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第47話『努力の源~勇者視点~』

 勇者視点。


 僕はあれから死に物狂いで努力した。そして、何度も負けて撤退し、また修行を積み重ねて、再戦する。


そんな地味な凡人染みたやり方で、それでもルシフを見返したくて、世界を救った僕の方が格上なんだと分からせたくて、血反吐を吐くような努力の果てに、ようやく魔人軍の幹部の城までやってきていた。


 現在の冒険者ランクはAランク。この規格外のユニークスキル【正義】や、勇者としてのジョブのステータスの高さ、何より一緒に戦ってくれる仲間のおかげで、僕はなんとかここまで出世できた。


 でもやはり僕は凡人だ。どうしても最初に出会った時のルシフの強さがずっと頭に引っかかっている。僕より明らかに格上なのに、あいつは世界を救うことから逃げて、田舎に引きこもる決断をした。


 それがとても悔しかったし、失望した。どんなに実力があっても、その程度の低い志と使命感しかないような奴じゃあ、絶対に世界は救えない。


 そう見下すことで自分の自尊心を保っていたが、それも仮初の自尊心だった。自分が【オーク】を倒せず、ルシフがその格上の【キマイラロード】を倒したという噂を耳にして、あっけなく僕の自尊心は崩壊した。


 それを埋め尽くすために、自尊心を回復させるために、必死に努力してここまできたんだ。


 僕は頑張った。充分過ぎるほど、睡眠時間を削って努力した。仲間も十分にやってくれた。新しく仲間になってくれた賢者ラフィエルも大した奴だ。僕以外の奴らはみんな何かに特化した天才だ。


 なのに、僕は器用貧乏なだけで、ルシフの劣化でしかない。


 その事実が何よりも僕を凡人だと自覚させて、努力の糧にすることができたのだ。僕は自身のコンプレックスを、ルシフへの嫉妬心を、だというのに世界にその力を役立てようとしない怠慢さへの怒りを昇華させて、ここまで頑張れたんだ。


 それでもやはり僕は奴を許せないし、あんな志の低い奴の劣化でしかない自分自身が何よりも許せないのだ。


 だから今日で、そのコンプレックスを払拭するために、魔人軍幹部を倒す。これで世界を救うまであと四歩くらいまで近づくことができる。

 僕は魔人軍幹部の扉を開き、中の玉座で偉そうにふんぞり返っている。大柄の悪魔を睨みつけた。


 あの幹部は【ナイトデーモン】と呼ばれるデーモン種の中でも最強の戦闘力を誇る魔族だ。


 僕は剣を抜き放ち【ナイトデーモン】へと切っ先を向けた。


「僕は勇者ミカリス。ナイトデーモン。貴様を倒し、世界救済の尊い犠牲として、その命を差し出せ!」


 すると【ナイトデーモン】はくつくつと嫌らしく笑った。


「おやおや。世界を救う勇者様だからどれほど高潔な魂の持ち主かと思えば、薄汚れて黒ずんでいるではないか。しかもその戦闘前の前口上が最早悪人その者だぞ? 自覚はあるのか? 勇者よ?」


 すると、僕は反論する前に仲間たちが庇ってくれた。


「確かに彼は嫉妬に狂った悪人ですわね。でも世界を救うという使命だけは本物なのです! 貴方のような人類の敵対者に彼を貶す資格はありませんわ!」


 聖女ガブリエラがそう庇ってくれたあと、剣聖ウリエスが吠えた。


「その通りだ。オイラたちの勇者様は誰よりも努力家なんだ!」


 そして、最後に新参者だが、僕が最も信頼できる友と認めている賢者ラフィエルが全肯定してくれた。


「ミカリスがたとえ悪人だとしても、自分はこいつの全てを認めている。こいつは本物の勇者だ! 田舎で楽をして、遊んでいるような、ちっぽけな魔剣士とは格が違うんだよ!」


 その言葉は何よりも嬉しい一言だった。彼には何度もルシフへの嫉妬心を打ち明けた。それでもラフィエルは『自分は天才だが、天才に食らい尽こうとする凡人だけが世界を救う魂を持った真の英雄だと思っている。田舎で生活のために楽をするために冒険者活動で稼いでいるような奴と、お前は意識のレベルで格が違うよ』と、いつも俺の努力と使命感を認めてくれた。


 仲間が居たから俺はここまでこれた。醜い嫉妬心や、凡人であるコンプレックスも、全て受け入れてくれる仲間がいたから、努力を積み重ねてこれたんだ。


 睡眠なんて、いつもほぼ一時間未満だ。こんなに頑張っている俺がこんなちっぽけな魔人軍幹部なんかに負けるはずがない。


 俺は剣を空高く突き上げた。


「ありがとう。みんな。分かったか。ナイトデーモン! これが僕の自慢の仲間だ! たとえ僕の魂が薄汚れていても、信じてついてきてくれる仲間がいる。だからお前には絶対に負けない。大人しく無様に跪き、その首を僕に差し出せ!」


 またしても【ナイトデーモン】は滑稽な道化を見るように馬鹿にした視線で嘲笑った。


「ふっはっは。こいつは傑作だ。勇者よ。俺にはお前は、その信じてついてきてくれた仲間とやらを、本音では信じてないように思うがな?」


 僕は何故だか分からないが腹立たしい気持ちが生まれて、自然と殺意が漏れ出ていた。


「うるさい! 僕と仲間の絆を馬鹿にする貴様だけは絶対に許さん! この恥辱は貴様の命を以てして償って貰うぞ!」


 その途端【ナイトデーモン】はにやりと薄気味悪い笑みを浮かべた。


「果たしてそれが貴様たち如きにできるかな?」


「できるさ! 覚悟しろ! ナイトデーモン! はぁぁぁぁぁぁ!」


 僕は剣を掲げて、眼前の敵を倒すために、全身に力を込めて疾駆した。

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