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第48話『世界を救う復讐劇~勇者視点~』

 結果から言おう。僕たちの惨敗だ。でもそれはいつものこと、味方の命が失われる前に撤退し、全力で回復処置を施し、傷が癒えたところで僕らは笑い合った。


「あっはっは。負けちまったな。今のオイラたちじゃあ、あの幹部には勝てねぇや!」


「そうだな。自分の魔力詠唱速度がまだまだ不足していた。魔法さえ決まれば、もっと上手く立ち回れたかもしれん」


「仕方ありませんわ。いつも最初は負ける。でも最後は勝つ。それがわたくしたち勇者パーティーではありませんか!」


 みんなの言うことは最もだ。僕らと奴とでは格が違う。だって向かっていって、初撃でウリエスが致命傷を負い、続いて聖女も魔法攻撃で死にかけて、賢者も腹を刺されて蹲った。残った僕だけがなんとか善戦したが、それも数分で最新の聖剣を折られてチェックメイトだ。


 全員戦える状態ではないので、僕らは賢者の禁忌魔法【ワープ】のおかげで、なんとか一命を取り留めた。


 僕はみんなに頭を下げた。


「すまない。僕の力不足だった。もっと事前にみんなで修行してから挑むべきだったのに。これでは勇者失格だな……」


 僕は自らの至らなさを反省していると、ラフィエルが肩にポンと手を置いた。


「そう気に病むな。この敗北は自分たちの連帯責任だ。聖女の言うように、またいつものように今の失敗からしっかり対策を立てて、修行して挑めば、きっと勝てるさ!」


 賢者の言葉に僕の心は救われた。


「ああ。ありがとう。みんな……」


 僕はすぅと深呼吸して剣を突き上げた。


「よし! ギルドへ戻るぞ! クエスト失敗の報告をして、またいつも通りみんな一緒に叱られよう!」


 僕たちは思いっきり笑い合い、ギルドへと帰還した。そこで待ち受けていた現実は僕たちが考えているより、残酷な物だった。


「申し上げにくいのですが。勇者ミカリス一行様。あなたたちのクエスト失敗回数は規定範囲を超えました。よって勇者パーティーの冒険者ランクをAランクからBランクに降格させていただきます……」


「な!?」


 あまりの衝撃に脳が停止しそうになった。Bランク降格。それは僕らが苦労してコツコツ積み上げてきた実績が崩壊する瞬間だった。


 そこでウリエスが声を荒げた。


「おい! ちょっと待ってくれよ! オイラの記憶が正しければ、クエストの失敗規定回数は残り十回分はあったはずだ。だってのに、いきなり降格だなんて、可笑しいだろうが!」


 彼の言うことは正しい。僕の記憶でもクエストの失敗規定回数は残り十回は確実に残っていた。


 それなのに、Bランク降格というのはあまりにも、理不尽だ。僕もいよいよ怒りが抑えられなくなり、受付嬢の襟首を掴んだ。


「貴様。勇者パーティーを舐めているのか? 僕たちは貴様ら庶民のために、命を懸けて世界の敵と戦っているのだぞ? 昇級こそされても、降格される謂われはない!」


 受付嬢は泣きそうになりながらも、客観的に正しい事実を捲し立てるように突き立ててきた。


「その世界を救う貴方たちの失敗回数が多いのが問題なんです! 貴方がたは最低ランクの頃から何度失敗しましたか? 成功回数が多く、手柄を立てているから、かろうじて昇級できていましたし、私たちギルド側も貴方たちの可能性を信じていました! でも貴方たちは戦場を甘く見積もり過ぎている! 冒険者というのは本来一度失敗したら誰かが死んでも可笑しくないのです! それが素のステータスが異世界人に負けないくらい高いおかげで貴方たちは生き延びられていただけです! それが今回は魔人軍幹部が相手です! その戦いでもやはり貴方たちはまた敗北しました! これでお分りですね? 貴方たちに期待しているから、強力なユニークスキルとジョブを持つ、選ばれた人たちだから、その命を危ぶんで降格処分とさせていただいたのです! しかもそれもひと昔の伝統を重んじただけの規則に過ぎません。実際にもうこの世界には異世界人がいます! 異世界人は貴方たちより遥かに強いのです! 勇者パーティーなんか居なくても、世界は救われますし、誰も困らないんですよ! 分かりましたか? はぁ、はぁ、はぁ……」


 彼女の長すぎる正論に、僕は気圧されてしまった。勇者である僕が必要ないだと? 


ならば、僕の使命とはなんだったのだ?


 世界を救う使命は僕の特権じゃないのか? 


そもそも、僕は選ばれた特別な人間ではなかったのか?


 あらゆる感情の嵐が吹き荒れて、僕の心は闇に溶けていく感じがした。


 そこで受付嬢はこれでもかという嫌らしい笑顔を浮かべながら、僕が最も耳にしたくない噂を吹き込んできた。


「それとぉ? 知っていますかぁ? あなたたちがスカウトに失敗した魔剣士ルシフは、エクストラダンジョンをバディと共に制覇し、違法アイテムで人体実験を行っていた極悪貴族のハラグロード男爵の悪事を暴き、その後魔族となって、魔人軍幹部以上のステータスを持つハラグロード男爵相手に単独で勝利なさったそうですよぉ?」


 僕はますます心の闇が加速して、つい動揺して声が漏れた。


「な、なんだと……」


 受付嬢は嫌味ったらしく続けた。


「そして、今や投獄されたハラグロード男爵の代わりに、男爵家の貴族令息となり、Aランク冒険者として昇格し、新しく改名されたホープ村の英雄として立派にご活躍されているようですよぉ? 昨日、ギルド本部からの通信連絡で知りましたぁ! いやぁ! 何処かの失敗ばかりで、パーティー単位で魔人軍幹部すら敗北してしまうような、意識ばかり高いクソ雑魚冒険者とは格が違いますねぇ?」


 受付嬢の発言を一通り聞いた瞬間、僕は激しい嫉妬心と闇に飲まれて、怒りに飲まれて叫び、頭を抱えてその場に蹲った。


「あぁぁ。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッ――――!!」


 胸中に渦巻く怒りと闇が最高点に達した僕にガブリエラが庇ってくれた。


「ちょっと受付嬢さん。あなた言い過ぎですわよ?」


 さらに、ウリエスが気にかけてくれる。


「おい! 落ち着けミカリス! きっとどうにかなるって、今までだってどんなピンチも乗り越えてきたじゃないか!」


 そして、ラフィエルが叱咤激励してくれた。


「闇に飲まれるな! ミカリス! 誰がなんと言おうとお前は本物の勇者だ! 誰が認めなくても自分が認めてやる!」


 しかし、僕の闇はそんな仲間たちの優しさで払えるほど、生易しい物じゃなかった。憎悪。嫉妬。憤怒。絶望。暗黒。虚無。焦燥。破滅。破壊。殺意。復讐。この世の全ての悪意が僕の胸を支配した。


 そして、自然と仲間に対して人として失格しているような、最低最悪の怒りをぶつけた。


「うるせぇよ……。お前らのせいだ……。お前らのせいで魔人軍幹部に負けたんだ! クエスト失敗するのもお前らが無能なせいだ! だからこそ勇者として命じる! 地獄の特訓だ! もう甘えや失敗など許さない! 貴様らにも俺と同じくらいの苦しみ抜いた努力をしてもらう! 睡眠や食事の時間や休憩すら許さない。全部のポーションだけ飲んでいれば人間は絶対に死なないんだからな!」


 その発言に仲間たちは無言で黙ってしまった。みんな悔しそうに涙を流している。


 僕はそんな甘ったれた根性の仲間たちに喝を入れた。


「泣くな! 泣く暇があるなら努力しろ! 死ぬ気でやるんだ! いいな?」


 仲間たちは泣きながら頷いた。


 僕は仲間たちに冷たく厳しい言葉を投げかけた。


「俺は今からギルドの訓練場で修行してくる! お前らも三十分以内に支度して来い! サボった奴は追放だからな!」


 そして、ギルドの扉を開いて外へ出た。僕は酒樽を蹴飛ばし、心の闇を加速させた。


 見ていろ。ルシフ。受付嬢。異世界人。いつか僕が世界を救った暁には、貴様らはひとり残らず極刑に処して、必ずこの世からひとり残らず葬り去ってやる!


 僕は復讐心を努力のエネルギーへと昇華して、寝ずに食事も取らずに休憩もせずにポーションだかで済ませて、仲間にも強制して努力し続けた。


 これは僕の英雄譚の一頁だ。そのことを分からせてやる。


 僕は心の闇を加速させて、さらに深く、絶望より深い闇に心が支配されていくのを感じた。


 これは僕の世界を救う復讐劇。


 これで一章は終わりです。ここまで読んでくださりありがとうございました。いかがでしたか?


 この作品が少しでも楽しかったと思っていただけたのなら、評価、ブクマ、感想などで応援してくださると作者のモチベーションアップに繋がるのでよろしくお願いします。


 それと一度連載を始めたからには、作者が生きている限りは、完結したいと思っております。


 個人的には、大作を毎日投稿して、完結させた経験値は、おそらく図りしれない物があると思いますので、作者的にもメリットしかありませんから。


 そんな格好つけたことを言いつつも、いま絶賛夏風邪中で、体調崩してまして、そのまま悪化して異世界に転生しちゃう場合もゼロではございませんw


 ですので、書き溜めも三章序盤まで既にありますし、適度に執筆ペースを調整しつつ、毎日投稿を継続し、あとは全力で寝ますw


 もし猛暑に勝てずに、旅立ってしまったら、アホがヤ〇チャして転生したかと笑ってやってくださいw


 あと僕と同じように、猛暑で体調を崩されている方もSNSでたくさん見かけておりますので、皆さんも暑さ対策と体調管理は万全にしてくださいね?


 それでは明日からの二章もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
ようやく1章のラストまで読み切ることができました! クッズ男爵との激戦の末、ルシフくんは英雄と称えられた上、ついにレビアちゃんと結ばれたのが良かったです! 一方、ミカリスくんも少しは見直した… と思…
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