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第53話『夏木舞花との模擬試合』

 ミスリルドラゴン討伐に向かうことになった俺とレビアだが、現在屋敷の庭で舞花と揉めていた。


 母にミスリルドラゴン討伐に向かう前はちゃんと舞花にも話しを通しておけと言われたからである。


 しかし、案の定、舞花が自分も連れていけと駄々を捏ね始めた。何回か説得を試みたが、舞花はまだ納得してくれずに我儘を通そうとしてきた。


「どうしてですか! どうしてアタシも同行させてくれないのです?」


「いや。だからさ。お前が居たらすぐ戦いが終わってつまんないじゃん? 本当に困った時は頼らせてもらうからさ? 今回は我慢してくれって?」


「納得できかねます! アタシがルシフ様より格下だと言うことですか?」


「だからぁ。そうじゃないってばぁ!」


 こんな感じで口論が絶えない。レビアもなんだか不安そうにきょどっている。


 本当にこいつは昔から我儘を言い出したら、絶対に通そうとする悪癖がある。そういう子供っぽいところは異世界に来ても全く変わってないし、むしろ悪化している。


 舞花はまた強気で自分の我儘を通そうと無茶を言ってきた。


「だったらアタシひとりで行きます! ルシフ様より先にミスリルドラゴンを倒してみせますから!」


「だからどうしてそうなるんだよ! ていうか、結局お前がミスリルドラゴンと戦いたいだけじゃねぇか!」


 すると、舞花も容赦になく突っ込んできた。


「それはルシフ様だって同じでしょう? アタシはルシフ様にだけには負けたくないんですぅ!」


 いやなんだよ。その謎のライバル視は。まるで前世の時の関係性を思い出す。道場ではいつもこうやって喧嘩腰で模擬試合をよくしてたっけな。


 その時俺は閃いた。そうか。だったら腕づくで、分からせてやればいい。いつも通りな。


 俺はその場から離れて、庭に置かれてある籠から木剣を二本取り出して、舞花に渡した。


「ほら! だったら試合して決めようぜ? その方が早いだろ?」


 すると、舞花はにやりと笑った。


「そういうのは嫌いじゃありませんね。いいでしょう。ルシフ様にアタシの実力を分からせてあげます!」


 レビアはあたふたしたまま囁いた。


「あわわわ!? なんだか大変なことになっちゃったよぉ……」


 俺は舞花にルールを説明した。


「ルールはいつも通り一本先に取った方の勝ちだ! いいな?」


 舞花は意気揚々と頷いた。


「望むところです! ルシフ様を下し! アタシの方が上だと証明してあげます!」


 俺は木剣を構えると、舞花も同じように構えた。その所作は同じ道場を通っていたことだけあって少し似ている。


 俺は正面に木剣を構えて、舞花は居合抜きの構えを取る。


 優しく吹くそよ風に乗って、小さな木の葉が舞い降りた瞬間に、勝負の火蓋は切って落とされた。


「シッ!」


 先ずはいつも通り舞花から仕掛けてきた。電光石火の居合抜き。俺の何度も盗ませて貰った一撃必殺の秘剣だ。


 俺はその攻撃をすんでのところでバックステップで躱し、隙が出来た相手に一瞬で距離を詰める。


 そこからの横薙ぎを舞花は軽々と受け止めた。その瞬間に二回攻撃判定が入り、舞花はその二度目の剣筋にも見事に対応した。


 流石は舞花だ。【傲慢】のチートだけでは勝てそうにない。


 俺は多少卑怯だし、女性に乱暴だとか、そんな遠慮など全くせずに、異世界で覚えた荒業である、足蹴りで砂かけからの、ボディブローをぶちかましてやろうとしたが、それも舞花に片手で受け止められた。しかし、二度目の攻撃判定が舞花に襲いかかる。舞花はその攻撃すらも身体を半歩ずらして回避した。


 そこからさらにまわし蹴りを繰り出すが、舞花に拳ごとぶん回して、空に投げ飛ばされた。宙を舞った俺は、ここで奥義【ブラッドネスバースト】を使用して、ドリルのような回転で突き進む。


 舞花はそれに対して居合の構えを取った。木剣に魔力を込めて、一気にそれを解き放ってきた。

「奥義! 火花一閃!」


 炎の魔力を纏った居合抜きが俺のドリルと衝突した。その途端、互いの木剣がパァンと弾けたんだ。


 舞花は怯んだが、俺はその一瞬を逃さなかった。舞花の腕を掴み、地面へと組み伏せる。まるでドラマの刑事のように。そこで俺は高らかに宣言した。


「舞花。俺の勝ちだ!」


 舞花は悔しそうに地面を拳で叩きつけて「くそ!」と叫んでから、俺の腕を振りほどき、すっと立ち上がり、お辞儀した。


「参りました。アタシの負けです……」


 本当に悔しそうに唇を噛んでいる。いつも彼女はそうだ。俺に負ける度に毎度、毎度悔しそうに唇を噛む癖がある。


 それだけ負けず嫌いで、剣に対して真摯なのだろう。


 それを前世の俺は何の努力もせずに持ち前のセンスだけで彼女を負かしていた。俺は生まれてから彼女との試合で一度も負けたことがない。


 初めて剣を握った時から、彼女に圧倒的なセンスの差を見せつけて分からせた。


 その瞬間、まだ小一なのに、彼女は悔しそうに唇を噛んでいた。一切の涙すら見せずに。


 今でもその関係性は変わってない。でも舞花は異世界に来てさらに強くなった気がする。ステータスや戦闘力だけなら俺が勝っているが、純粋な積み重ねによる剣術の基礎力では彼女には遠く及ばない。


 本当に彼女は強い。俺は彼女に手を差し伸べた。


「ありがとう。舞花。楽しかった!」


 すると、彼女はその手を強めに握り返し、きっと睨みながらこう言った。


「そうやって余裕ぶっていられるのも今の内だけです。すぐにアタシが追い越して見せますから!」


 俺は脳内で幼き彼女の姿が再生された。


『そうやって余裕ぶっていられるのも今の内だけよ! すぐにアタシが追い越してやるんだから!』


 あまりの懐かしさに涙が出そうになる。そこで彼女はこう言ってきた。


「ほんっと。いつも、いっつもあんたには届かないわね。圧倒的な天才に打ちのめされるアタシの気持ちにもなってみさないよ。このバカ卓也!」


 その言葉により自覚した。俺は自然と言葉が口から漏れ出ていた。


「俺の正体気付いていたのかよ!」


 舞花はドヤ顔で答えた。


「そんなの当たり前じゃない。何年幼馴染やっていると思ってんのよ!」


 俺は泣きそうになり、思わず舞花に抱き着いた。


「ごめん。先にトラックに轢かれて死んじゃって本当にごめん……」


「本当にそうよ。アタシ本気で泣いたんだからね。反省しなさいよね! このバカ卓也……」


 いきなり過ぎる急な再会に、俺は思わず泣き崩れた。舞花は「泣き虫なのは相変わらずね」と言って優しく抱きしめてくれた。


それと後でめちゃくちゃ嫉妬したレビアに叱られて、誤解を解くのに、数時間くらい費やした。


 そして、結局俺はレビアと舞花の三人で、ミスリル鉱山へと向かうことになったのだった。

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