第62話『勇者視点~勇者ミカリスの敗北~』
仲間に励まされて僕は立ち上がり無能の魔人であるグレイの根城までやってきた。扉の前で僕は仲間たちに発破をかけた。
「いいか? お前ら? 僕らに敗北は許されない! 人類にとって勇者パーティーなど異世界人の劣化でしかないからだ!」
そして、僕は極上の憎悪を込めて続けた。
「だが、奴らの本質は侵略者だ。この世界の敵なんだ。あんな目障りなゴミを駆逐するために、僕らは今日も剣を取る! 僕たちこの世界の人間の――勇者パーティーの底力を今日も証明してやるぞ!」
仲間たちは無言で頷いた。その視線には強い信頼を感じる。仲間がいれるなら僕はやれる何処まで闇に堕ちて復讐心からメンタルが崩壊しても戦い続けられる。
僕は絶望にすら反逆するつもりで、魔人の玉座の間を開けた。僕は復讐から目を背けない。ルシフや異世界人をこの手で殺す日まで止まるわけには行かないんだ。
そこには灰色の髪の赤い瞳美男が玉座にふんぞり返っていた。その背中には黒い翼が生えている。まさに堕天使に相応しい姿だ。
僕はグレイに切っ先を向けた。
「無能の魔人グレイ。貴様を潰しに来た。その無価値な命をこの僕が摘み取ってやる!」
グレイはくつくつ嗤った。
「君がかい? 客観的に考えて無理だと思うな。だってステータスが圧倒的に足りないもの。ねえ? 知っている? 今の魔人軍は本来の強さから何倍も強くなっている。異宝石と呼ばれる物質を改良した魔人石という結晶のおかげでね!」
戯言を抜かすグレイを僕は睨んだ。
「無駄口はいいからかかって来い。貴様のその薄っぺらい舌ごと切り刻んでくれる!」
グレイは相変わらずニヒルにくつくつ嗤った。
「まあ。無理だと思うけどね。暇潰しにはなるかな。かかっておいでよ?」
相手の挑発に憎しみの焔を灯し、僕は全力で特攻した。
「黙れ。黙れ。黙れ! みんなこの皮肉野郎を絶命させるぞ!」
俺は手始めに通常攻撃、空高く飛翔してから袈裟懸けに剣を振り下ろした。しかし、その一撃はなんとグレイは人差し指一本で止めた。
「軽いね。ステータスが全く足りてない。せっかくの聖剣が泣いているよ?」
「うるさい! はぁっ!」
僕は奴の指に掴まれたまま勇者流初級奥義【セイントブレイク】を使用した。圧倒的な光の巨剣が敵の指を斬り落とした。だが、グレイはすぐにその肉体を無詠唱の【リザレクション】で回復した。
グレイは呆れたように大袈裟に身振り手振りをした。
「話しにならないね。指を斬り落とせたことは褒めてあげる。でもそれは君の聖剣の効果であり君の強さじゃない!」
「くっ……」
僕は言い返せなかった。明らかに奴の方が僕よりステータスが上なのは明確だ。そこで背後から聖女が僕にバフをかけてくれた。
「パワーブースト! ミカリスこれでもう一度攻撃を!」
そこでウリエスも戦闘に参加した。ウリエスは自慢の【宝剣】を振り回し、ウリエスに剣聖級免許皆伝奥義【フラムベルジュ】を発動させた。ウリエスは【宝剣】をジグザグな炎剣へと変化させて、ジグザグに動き、その圧倒的な灼熱で敵に横一閃を繰り出した。
「食らえ!」
猛烈な至高の一撃。だが、それすらもグレイに手持ちの灰色の剣で軽く弾かれてしまった。
「くはは♪ 弱い。弱すぎる♪」
ウリエスは一瞬恐怖で怯んだ。僕はすぐさま発破をかけた。
「立ち止まるな! 戦え! ウリエス!」
しかし、その判断は遅く、グレイの剣がウリエスの胸を貫いた。ウリエスは口から大量の吐血をしてその場に倒れた。
「ぐはぁ!?」
ユニークスキル【堅固】のおかげで一命は取り留めているのは理解している。だが、僕は僕の仲間を傷つけたグレイにありったけの怨念を込めて吠えた。
「グレイ!! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は土壇場のピンチで【正義】のユニークスキルが発動。ステータスが二倍になり、さらにそこに【魔力強化】を重ね掛けした。
今までこの方法で敵を葬り去ってきたのだ。ラストアタックは賢者の大魔法に頼ればいい。ちょうど賢者も魔力の質を最大まで高めていることだろう。
僕はありったけの全力を込めて勇者流免許皆伝奥義【ブリリアントソード】を発動した。僕の身体の周囲に圧倒的な光の魔力が迸り、一定時間敵の攻撃を受けつけない無敵モードへ突入する。
この圧倒的なチート奥義で俺は何度も何度もグレイを斬りつけた。憎しみ。怨念。憎悪。嫉妬。暴虐。嗜虐。破壊衝動。復讐心。全ての負の力を光変えて、僕はグレイを斬り刻む。
しかし、グレイは余裕の態度を崩さなかった。
「なかなかやるじゃないか。でもそろそろ無敵時間も終わりかな?」
グレイがそう悪魔の囁きをした瞬間、僕の無敵状態は解除された。そこでグレイに僕は心臓を灰色の剣で突き刺された。
「ガハァッ!!」
まるで命の全てが消失していく感覚。僕はこの時グレイの最後の言葉を聞いた。
「期待外れだったよ。勇者ミカリス。もっと自己研鑽に励んでからボクを楽しませてくれよ。この程度なら退屈凌ぎにもならない」
僕はその言葉を耳にしながら、悔しさと後悔のまま地獄の底へと突き落とされて、この命を落とした。




