジョン上層』

 レイルズエクストラダンジョン上層は思った以上に楽だった。なんせこちらには俺と舞花だけではなく、ゲーム原作の勇者ミカリスや剣聖ウリエスや魔剣士ルシフがいるのだ。しかも魔剣士ルシフは二人だ。


 こんな超強力なパーティーが完成したのも絵美のスキル【絵師】のおかげだ。


 こんなに強力な前衛が居れば、相手がAランクモンスターの大群だとしても楽に進めた。しかも体力が減ったらすぐにレビアが回復魔法札で回復してくれる。


 絵美も召喚時間が切れたら、即座に再召喚している。


 こんなの負ける要素がひとつもない。


 俺は目の前のAランクモンスター【ハイリザードマン】相手に、横一閃の二太刀を浴びせた。


「ぐがぁ!」


 敵は即座に倒れ、俺はすぐに聖水をかけた。それにしても、まだまだ敵は前方から向かってくる。体力をセーブしながらじゃないと持たないかもしれない。


 俺はいつものようにハイテンションで浮かれて飛ばし過ぎることなく、安定して戦いに向き合えている。


 俺もダッサイの件で少しは成長したのだ。テンションを上げるのは強敵の時だけでいい。それ以外は軽く流す。そういう小手先の技術が分かってきたのだ。


 それもダッサイのあの冷静な戦い方を研究できたからだろう。


 俺は焦らずはしゃがず淡々とモンスターを倒していく。


「しゅ!」


「ぐぎゃ!」


 それでも大群の押し寄せる数は減らない。胸に静かな好奇心と闘志を燃やしながら、ただひたすら目の前の敵に集中する。


 俺は微塵斬りや虎乱刀や絶の太刀や燕返しなど奥義ではない秘剣で勝負していた。ダッサイ戦で理解したのだが、奥義や魔法は強力だが魔力を激しく消耗してしまう。あの時も絶の太刀を選んだのは技量だけで戦うダッサイへのリスペクトだっただが、こういつ雑魚モンスター相手だと奥義や魔法はギリギリまで温存して技量で攻めた方がいい。


 だから俺は【魔力強化】さえ使っていないのだ。純然たる技量のみで勝負している。


 斬る。断末魔。聖水。その作業とも言える戦闘だが、俺はその一戦、一戦に真剣に向き合っていた。


 相手モンスターの命がけなのだ。ならいくらこちらが強くても真剣に向き合わなければ失礼というものだろう。


 ざっと千匹は倒しただろうか。ちょうど上層の中腹の休憩ポイントがあったので、そのエリアに足を踏み入れて、俺は仲間に声をかけた。


「よし。ここで一度休憩しよう。あんまり飛ばして後でバテたら元も子もないからな」


 その意見に舞花も賛同した。


「その通りね。休める時に休むのも一流の剣士に必要なことだわ」


 レビアと絵美はハイタッチした。


「やっとふたりで用意したお菓子をみんなで食べられるね!」


「うん! 苦労した甲斐があったよ!」


 彼女たちは俺たちふたりにクッキーの入った透明の袋を差し出してきた。


「はい。体力回復効果のあるポーションクッキーだよ!」


「ワタシもスキルで他の高位の錬金術師を召喚して手伝ったんですよ!」


 ふたりの傑作というわけか。俺は笑顔でそれを受け取った。


「ありがとう。これでエネルギーを回復できるよ」


「ホントに助かるわ。こういう細かい栄養補給が一番大事だったりするからね」


 舞花の発言の俺も同意した。


「そうそう。伝説の配信者さんも同じこと言っていたからな」


 本当にあの人は何者なのだろうか。あの達観したような攻略っぷりまるでこの世界の仕様を知り尽くしているかのようだ。


 おそらく何度もトライ&エラーを繰り返して、安定してクリアできるようになってから配信しているのだろうが。


 その努力の量はどれほどの物なのだろうか。それを考えただけで自分の至らなさを本気で思い知らされる。


 俺はクッキーを食べながら、楽しそうに語る三人の女子を眺めていた。彼女たちを果たして守り抜けるのだろうか。


 自分の至らなさを間近に体験したせいで、どうも少々弱気になっているようだ。俺はただの子供だった。何も知らないガキだったのだ。


 ゲーマーのプライドだとか、散々バトルジャンキーとして戦闘を楽しんでいたが、俺にはゲーマーとしてのプライドはあっても、戦う者としての誇りがなかったのである。


 それを強く自覚させてくれたレビアやダッサイや舞花には感謝してもしきれない。俺の手で守れる命がある。その肯定感が俺を支えてくれてはいたが、やはり人の命を奪った重みが常にのしかかっている。


 それが持ち前の好奇心やプライドやテンションを制御するブレーキとして働いている。


 ただそれでも俺はまた人を、ダンジョンマスターなので、生き返ると分かっていても【虚飾の魔王】の命を奪えるのだろうか。


 俺は破滅フラグを最初からぶち壊したとか言っていたが、ミカリスたちは常にこんな命の重みと向き合っていまでも本編ルートを戦っているのだ。


 どうしようもないクズ勇者だが、命を奪う覚悟が出来ている勇者パーティーは俺なんかよりよほど精神的に強い。


 でも人の命を奪うことに何も思わなくなるのも違うだろう。奪った命を背負う覚悟が必要なのだ。


 うじうじ悩んでも仕方ない。俺はもう大切な者を守るためなら、敵の命を奪うことを躊躇わないと誓ったのだ。


 まだ思春期の揺れやすい心には重たすぎる現実だが、子供だから仕方ないなんて言い訳にはならない。


 大人だろうと子供だろうとこの世の中は食うか食われるかの弱肉強食の厳しい世界なのだから。


 再び響き渡る三人の笑い声がとても尊く大切な物だと強く自覚させられる。


 守り抜こう。何処までも。俺はこの命に換えても仲間だけは守る。その想いだけは、その静かなる魂の猛火だけは消してはならないのだ。


 俺はクッキーを噛みしめながら呟いた。


「ああ……。美味いな……」


 その数十分後。俺たちは軽く仮眠をとってから、再び上層のモンスターの群れの中へと挑んでいった。


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