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第40話『腹黒貴族との立ち会い』

 一体どういうことだろうか。今まで一度も接触してこなかったクッズが接触してくるなんて、こんなのイレギュラー過ぎるだろう。


 クッズは噴水のベンチに座る俺に、なんと木剣を手渡してきた。


「なあ? 俺様に君の剣を見せてくれないか?」


 俺は一瞬だけ戸惑ったが、相手は仮にも貴族だ。無礼な真似はしないように、丁寧な態度で対応した。


「わたくし如きと剣の立ち合いですか? おそらくクッズ様の足元及ばないかと思われますが?」


 あくまで謙遜だ。ゲーム原作でも、クッズは非戦闘系のキャラということは理解している。それでも、傲慢なクズだが、人一倍好奇心旺盛な男だ。おそらく興味本位なのだろう。


 そして、クッズはくつくつと極悪人のように笑った。


「はっはっは。そう謙遜するな。俺様が相手にならないことなど理解しているとも、それでも君の剣の腕前を自分の身体で体感したいんだ。遠慮なく負かしてくれたまえ!」


 レビアが心配なのか、俺の腕を抱きしめる強度が上がった。俺は彼女の肩に優しく置いて、ゆっくりと「大丈夫だ」と諭してから、クッズの木剣を手に取って、その場で跪いた。


「では、僭越ながら、この私が、クッズ様の剣の試合のお相手を務めさせていただきます。大事な御身でございますので、どうかくれぐれもお怪我をなさらぬよう、お気を付けください」


 クッズはまたくつくつ嗤った。


「ああ。よろしく頼むよ。それでは始めようか!」


「はい!」


 レビアは俺の腕を離す瞬間、服の裾をつまんで、囁いた。


「ルシフ。無理だけはしないでね?」


 俺は彼女の手を優しく握った。


「ああ。心配ない。安心して見ていてくれ」


 俺はレビアから手を離し、クッズと噴水の前で、互いに木剣を構え合った。


 あくまでも刺激しないように、俺は余裕を持ちながら、言葉を選んだ。


「それでは試合開始と行きましょうか」


「ああ。いつでも来たまえ!」


「では……遠慮なく……はぁ!」


 俺は電光石火の居合抜きで、一瞬で二連続の攻撃判定により、クッズの木剣をへし折ったと思っていた。しかし、クッズは俺の剣に対応して、見事に受け止めた。


「おお! 思った以上に良い剣ではないか! やはり俺様の目に狂いはなかったようだな!」


 クッズは興奮しているが、俺は驚きで目を大きく見開いてしまった。


「何故? どうして?」


 俺は意味が分からなかった。何故、原作では非戦闘員のクッズが、ここまでの強さを持っているのだろう。明らかに異常事態である。そこでクッズは鍔迫り合い越しに、俺の耳元で小さく囁いた。


「どうしてか。分かるだろう。君と同じだからだよ!」


 その言葉の意味を俺は瞬時に理解した。つまりこのクッズは転生者なのだ。だから超常的に力を持ち、おそらく隠れて自己鍛錬も積み重ねてきたのだろう。


 俺は自分の正体がまさかクッズにバレているとは思わなかった。やはりエクストラダンジョンのクリアがきっかけで、俺を探っていたのだろう。


 俺は思わず無礼にも、つい強い言葉遣いでクッズに問うた。


「お前……!? 一体何が目的なんだ?」


 クッズはくつくつと嗤いながら、とんでもない発言をまるで恋する乙女のように呟いた。


「そんなの……君が欲しいからに決っているだろ? ふっふっふ……」


 俺は身が凍るほどの恐怖を感じた。その君が欲しいからの意味は、ただの同性同士の恋とかそういう類のものではない。おそらくもっと深くて、狂気に満ちた理由のような気がしてならないのだ。


 俺もこれ以上は危険だと思い、本気で【魔力強化・改】を全開にした。


「……それでは僭越ながら、私の本当の意味での全力をお見せしましょう! ふっ!」


 俺は【スラッシュ】を力一杯に放った。その斬撃を、クッズは木剣で受け止めたが、四回の攻撃判定により、クッズの木剣はへし折られた。


 そして、クッズは両手を挙げた。


「もういいよ。降参だ!」


 俺は木剣をおろして、一礼した。


「手合わせいただきありがとうございました。それでは私は休日の所要があるので、失礼致します!」


 クッズは笑いながら、背中越しにふざけたことを抜かした。


「素晴らしいよ。俺様の見込み以上だ。これは実験のやり甲斐があるというものだね!」


 俺は最近の努力で知性のステータスが大幅に伸びたせいか、その言葉だけで全てを察してしまった。つまりこいつの前世は研究者か何かだ。それに実験という言葉から、おそらくダッサイに異宝石を渡したのも奴に違いない。


 俺は確信した。こいつは敵だと。


 俺はレビアに「行こう」と言ってリードしながら、胸中では怒りでどうにかなりそうだった。よくも最高のデートの雰囲気をぶち壊してくれたなと。


しかも、ダッサイを焚きつけて魔族化させて、そのせいで母さんがどれだけ悲しんだと思っているんだ。


 俺は今すぐにもクッズを断罪してやりたかったが、ここはぐっと堪えて、気持ちを切り替え、デートの続きを楽しみことにした。


 俺はレビアと歩いていると、彼女は先ほどのことを問い詰めてきた。


「ねえ? あのクッズ様って、確かこの村の領主様だよね? 確か数年前までは、剣なんてろくに扱えないほど弱くて、その優秀な頭脳だけで、この村を治めているって聞いたことがあるんだけど。なんで、ルシフのあの攻撃を受けられるの? あんなの高レベルになったわたしだって受けることなんて、不可能な太刀筋だよ! こんなの有り得ないよ……」


 そうあり得ない。本来の原作通りならの話しでは絶対にあり得ないのだ。つまりあいつは俺と同じ転生者で、何かとんでもなく危険なことを企んでいるのは間違いない。


 ただそれをレビアに聞かせるわけにはいかない。俺が転生者であることはまだレビアに明かすわけにはいかない。そうすれば、おそらく友情が壊れてしまう可能性があるからだ。


 彼女にとって、俺はルシフ本人の人格だけだと思っている。確かに俺はルシフ本人だが、魂と記憶が融合している別人格なのだ。


 倉杉卓也でも、ルシフでもない。俺は一体何なのだろうか。ふとあのクッズのせいでそんな疑問が湧いてきた。


 とにかく、レビアに真実を告げることはできない。だが、彼女も自衛できるように、これだけは伝えておくことにした。


「レビア。これは俺の推測に過ぎないが、ダッサイに異宝石を渡したのは、おそらくクッズ様だ。あのお方には気を付けろ、絶対に近づいたりするんじゃないぞ?」


 俺が強く彼女を見つめると、レビアは納得したように頷いた。


「うん。わかった。絶対に近づかない」


 俺はレビアに近づき、優しく肩に手を置いた。


「そろそろ夕方だし。帰るか。なんかせっかくふたりで久しぶりにデートしていたのに、台無しになっちゃったな……」


 レビアは苦笑した。


「ふふ。そうだね。でもきっと次の機会があるよ!」


 俺も同じく苦笑した。


「ははは。そうだな。次こそ誰にも邪魔されない楽しいデートにしよう!」


 レビアは俺を見て、満面の笑みで同意してくれた。


「うん!」


 今後は警戒を怠るわけにはいかない。俺はクッズに対してどうするか、一度母さんときちんと話し合うことにした。

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