第67話『幼馴染たちとの特訓』
この一か月はまるで夢のように幸せな日々だった。それは何物にも代えがたい体験。そう四人パーティーでのダンジョン攻略である。
まるで歯車が嚙み合ったように、俺たち四人のパーティーは連携が取れていた。
前衛は俺と舞花が担当し、中衛は絵美、後衛はレビアという陣形だ。これが思った以上に相性が良くて、下手すると原作の聖女や賢者や剣聖よりもいいのではと思うほどだ。
まず新しく入った絵美のユニークスキルは【絵師】という能力だ。それがただ絵を描くだけではない。絵を具現化して、召喚獣やら他のキャラクターを召喚できたりする。その数は四人までという制限があるが、これで実質八人パーティーが組めるわけである。
正直俺の【傲慢】より万能感があるし、自在にどんな召喚獣やキャラでも産み出せるという能力はもう他のゲームで言う召喚士に近い。つまりゲームでいうところの最強キャラ候補なのだ。回復魔法。攻撃魔法。防御魔法。奥義なんでもござれだ。しかし、それは作中に登場するキャラに限られる。
つまり、聖女も剣聖も賢者も勇者も、もしくは原作の魔剣士ルシフを四人ほど呼び出すこともできるというチートっぷりだ。
四人という制限を外したらチート過ぎて、運命からアップデートで修正が入るほどの能力だ。いや、もうすでに今の時点でチート過ぎてアプデ修正して欲しいくらいだ。
つまり召喚できる絵美。
どんなマジックアイテムも自在に使いこなし、これはこれでなんでもできてしまうレビア。
俺以上の攻撃力を誇り、物理面で剣聖すら凌ぐほどの実力を有している舞花。
そして、前衛も中衛も後衛もこなせて、ユニークスキル【傲慢】の効果で奥義や魔法を四回連続で使用できる俺。
なんか俺が一番地味に見えるが、あの超高火力の【ダークネスブレイカー】や【マジックバースト】が四連続で使用可能なのだ。
しかも防御魔法を四連重ねで完全無効化でき、リヒールなんかと合わせたらほぼパーティー全員がゾンビ状態になれるのだ。
それだけでも地味にだが、他の三人にも負けていないと自負したい。何より俺には誰よりも磨き抜かれたゲームセンスやダメージ感覚やゲーム内での知識がある。
だが、そのゲーム内の知識というアドバンテージもあまりないというか、動画で知識を拡散する実況者たちのせいでこの世界の人間は自分たちの世界の仕組みについて詳し過ぎるのだ。
俺も風の噂でミカリスが苦戦しているという情報を聞いていたので、俺がやっていた序盤だけチートなレベリング法を動画実況者に教えたりしていたのだが、逆に言えば、それは魔人軍を強化させてしまう結果にも繋がったと思う。
まあ。要するにだ。俺なんて全然大したことがないというわけだ。このユニークスキル【傲慢】が無ければ、ただのステータスがやたら高いだけの凡人だ。
しかも絵美みたいにユニークスキル以上の強力な神スキルを持つ奴もたくさんいる。つまり上には上がいるのだ。比喩抜きで。
だからこそ日々の努力と訓練の積み重ねが他との差をつける唯一の武器だ。
もし、仮に【魔王ルシフ】の最終形態【傲慢の魔王】が使えたら、もっと強くなれるのだが、その方法は闇堕ちという精神的に甚大なリスクを伴う。
そんなことしてまで、俺は強くなりたくない。楽しく、でも全力疾走するみたいに楽しめた方が絶対にいいのだ。
その【傲慢の魔王】を疑似的に使える方法については前から模索しているのだが、なかなか掴めそうもないので、それについてはもう諦めて別の視野で強くなる方法を模索していた時ちょっとだけ母さんが助け舟を出してくれたおかげで新たな奥義も習得した。
それにしても、この強力な異世界人がかき乱す世界は異常だ。俺はいつかこのゲーム世界の原作へのリスペクトすら感じられない神的な存在にゲーマーのプライドを思い知らせてやりたい。なんとなくそう考えつつ、ひたすら高みを目指した。この一か月は本当に楽しかった。毎日、毎晩ダンジョン漬け生活だ。こんな夢物語のような生活ができるなら、もういっそのこと死んでもいいくらいだ。
というわけで一か月経ったので、準備は万端で、ステータスや装備も万全なので、絵美の泊まっていた宿で俺たちはダンジョン配信者の動画を夕食後からしつこく研究するという、修羅の道を歩んでいたら、あっという間に三人が寝落ち。
それで俺ひとりだけが残された状態というわけだ。
美少女三人が隣で寝ているこの状況。思春期男子としてはご褒美に違いないが、ばれたら後が怖いので手を出すわけにはいかない。
というか、レビア以外に手は出すつもりはない。それをしたら最大の裏切りだからな。
でも若い女子が三人寝ているというこの状況は風紀的にも精神的にも非常によろしくない。
もうドキドキを通り越して別の意味で脳汁がドバドバ出ている。こんなの耐えられるわけがない。
一刻も早くこの場からすぐに離れよう。そう思い立ち俺はトイレに入ったあと、自分の部屋へと戻って寝ることにした。その時、扉の向こうから何か話し声が聞こえた。
「なぁ? あいつが脱走してこの街に来ているらしいぜ」
「マジかよ。この街大丈夫なのか?」
と男のホテル員たちの噂話しが聞こえた。よく分からないが何か大変な事態があったらしい。だが、俺たちには関係ないことだ。だってそれはこの街の兵士たちの仕事なのだから。
とにかくこれ以上の夜更かしは良くない。俺はすぐにベッドにダイブして深い眠りについた。




