第38話『お礼のデート』
今日は日曜日。心地の良い休みの日だ。だから俺は決めた。今日レビアをデートに誘おうと思う。何せレビアはあれだけの美少女だ。きっと他にも虎視眈々と彼女を狙っている輩もいるに違いない。
俺はあのプレゼント受け取った日以来、彼女に途方もない恋心を抱いていた。あのダンジョンでの出来事を思い出すだけで、身体の色んな部分が暴走してしまいそうになるが、性欲の無駄な消費は身体パフォーマンスの低下を招く。普段から禁欲している俺にとって、レビアという誘惑は、途轍もないほど大きかったのだ。
でも、レビアは残念ながら俺に好意を抱いてはいない。何せたまに態度がそっけなくなるのだ。きっと俺のことを親友としては見られるが、あまりべたべたされると嫌なのだろう。だから俺は必死に自身の欲望を抑えて、彼女に紳士的に振舞うことを心掛けている。
絶対にレビアを傷つけることや、欲望をぶつけたりなどしてはならない。俺はその欲望を全てトレーニングによって昇華していた。
無駄なエネルギーは全て経験値に換えてしまえ。そういう具合である。でも、このまま手をこまねいていては、レビアが他の男に取られてしまう気がする。
だから明日。俺はレビアをデートに誘うのだ。陰キャで恋愛経験値無しの俺が、どこまでやれるかは分からないが、精いっぱいリードしようと思う。
それにレビアはデートくらいならわりとすんなりオーケイしてくれるくらい優しい女性だ。きっと彼女にとっては親しい幼馴染と普通に遊んでいるだけに違いないが、俺にとっては真剣な問題なのだ。
俺は精いっぱいお洒落な服を選び、髪を整えてから、朝食をとり「行ってきます」と家を飛び出した。
そして、俺はレビアの自宅のまで駆け出して、数秒もかからない内に辿り着いた。何時鐘を鳴らそうか戸惑っていると、庭にいたレビアママが声をかけてくれた。
「あら。ルシフ君じゃない。もしかしてレビアに用かしら?」
「え、えっと。まあ。そんな感じです……」
おばさんは喜んで手を合わせた。
「それはいいことだわ。だってあの子ったら、また錬金術の研究に夢中になって、ちっともお外に出ないんだから。たまにルシフ君とデートでもすればいいのに、ね?」
「え、あ、その……」
俺はドキリと心臓が跳ねた。おばさんはどうやら俺の目的をお見通しのようだ。おばさんはニコニコと笑った。
「うふふ。じゃあレビアを呼んでくるから、待っていてちょうだい。」
「は、はいぃぃぃっ!」
つい声が上擦ってしまった。これだから陰キャの童貞は駄目なのだ。数十分後、レビアがようやく部屋から出てきた。そこには赤い錬金術師服を着た。いつものレビアがいた。顔は眠そうで、目を擦って欠伸している。どうやら昨日も夜更かしして、錬金術の研究に励んでいたようだ。
レビアは眠そうに顔で俺に語りかけてきた。
「ふわぁ。おはよう。ルシフ。何かわたしに用かな?」
レビアの顔を見た瞬間。俺は自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
「え、あ、いや。その。今日って空いている?」
レビアは眠そうに微笑みながら答えた。
「うん。特に予定はないよ」
よしと俺はガッツポーズを決める。その様子をレビアはきょとんと不思議そうに見つめっていた。やばい。気持ち悪がられてはいないだろうか。
いや、ここで怯んではいけない。男なら覚悟を決めなくては。俺は頭を下げて右手を差し出した。
「レビア。今日俺と一緒にデートしてください!」
断られることはないと思う。でも、もっといつものようにフランク誘った方が良かったかもしれないと後悔した。
俺はレビアの顔を見ると、彼女は顔が沸騰しそうなほど赤くなっていた。もしかして、錬金術の研究のし過ぎで熱があるのではないだろうか。
これは断られるなと思っていると、レビアは俺の手を握り返してきた。
「もちろんだよ。今日のエスコートは任せたからね?」
「お、おうっ!」
どうやらデートの誘いは成功したようだ。でも俺は彼女の体調を気にかけた。
「でも顔が赤いぞ? 熱でもあるんじゃないのか?」
すると、レビアは思いっきり溜息を吐いて、呆れた視線を俺に向けてきた。
「はぁ……。本当にルシフは変わらないね。体調は別に悪くないから、大丈夫だよ。それじゃあ、わたしは着替えてくるから、ちょっと待っていてね?」
「あ、ああ……」
なんで。どうして呆れた表情を見せたのだろうか。俺、何か地雷でも踏んでしまったのだろうか。
それともやっぱり陰キャの童貞の下心を見透かされてドン引きされたのだろうか。
俺は不安になりながらも、なんとかここ巻き返さなくてはと覚悟を決める。
数十分後――。ようやくレビアが玄関から現れた。
「お待たせ!」
俺は思わず言葉を失った。胸元が少しチラ見えする薄着の青いドレスで、ひざ丈も短く、健康的で肉付きのよい太ももが剥き出しになっている。
なんて言うか。童貞の俺には少し刺激が強すぎる。きっとレビアは暑がりなのだろう。それにしても思春期男子の前で、こんな薄着なんて無防備過ぎやしないだろうか。
レビアは赤くなりながら、指先をくっつけながら、もじもじしながら問いかけてきた。
「どう? 似合っているかな?」
俺はどう答えたものか、迷ってしまった。素直にエロ可愛いですなんて言えば、コンプライアンス的にアウトだし、だからと言って、いいんじゃないかなんて素っ気なく答えたら、こちらに好意がないのではないかと誤解されかねない。
ここは素直に、でもコンプライアンスを守った上で好意を伝えやすくするシンプルかつ最強の言葉を口にすることにした。
「うん。とても良く似合っているよ。正直、凄く素敵だと思う!」
すると、レビアは顔を赤くして、唐突に俺の腕にくっついてきた。
「えへへ♪ すっごく嬉しい! それじゃあ、今日はふたりで目一杯楽しもうね?」
「お、おう!」
当たっている。その大きな凶器が俺の腕に当たっているってば。しかも薄着のせいでマシュマロの感触がやばい。
これは理性を保てるのか。そんな不安を抱きながら、俺たちのデートは始まりを迎えた




