第65話『第二の幼馴染転移者』
俺たちは絵美に会いに行くためにレイルズの街へとやってきていた。周囲は何処も石造り、所々現代風味も感じられるがベースは中世ヨーロッパ風の都市だ。
俺の知っている原作ゲームの世界よりちょっと進化している感じがする。ダイスの街より幾分かお洒落だ。
「うわぁ! 綺麗な街だね!」
「でしょ? アタシもこの街に住んでいたの! 絵美の宿も教えるわ!」
「ああ。ありがとうな!」
舞花に連れられるままに歩き出す。本当に洗練された街だ。しかも所々にハンバーガーちゅきちゅき先生のイラストがあちこちに看板として張り出されている。
しかも異世界なのにアニメイラストである。つまり二次元の絵なのだ。俺はなんだかテレビやアニメ作品で何度か見かけたオタクの街を思い出した。
あそこまでって言うわけではないし、今時どの街にもアニメイラストが張り出されていたが、絵美の絵だらけということは、この街でも絵美は相当優遇されているのだろう。
なんて感慨に耽っていると、舞花の元気のいい声が聞こえてきた。
「ここよ!」
その宿を見るなり、俺は腰を抜かしそうになった。
「この宿めっちゃ豪華じゃん!」
そうまるでお屋敷のような宿だ。俺の屋敷よりよっぽどデカい。まるで金持ち以外男お断りという雰囲気が溢れ出している。隣を見やるとレビアも同じくビビっているようだ。まさに俺たちは田舎のおのぼりさんと言った感じだ。
舞花はそのまま「行くわよ」と俺たちに号令をかけて宿に直進していった。俺たちも気圧されながらも、その宿へと足を踏み入れた。
その中はさらに高級感で溢れていた。あちこちに芸術品が立ち並び、絵美のイラストもたくさん置いてあった。
そして、舞花は臆することなく受付カウンターへ向かうと、受付さんに礼儀正しい対応を見せた。
「すみません。アタシ春宮絵美の友人の夏木舞花と申す者ですが、彼女に会えるかどうか、聞いてくれませんか? 冒険者カードでは、もう連絡は送ってあるのですが」
そう実は冒険者カードにはメールやチャット機能があり気軽にメッセージのやり取りができる。
まあ。ミカリスたちはずっと前に『もっともっと努力して、絶対にお前を超えて、分からせてやる』とかきっしょいメールが届いてからはブロックしている。
一応、舞花やレビアとも登録しているが、俺自体チャットとかメールとか苦手であまりやらないので、舞花やレビアのチャットやメールは二日遅れで返信とかよくある。
ちなみに舞花にそれを前世から指摘されて、報連相くらいちゃんとしなさいと毎回叱られている。
それにしても絵美ってもしかしなくても、この異世界では勝ち組なんじゃないかな。アニメイラストが描けて、街の看板に使われているとか、俺の収入が毎月金貨十五枚から二十枚として、絵美はその三倍は稼いでそうだ。
まさに異世界イラストチートである。
舞花が受付とやり取りをしている間に俺は冒険者カードでレイルズエクストラダンジョンの攻略動画を見ていた。もちろん投稿主はあの伝説のダンジョン動画配信者だ。
どうやらレイルズエクストラダンジョンが原作と少し様子が違っているらしい。知識系の難問が多く、頭を使わないといけないらしい。
しかも絵を描くというクエストもあるらしく、伝説の動画配信者はAIイラストを使用して突破していた。
しかし、一般的なアプリにはまだ生成AIはリリースされていない。ということは自分でプログラムを組んだのか。
前世はプログラマーとか言っていたし、自力でアプリ制作とか可能なのかもしれない。
だったらゲームアプリを出して欲しい物だけどね。この人は自分専用のダメージ計算機や乱数調整ツールなども持っており、まさに異世界プログラマーチートを地で行っている。
俺はやる側の人間なので、プログラムとかの知識は全くないが、ダメージ計算や乱数調整はしこしこやっていたので、自然と感覚で分かるまでにはなっている。
おそらくこの動画配信者はゲームを何度くらいしかやっていないのだろう。俺なんかこのゲーム100回周回しているからね。
しかし、ゲームと違うダンジョンでも何故こんな事前に分かっているかのように冷静に対処できるのだろうか。本当に不思議である。
俺が動画視聴して待ち惚けていると、三十分後にようやく絵美がやってきた。その井出たちは黒いボブヘアに緑のベレー帽を被っており、体格は小柄ながらなんか前より肉付きがよくなって成長している。服は緑のマント、白のシャツ、黒のミニスカート、黒の二―ソックス、茶色のブーツと異世界風に合わせてお洒落している。あのダサい緑のジャージばかり着ていた彼女は何処へ行ってしまったのだろうか。
俺は思わず見惚れてしまい、それを察知にしたのか、隣のレビアに足をじりじりと踏んづけられた。うん。地味に痛いね。
俺は嫉妬深いフィアンセのために、気を引き締めた。絵美はまず舞花に挨拶した。
「舞花。お久しぶりです。元気そうですね」
「まあね。それよりあんたに前にメールで言ったわよね。あいつがルシフに転生して来ているって!」
「えっ!? それって……」
俺は絵美の前に進み出て、手を挙げた。
「よう! 久しぶり!」
すると、感極まったように、絵美は涙を流しながら俺に抱き着いた。
「卓也。卓也なんですね! ああ……。卓也……。本当に会いたかった……。うぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
俺も思わず心がポカポカした感じがして、絵美の頭を優しく撫でた。
「うん。俺も会いたかったよ。絵美……」
ふたりで抱き合っていると、急に背後から俺の身体をレビアが引っ張った。
「ちょっと離れて! ルシフはもうわたしの彼氏なの! いくら前世の幼馴染だからって渡さないんだから!」
嫉妬して激おこなレビアだが、その姿を見た瞬間、絵美の鼻息が荒くなり、今度は俺からレビアに抱き着いた。
「レビアたんです! レビアたんがここにいますぅぅぅぅ! ああ。レビアたん可愛いですぅ。くんか。くんか。くんか……ああ、いい匂い……」
「え、やあ、ちょっと待って、何なのこの人やめてよ! 抱き着かないでこの変態!」
「ああ。いいですねぇ。もっと罵っていじめてください。足で踏んでもいいのですよ? はわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
これはアカンやつだ。完全に女オタクの欲望が爆発している。ハンバーガーちゅきちゅき先生、つまり絵美の最推しはレビアなのだ。
そりゃあ自分が描いたキャラと対面できるなんて、イラストレーターからしたらそうなる気持ちは分かるが、俺の彼女に興奮するのはそろそろやめていただこう。
俺は絵美に近寄り、その背中をレビアから引き離した。
「おい。やめろよ。絵美。レビアは俺の彼女なんだ。変なことしないでくれ!」
その言葉を聞いた瞬間、絵美はぴきんとフリーズした。
「へ? へ? レビアたんと卓也が恋人。な、な、なんですとぉぉぉぉぉ!!」
絵美は頭を抱えてうずくまった。
「うわああああああああああああああ! まさか卓也に、卓也に、レビアたんを寝取られるなんて、屈辱ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! でも卓也に恋人ってそれもそれでショックですぅぅぅぅぅ! この複雑な感情をワタシはどう処理したらいいのですか! うああああああああああん!」
なんかとんでもないことになってしまったな。その後、絵美を宥めるのに、約二時間を費やすことになった。




