第60話『夢への前進』
俺たちは七神竜の一匹【水竜リヴァイアサン】を討伐したことにより、ギルドから金貨六十枚支払われた。俺と舞花は五枚ずつ、レビアに五十枚渡した。
レビアまたしても申し訳なさそうにしていたが、それだけ俺たちはレビアの夢に期待しているんだと言い聞かせたら受け取ってくれた。
そして、成果物である【ユニコーンソード】を納品するために三人でギルマスの部屋まで訪れていた。
レビアは【収納リュック】を母に渡した。そこには理想値+3の【ユニコーンソード】が納品されており、母は満足そうに微笑んだ。
「やるじゃないか。レビア。まさか二本も納品してくるなんてね。しかもどれも理想値ときた! これは金貨百枚渡すしかないね! ちょっと待ってな!」
「は、はい!」
母は金庫から金貨百枚を取り出し手提げ袋に入れた。そして、レビアまで近寄りそれを渡した。
「ほら金貨百枚だ。夢まであと金貨五十枚だね!」
「はい! ありがとうございます!」
そこで母はにやりと俺を見つめた。
「それとルシフ。あんたあの七神竜の一匹を討伐したそうじゃないか。こりゃもう歴史的偉業と言っても差し支えない。本来ならSランクにしてやりたいんだが、あんたの場合最速でAランクになったからね。あと数か月まで昇級は先送りだ!」
俺はきっぱり答えた。
「別に称号とか名誉とかどうでもいいから別にいいよ。でもSランクになったらさらに高難易度のクエストや隠しダンジョンに挑戦できるんだろ? 俺的にはそっちの方が楽しみだな!」
俺の呑気な発言に母は大爆笑した。
「あっはっはっはっはっは! やっぱり家の息子は只者じゃないね! こりゃ成功者人生確定だ!」
「だから成功者とか興味ないんだってば!」
俺が必死に弁明すると、母ははっきりと言い切った。
「そういう野心のない奴が意外と成功するってケースはごまんとあるのさ!」
そこで舞花が追い打ちをかけてきた。
「あんたそういうところ本当に変わってないわね。自分がどれだけ凄いことしたか自覚がないってところが、ほんっとむかつくわ!」
さらにレビアも加勢する。
「うん。目立ちたくないとか言って、自分から無自覚に偉業に立ち向かっていくところとか、矛盾の極みだよね。しかも、周囲の反対を押し切ってもやるんだから。こんな凄い人が何かを成し遂げない方が可笑しいよ!」
「そ、そんなぁ……」
俺はがっくりと肩を落とした。
褒められているのか、貶されているのかよく分からない言い方をされたが、俺は本当に成功とかあまり興味がないのだ。
それより今よりもっと強い奴と戦いたい。その想いだけで突っ走っているのに。その結果必要以上に目立っちゃうんだよな。
本当にガチのマジで面倒臭いから、田舎から移住するのだけは辞めておこう。
俺がそう決意を改めていると、母は急に深刻そうに考えたあとに、俺らにあるQRコードを差し出してきた。
「あんたら? 西隣の街にある隠しダンジョンに挑戦してみないかい?」
俺はその言葉にぴくっと反応した。
「それってレイルズの街の近くにあるレイルズエクストラダンジョンのことだよね?」
「ああ。そうさ。今のあんたたちにあと一人凄腕の冒険者が加われば、おそらくレイルズエクストラダンジョンもクリア可能だろう。どうだい。やるかい?」
レイルズエクストラダンジョン――。難易度で言えばS級。クリア後のエクストラダンジョンでも難易度高めであり、ある意味七神竜を討伐するより難しい。
俺は一応、ふたりに確認を取った。
「俺はもちのろんでやりたいんだけどさ。ふたりはやれそうか?」
すると、レビアも舞花も頷いた。
「もちろんだよ。これでお店の資金が通常の倍近く稼げそうだし!」
「剣士として断る理由はないわね。絶対やるに決ってんでしょうが!」
話しは纏まった。俺は母に宣言した。
「みんなの意見は一致したし、トライするよ!」
母はふっとニヒルに笑ったあと、俺たちにQRコードを差し出す前にひとつ条件を付けくわえてきた。
「だったら隣街の女性絵描きを仲間に入れな。彼女は異世界人で、そのスキルは超強力だ。きっとあんたらの力になってくれるだろうさ!」
女性絵描きという単語で俺はピンときてしまった。
「なあ? 舞花。それってもしかして――」
舞花はにかっと笑顔で首肯した。
「ええ。その通りよ。その絵描きはアタシたちの幼馴染、ハンバーガーちゅきちゅき先生こと春宮絵美よ!」
「やっぱり絵美か! うおおおおおおおおおおお! 原作絵師が転移とか最高の展開じゃんか!」
まさか絵美がこの世界に来ているとは。この異世界の元となったゲーム原作の製作者であり、創造主のひとりとも呼べる絵美が来ているということは、この異世界の神とやらはどうやら本気で世界を滅茶苦茶にしたいようだ。
これはますますやりがいがあって脳汁がドバドバ溢れ出てきた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 早速絵美に会いに行こう! それでレビアの夢もゴールインさせる! それで決まりだ! 異論はないよな?」
「もちろんよ。絵美が来たらもう鬼に金棒ね!」
「わたし的には前世の幼馴染ってちょ~っとだけ嫉妬しちゃうけど、ダンジョン攻略に必要だもんね。だからもちろん賛成だよ!」
俺は「くぅぅぅぅぅぅぅ」と震えながら、空に拳を突き上げた。
「よし! やろう! 絵美を仲間に加えて、みんなでレイルズエクストラダンジョンクリアするぞぉぉぉぉぉ!」
「「おお~~!!」」
こうして、俺たちは次なる隠しダンジョンへの挑戦を決意した。




