第45話『ホープ村の英雄』
クッズの一件が片付いてから二週間が経過した。クッズのしたことは明るみになり、クッズは男爵としての地位をはく奪され、無期懲役の投獄刑が処された。
そして、領主を失ったハラグロード村だが、次期領主に母であるマモが推薦された。よってこの村の名は希望を象徴とするホープ村に改名。
そのホープ村とホープ領を治める俺たち家族はみんな平民から貴族へ昇格して、家名であるホープが与えられた。
つまり俺の現在の本名はルシフ・ホープということになる。傲慢を象徴とする名に希望というのは、なんだか語呂が悪い気がするが、希望の家名がついただけでも、闇堕ちフラグを常にぶっ壊し続けている気がして、少し安心している。
あとクッズの件だが、俺は彼が王都へ連行される前に、一度だけ面談をしている。
これは彼から聞いた話しなのだが、この異世界には女神と遭遇して転生・転移する者とそうじゃない者がいるらしい。
クッズも女神には遭ったことがないらしく、他の転移者から聞いた話しらしい。他の女神と邂逅を果たした転移者はチートスキルを与える代わりに、本編シナリオに故意的に干渉することを避けるように命じられているようだ。
もし規約を破れば、チートスキルと転移者ボーナスであるステータス強化の恩恵が得られなくなってしまうらしい。
つまり、転移者がシナリオに関わらないのは、女神との制約の影響が大きい。ちなみに女神と邂逅を果たさず、チートスキルやステータス強化の恩恵を受けている者は、シナリオに干渉しても問題ないとクッズは結論付けている。
そもそも女神と邂逅を果たさず転生・転移した者は女神に愛された者であり、むしろその才覚を以てして、世界を引っ掻き回すことを望んでいるとすら願っているに違いないと、クッズは自身や俺の行動から推測した。
人間性はゴミだが、頭脳だけは本当に優秀だ。俺の知らない視点や考え方をあっさりと思いつく。
そして、クッズは最後にこう言った。俺に負けてよかったと。結局、クッズは自分の自己優越感に浸り、狂気の天才を気取りたかった。堕天使ルシファーという存在になることで本当は落ちこぼれである自信を正当化していたに過ぎないこと。そして、前世でも落ちこぼれであることを言い訳にして、人の役に立つ研究に努めようとしなかった自身の怠慢さと、天才になりたいという自信がない故の傲慢さが自らを誤った道へと堕落させてしまったと反省していた。
ただし、彼はこうも言っていた。自身の人生に後悔だけはしないようにすると、たとえどんな人間性が欠落したマッドサイエンティストだったとしても、自分のしたことを反省はしても後悔はしない。後悔しないのは彼なりの責任を取る覚悟によるものらしい。
俺はその話しをすごく聞いてよかったと感じた。彼に人の愛や思いやりを取り戻すことができてすごく良かったと思っているし、微力ながらでもその手助けができた自分のことを誇らしくも思えた。
クッズは俺にこう告げた。君の誇りはとても気高い。だが、それゆえにちょっとしたきっかけで壊れてしまいかねないような諸刃の剣であると。
君に必要なことは愛する者を守る覚悟だ。それさえ見失わなければ、君が俺様のように道を踏み外すことはないだろうと励ましてくれた。
俺は素直に彼に感謝して、彼の連行を見送った。
新しい新居はどうも落ち着かない。俺みたいな平民がなんだか場違いのような気さえする。しかも、俺専用のメイドまで付く始末である。
ちなみにその子はけっこう可愛い。でも俺には心に決めた人がいるので、他の女性に余所見なんてしないと誓っている。
その子はしかも俺がよく知る人物であることも見過ごせない。隣街から噂を聞きつけてやってきたらしい。
つまりは俺の前世での幼馴染である夏木舞花である。俺の剣の姉弟子であり、全国大会優勝の実績を持つ猛者だ。
確かに彼女がメイドなら身の安全は保障されているだろう。ちなみに兼業として冒険者もしており、元はそちらが本業だったらしい。
前世のことはまだ伏せてある。タイミングを見計らって話すつもりだ。今の彼女にとって俺はよく知るゲームのラスボスであり、そのラスボスが何故メインシナリオから外れているのか疑問を抱いており、俺への不信感を募らせている。
なんとかタイミング良く話せる機会が来ることを願うばかりである。
そして、俺は本日、ある名誉な称号を国王認定書付きで与えられることになる。
俺はその授与式にたったいま参加しており、母マモの長い話しが暇なので他所事を考えていたのだ。
小学校の頃からそうだが、校長やら権威ある人の話しという物は退屈極まりない。そこでようやく母の長話しがひと段落つきそうなので、意識を切り替えた。
「ええ。であるからして、本日を以てして、悪徳領主の不正を暴き、その蛮行を食い止めたルシフ・ホープをAランク冒険者への昇級を認め、この【ホープ村の英雄】の称号を与える! ルシフ・ホープ前へ!」
「はい!」
俺は前に出ると母から国王認定付きのメダルを渡された。
「よく頑張ったな。これはもう立派な社会的な成功だ。流石はアタイの息子だ。世界を救わず村を救うなんて、とても優しくも強い子に育ってくれたことを母親として嬉しく思うよ。これからもAランク冒険者兼【ハラグロード村の英雄】の名に恥じないように、そして、男爵家の貴族としての責務も果たしな!」
「はい! 謹んで精進致します!」
俺は盛大な拍手と共に、なんかとんでもないことになったし、目立ち過ぎて凄く面倒なことこの上ないという怠惰な思いも露出した。
きっとそれは俺より父の方が強く感じているだろうな。義妹は浮かれて、周囲にマウンティングを開始したので、見かける度にデコピンをお見舞いしてやっている。
やはりアホの子を調子に乗らせると、とんでもないことになるというお約束は、何処の世界でも同じようだ。
俺は今にして思う。きっとこれは宿命だ。俺はきっとこのホープ村の平和を守るために転生してきたのだろう。
それは世界を救うことよりちっぽけな宿命だが、それがまた俺らしくて気に入っている。俺は俺の大切な人たちさえ守れたらそれでいいのである。
そう決意しながら、自分への誓いを立てた。
俺は冒険者の人生も謳歌して、エンドコンテンツや高難易度クエストへの挑戦を楽しみまくる。そして、この村の英雄として大切な家族や村人や最愛の人を守り抜く。そのためにゲーマーのプライドに懸けて、もっともっと強くなる。努力を努力と思わずに、過程を楽しみながら、でも誰よりも真剣に、己の限界を超えるために挑み続けよう。
俺はこの世界が好きだ。この村が好きだ。そして、ゲームと戦いがもっともっと大好きだ。
だからこそ、伝えなければならない。最愛の想い人に、俺の想いの全てを――。




