第43話『リスペクト』
目の前には金髪に赤目になった俺がいた、クッズの特徴を継承した俺といった感じだろう。
あまりの騒ぎに家族たちが駆けつけようとしたが、俺は大声を張り上げた。
「危ないから、こっちに来るな!」
「で、でもお兄ちゃん……」
「頼むよ。俺を困らせないでくれ……」
俺は絶対に自分家族とレビアとレビアの家族だけは死んでも守り抜く。その覚悟が伝わったのか、レビアがこう励ましてくれた。
「ルシフ。絶対に負けないでね?」
「ああ。任せておけ!」
俺は目の前の狂人と対峙するために魔装備を出現させると、相手も俺と全く同じ魔装備を手にした。どうやら俺を本気でリスペクトしてくれているらしい。しかし、リスペクトした相手と殺し合いたいだなんて、どんな歪んだファン心理だよ。
俺は目の前の怪物にこうはっきり告げた。
「先に言っておくけどな。俺はお前を殺さない。殺さないで牢にぶち込んで、生涯かけて罪を償ってもらうからな?」
そう口にした途端、クッズは嗤い出した。
「あっはっは。あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは♪」
「何が可笑しい?」
俺は怒りを含んで尋ねたが、クッズは人とは思えない発言を口にした。
「まさか異宝石の人体実験の話しかい? あんな奴隷のような、人以下のゴミの命なんてどう扱おうと俺様の勝手だろう? それより今はせっかくふたりだけの時間なんだ。もっと楽しもうよ♪」
俺は理解した。全く同じだ。こいつは俺と同じで自分の欲に素直なだけのクズなのだ。でも大切なことなので、これだけははっきり言ってやった。
「確かに俺はお前と同じで、自分の欲に忠実な人間だ。でもな。だからって誰かの命の尊厳を踏みにじるようなことはしないし、自分の欲を満たすためだけじゃなくて、お前みたいな異常者から家族や大切な人を守るために強くなろうとしてんだよ! 人の心を捨てたお前と一緒にすんじゃねぇ!」
俺の言葉にクッズは更に嗤った。
「ああ。確かに違う。俺様なんかより、君の方が何倍も気高い。だから君という命を奪うことで僕は君の全てを奪いたいんだ。たとえば、君の想い人の命、とかね♪」
その発言により、俺の沸点は限界を超越して、マグマのように激怒した。
「クッズ。貴様ぁぁぁぁッ!!」
俺は合図を待たずにクッズに斬りかかった。クッズはそれを俺と同じような動作で受け止めた。
「そうだ。その怒りだよ。自分の誇りである者を守ろうと必死になるその怒りだ! それでこそ俺様が認めた最強の堕天使ルシファーだ!」
俺は奴の言葉に耳を貸さずに、相手を確実に戦闘不能にするために怒涛の連続攻撃を仕掛けた。
「ブレイドダンス!」
しかし、奴も俺の真似をして同じ動作を繰り出してきた。
「ブレイドダンスゥゥ♪ あっはっはっはっは♪」
技量はわずかに俺の方が上だが、自分と俺を融合させた結果、ステータスは俺以上だ。その証拠に俺は少し力で打ち負けていた。
「くっ!?」
そして、技量では追いつかないほどの強力な最後の人たちが俺の肩を深く抉った。その瞬間俺は自身に最強にして最大の回復魔法を付与した。
「リヒール!」
このリヒールは徐々に体力を回復させる効果を持つ魔法だ。これと【傲慢】のスキルを掛け合わせることによって、ほぼ無敵の自動回復を一定時間手に入れることが可能となる、俺の切り札の一つだ。
相手はさらに感情を昂らせて嗤った。
「あっはっはっは♪ 回復魔法かい? 無駄だよ! 魔力強化・改! からのぉぉぉ。ブレイドダンス♪」
どうやら相手はこの奥義がお好きなようだ。だが、この程度なら余裕で耐えると俺はダメージ感覚的に理解している。本気で倒すつもりなら瞬間火力の高い奥義で瞬殺すべきだ。でもこれではっきりした。こいつがどんなにステータスが高かろうとも、ゲーマーとして、魔剣士として、大切なピースが欠けている。俺はそれを示すために、俺はある魔法を使用した。
「バリア!」
相手の攻撃が何度も俺に迫りくる。【バリア】の魔法は攻撃を防ぐことはできるが、ダメージまで完全に防げるわけじゃない。
しかし、相手がどれだけ傷つけようとも、俺の身体は無事なままだった。そこへ俺は【バリア】に隠れて、魔剣を鞘に納めた。この魔剣は俺が戦いやすいようにレビアが刀と同じ作りにしてくれている。
そのおかげであれを放てる。
俺は敵の攻撃をバリアで防ぎ凌いだ。
「ほら、ほら♪ どうしたルシフ君? 守ってばかりなんて君らしくないよ?」
俺は軽く侮蔑したように嗤い、たった一言だけ告げてやった。
「クッズ。やっぱりあんたと俺は違うよ。だってお前はゲーマーじゃない!」
相手の攻撃が止んだ瞬間、俺は居合抜きを利用して、神速で奥義を放った。
「クッズ。お前にゲーマーのプライドを思い知らせてやる! スラッシュ!」
居合抜きの速度も重なり、神をも超える速さへと至った斬撃が、クッズの身体にクリティカルヒットし、一気にその生命力を刈り取った。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ♪」
あれだけ鋭い斬撃を受けたというのに、奴は喜びの感情を抱いている。一体どんな思考回路をしているのだろうか。
俺のダメージ感覚が正しければ、敵の生命力は一割だけ残る。その予想は的中し、血だらけになりながらも、クッズは生き残った。
「はぁ。はぁ。はぁ。やっぱり凄いよ。ルシフ。君は傲慢な堕天使だけでなく、傲慢なゲーム廃人だったわけだ。どうやらゲーマーとしての知識で、俺様は君に負けていたようだね……」
違う。そうじゃない。俺ははっきりと分からせるように言ってやった。
「違う。クッズ。知識もそうだが、それだけじゃない。お前にないのはゲームに対しての愛だ! 俺へのリスペクトはあっても、このブリファンというゲームへの純真たる愛はない。つまりゲーマーとしてのプライドがお前にはないんだよ。それがお前と俺の圧倒的な差だ!」
その言葉を耳にしてクッズはくつくつと嗤った。
「そうか。確かにそうかもしれない。だが今更そんなことなど、どうでもいい! このまま牢へ送られて、つまらない余生を過ごすくらいなら、いっそのこと禁忌を犯すとしよう!」
クッズはポーチから四個ほど異宝石を取り出した。しかも今までと少し色合いが違っている。
「辞めろ。クッズ! 人としてのプライドまで、捨てるんじゃない!」
しかし、クッズは俺の言葉を裏切り、その宝石を次々と噛み砕き、圧倒的な魔力に包まれた。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああッ♪」
その姿はまるで彼の憧れた堕天使そのものだった。黄金の髪に赤い瞳、丹精な顔立ちに、黒い角と黒い尻尾、そして、決定打となる漆黒の巨大な翼。もうそれは魔族というよりモンスターだった。
「ああ。あっはっは。成れたぞ……! ついに俺様は堕天使ルシファーになれたんだぁぁぁ!」
俺はその圧倒的な威圧感に、追いつめられながらも、ゲーマーとしての好奇心が抑えられなかった。
「分かったよ。クッズ。お前がその気なら、こっちも大切な人や家族を守るために、本気でやらせてもらう!」
俺はさらに【魔力強化・改】を改良した物でフィジカル面のスペックを二倍くらいまで引き上げた。
「さあ。第二ラウンド開始といこうか!」
「ああ。クッズ。異世界に来て最強の敵であるお前に敬意を込めて、俺の全てを以てして、ゲーマーのプライドを思い知らせてやる!」
こうして、俺たちの誇りを懸けた戦いが本格的に開始された。




