第58話『一角獣ユニコーン』
本日はこれでラストです。
ホープ村を旅立ってから、五日後。俺たちはユニコーンの湖のある禁断地域まで来ていた。ここはBランク以上の冒険者しか入ることができない。つまりはエンドコンテンツ級というわけだ。
俺のやりたいことに、レビアのやりたいことが重なるなんて、本当に幸せなことだ。
禁断領域の札をくぐり抜け、ユニコーンの湖まで来ていた俺たちは、後ろの木に隠れて、舞花に囮になって貰う作戦だ。
舞花がちょっとサービスするように、靴を脱いで足をみせびらかしている。相変わらず破廉恥な悪戯をして男子の心をからかってくるドS女だ。
ちょっとの綺麗に太ももに鼻の下を伸ばしていると、レビアに耳を引っ張られた。
「嫌らしい目で見ないの!」
「す、すみません……」
まるで純真な少年の心を持つユニコーン君をたぶらかす行為だが、ユニコーン君は生娘が好きだと言っていたが、あんな破廉恥なお色気サービスをする女の元へ現れるのだろうか。
などと心配する間もなく、湖の奥から一本角の巨大な馬が現れた。全長三メートルはある。舞花はすぐに靴を履くと、俺たちに号令をかけた。
「今がチャンス! 一気にたたみかけるわよ!」
「「了解!」」
舞花はバックステップで距離を取り、ユニコーンは俺たちを見るや否や怒りの声で荒れ狂った。
「ひひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
どうやらかなりお怒りのようだ。そんなに恋人同士が許せないのか。なんだか非モテの陰キャ君みたいな奴だなと、かつての自分を思い返して、ちょっとやるせない気持ちになった。
ユニコーンは荒れ狂い、先ずはその角でレビアを狙おうとしてきたので、俺はすぐさま防御魔法を展開した。
「ガードウォール!」
これにより四枚の魔法壁が出現し、一度目のユニコーンの攻撃を完全無効化した。その瞬間にレビアに指示を出した。
「レビア! デバフの魔法札だ!」
レビアは頷いた後、胸元から二枚の札を取り出して魔力を込めた。
「弱体魔法ガードダウン。マジックダウン!」
すると、ユニコーンに紫の魔力エフェクトがかかり、防御力と魔法耐性が下がったことを確認した。
ユニコーンは怒り狂い、激流のブレスを吐いてきた。しかし、魔法壁が二度目の攻撃を完全無効化する。
俺は再びレビアに指示を出す。
「次は俺と舞花にバフをかけろ!」
レビアは「うん」と囁いて、ポケットから二枚の札を取り出した。
「パワーブースト! マジックブースト!」
これで俺には魔法威力アップ。舞花には攻撃力アップのバフがかかった。
ユニコーンはいよいよ焦り出し、大地を揺らして、禁断魔法【グランドクラッシャー】を発動させた。
しかし、魔法障壁がその魔法すら完全無効化する。まさにユニークスキル【傲慢】さまさまだ。火力だけじゃなくて、防御にも応用が利く。だからこのユニークスキルはぶっ壊れ性能なのだ。
そして、敵の攻撃が止んだ瞬間。俺は最後にレビアに号令をかけた。
「最後は炎の属性倍化の付与を頼む!」
「うん。分かった!」
レビアはポケットから、魔法札を取り出し、魔力を発して行使した。
「フレイムブーストエンチャント!」
舞花に炎属性の魔力が二倍で付与される。本来ならユニコーンは水属性。しかし、いま舞花が装備している【白竜魔刀】は、炎属性を三倍にして、さらに相性まで無視するという破格の性能だ。
これで全ての準備が整った。ユニコーンは最後の悪あがきにもう一度角で突進してきた。そして、四度目の魔法壁が防ぎ消えた瞬間、パーティーメンバーは隊列を作った。
レビアが後衛。俺が中衛。前衛は舞花だ。
まずはレビアが最高火力であり、相手の弱点となる風の禁断魔法を発動した。
「行くよ! ハリケーン・ブラスト!」
圧倒的な嵐に巻き込まれて、ユニコーンは猛ダメージを受けた。嵐が竜巻上で自分に直進してきたというのに、奴は平気で踏ん張っていた。流石はエンドコンテンツ級である。
続いて、突進しようとするユニコーンに俺は即座に【新魔力強化・改】で魔力にステータスを特化し、無属性の禁断魔法を発動した。
「ユニコーン! ゲーマーのプライドを思い知れ! マジックバーストォォォォ!」
バフとデバフとさらに自身のステータスアップと魔力操作技術により、圧倒的に巨大でありながらも凝縮された魔力砲撃が【ユニコーン】に襲いかかる。その暴力的な魔力の渦に飲まれて災厄なる一角獣の生命力を四割は減らせただろう。これで合計六割は敵の生命力が削れたことになる。
これでどうやらラストアタックのようだ。本来ならラストアタックは頂戴したいところだが、今回の最大火力は舞花の方が上なので、後は彼女に任せて発破をかけた。
「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ! 舞花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
俺の叫び声と共に、舞花は【新魔力強化・改】を物理特化に操作した。そして、手持ちの刀にありったけの炎属性の魔力を注ぎ込み、それを鞘へと納めた。
ユニコーンは本能的に恐怖を感じたのか、舞花に向かってその暴虐なる一角を突き立てながら、彼女に向かって全速力で突進した。
舞花は焦ることなくすぅと深呼吸をしてから、静謐なる眼光で敵を睨みつけた。
「剣士夏木舞花。最大の秘剣により、貴公を一刀両断しよう。いざ参る!」
舞花は圧倒的な神速を超えるほどの速さで逆袈裟懸けに刀を抜刀した。その業火なる居合の斬撃は相手の角にクリティカルヒットした。
「奥義! 古今無双!」
その圧倒的な業火の一太刀により、エンドコンテンツ級であるSランクボスモンスター【ユニコーン】の生命力は燃え尽きた。そして、最後の断末魔が響き渡った。
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん……ッ!」
最大火力の業火に抱かれて、ユニコーンは灰となって消え去った。そして、討伐報酬の宝箱が出現した。
舞花はふぅと息を整えて刀を鞘に納めて、魔装備を空間から収納した。俺たちは歓喜の声をあげて、舞花へと駆け寄った。
「やったな! 舞花!」
「うん! 舞花ちゃん! 本当に凄かったよ!」
舞花はすましたように頬を赤らめながらつんと顔を逸らした。
「べ、別にこれくらい大したことないわよ。そ、それに、あんたたちのサポートがなかったら、アタシひとりじゃとても倒せなかったわ。ありがと……」
分かりやすいほどのツンデレだ。デレよりのちょろめのツンデレである。
すると、レビアは舞花に抱き着いた。
「ああ! 舞花ちゃん可愛いよ! すっごく可愛い!」
なんだか暴走気味にレビアが抱き着くので、舞花は顔を赤らめながら鬱陶しそうに手を振りほどこうとした。
「ちょ、ちょっとやめなさい! 暴走してんじゃないわよ! って、ひゃん! 太もも触るなぁぁぁぁぁ!」
俺は一体何を見せられているのだろうか。女子と女子がくんずほぐれつに抱き合っている。その姿だけで白米が三杯は行ける気がした。彼女が同性の女に好意を寄せているのはちょっぴり彼氏としては嫉妬するが、それでも百合シチュは男オタクとしては眼福極まりない。
ふたりのイチャラブをもう少し眺めていたい気もするが、性欲よりもお宝だ。それこそがゲーマーの好奇心というものだろう。
俺は早速宝箱を開くと、そこには伝説のS級素材【ユニコーンの角】が二つも入っていた。一つだけでもかなりの値段がつくのに、レアドロップが発動したようで、二つもダブっていたのだ。
こんな幸運があるだろうか。これで錬金すれば金貨を二倍も稼げる可能性がある。また夢へとレビアの夢へと一歩近づいた。いや。もうこれは俺たちの夢だ。村の冒険者や近隣の街の冒険者たちの夢でもある。
だってこんなに優秀な錬金術師が道具屋を経営したらクリア後の錬金術レベルのアイテム作成ができ、それが店頭に立ち並ぶのだ。
これはもうレビアの成功者ルートはほぼ確定だ。相手が成功者なら母さんも結婚を許可してくれるかもしれない。
こんなラッキーがあっていいのだろうか。何や嫌なことでも起きたりして。なんて思ったのがフラグとなったようだ。
新たな破滅フラグである。圧倒的イレギュラーの発生だ。
湖の水がぐるおおおおおんと竜巻上に巻き上がった。
「え? 何よ? アレ?」
「ど、どういうこと。これってどういう事態なの?」
俺はそいつを目にした瞬間、瞳の光が一層激しく輝いた。
湖から現れたのは水竜【リヴァイアサン】――。Sランクモンスターの中でも最上位の位置するモンスターでまさに災厄級の規格外。
その怪物染みた蛇の恐竜染みた姿と、濃紺な鱗状ボディを見て、俺は思わず叫んでしまった。
「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! リヴァイアサンイレギュラー発生とか、胸熱展開過ぎるだろぉぉぉぉぉぉう!」
俺のテンションは今までにないくらい昂ぶった。
いかがでしたか? 次回は日付が変わって30日になります。カクヨムと同じく21頃に予約投稿しておきますので、どうか今後とも闇堕ち魔王をよろしくお願いします。




