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第24話『中層ボス戦』

 ダンジョンのボス部屋の前で、俺は矢継ぎ早に作戦をレビアに伝えた。どうやらレビアも俺と同じことを心配していたが、それも織り込み済みなので問題はない。全ての作戦を語り終えて、俺は話しを切り上げた。


「と――まあ、話しは以上だ。じゃあ行くぞ!」


「了解!」


 ついにやってきた中層ボス戦の相手は【ビッグコブラ】だ。猛毒を吐く毒蛇で、知性のステータスが低く、状態異常耐性の弱い俺には天敵とも言えるだろう。だが、それは何の対策もしていなかったらの話しである。


 ボス部屋の奥に佇む巨大な毒蛇はまるでこちらを威嚇するように鳴いた。


「しゃあああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 あまりの迫力に、俺は脳汁がどばどば溢れ出して、ついテンションがハイマックスになりそうだった。


 でも今はレビアがいる。俺が好き勝手に戦えば、レビアに被害が及ぶ可能性が高い。それに作戦通りに動かないと、高確率で、レビアが毒を受けるだろうし、俺もかなりやばい。


 とにかく作戦通り、俺はレビアに号令をかけた。


「行くぞ! まずは防御結界展開!」


「了解!」


 レビアはふたりの前にすぐに防御結界を張り出した。毒蛇は予想通りいきなり毒の息をぶわっと吐き散らかした。しかし、その毒の息も、防御結界に阻まれて、一向に効果がない。


 俺はその隙に【魔力強化】を最大までため込み、無の刀にありったけの魔力を込めた。まだだ。まだこれを放つには早すぎる。結界が解けるまで辛抱しろ。俺は全神経を集中させて魔力を操作した。


 これは思ったより、なかなか大変な作業だ。イメージするなら、呼吸を思いっきり吸い込んでから、我慢するのに近い。吐き出したくて仕方ないのに、それをギリギリコントロールして、我慢する感じだ。


 当然、これは魔力なので、我慢し過ぎて死ぬことはないが、魔力が枯渇して、しばらく魔力を回復しないと、その場にへたり込み、歩けなくなる可能性がある。


 だからこそリスキーではあるが、これが一番の最善策だ。だって毒を食らえば、間違いなく不利になる。毒キノコで実験したことがあるのだが、この世界の毒はガチでやばい。思考力、脱力感、疲労感、倦怠感、痛み、吐き気、血痰、咳、高熱、思考の障害など、解毒ポーションを使うにもかなりの精神力を必要とする。それが猛毒となれば、その苦しさは数倍に膨れ上がるだろう。


 知性のステータスが高ければ、その症状を極端に小さく抑えることができるのだが、俺にはそれが欠如している。


 それに防御結界だけでなく、状態異常軽減のアクセもふたりで一つずつ身に着けている。これで状態異常の三割は防げて、防御結界と合わせて、ほぼ完全に状態異常を無効化できる。


 だが、防御結果が破れたら、そこで終わる。だからこその攻撃魔法というわけだ。


 攻撃魔法の威力は込めた魔力の量と質に依存する。そこはゲームとは少し違うが、俺が全力で攻撃魔法を敵さんに当てることさえできれば勝てるだろう。


 長話しをしてしまったが、そろそろ防御結界が解ける。毒の息も収まり、毒蛇が今度はこちらに向かって噛みつこうとしてきた、その瞬間、防御結界が解けて、一瞬の隙が生まれた。こちらの魔力は全力でチャージ済みだ。俺はありったけの魔力を解き放った。


「行くぞ! ゲーマーのプライドを思い知れ! マジックバスタァァァァーーッ!!」


 俺の放った巨大な魔力砲撃は二つに分かれて、毒蛇へと命中した。その刹那、四連発の大爆発が巻き起こる。毒蛇は魔力の渦に飲まれて、完全に消滅した。


 俺は一息だけ軽く息を吐き出したあと、並々ならぬ興奮で、色んな脳内化学物質が分泌された。


「よっしゃぁぁぁぁっ! 中層クリアだぁぁぁぁっ!」


「やったね! ルシフ! それとあの毒蛇こんなアイテムドロップしてくれたんだ。見てみて!」


「そうなんだ。どれどれ……」


 俺は冒険者カードのカメラ機能でアイテムの名前を確認した。自分のステータスウィンドウでも確認できるが、ステータスウィンドウを使用できるのは、異世界人だけなので、身バレ防止のためなので致し方ない。


 俺はそのアイテム名を見て、思わず興奮してしまった。


「この猛毒牙の結晶って、A級のレアアイテムじゃないか! また貴重な素材が手に入って良かったな!」


「うん。本当にありがたいよ。今日だけでこんなにたくさんの素材が入手できて、複製の箱ってアイテムとか使えば、素材を何個かコピーしたりとかもできるし、これで伝説の錬金術師にぐっと近づいたと思う。本当にありがとう!」


 その言葉が聞きたかっただけだとは、恥ずかしくてとても言えやしないが、それでも嬉しいことに違いはないので、無難に返しておくことにした。


「いえいえ。どういたしまして!」


 レビアは後ろで手を組みながら、優しく微笑んだ。可愛い。ふとそんな気持ちになってしまったことは秘密だ。


 そこではっとなり、俺は大切な事実に気が付いてしまった。


「そうだ。そんなことより、これから下層の攻略だったよな! うおおおおおおおおおお! 胸熱展開過ぎる!」


 上層を目の前にして、四大欲求が爆発しそうになり、俺は今すぐにも下層に向かいたかった。しかし、目の前のレビアを蔑ろにして、自分の欲求のまま突き進むわけにはいかない。俺はそう自制して、中層の時と同じようにレビアにポーションと解毒ポーションを渡した。


「ここで一度休憩していこう」


 レビアも落ち着いた雰囲気で首肯した。


「そうだね。このへんで休んだ方が賢明だよね。ルシフの言っていた通り中層は凄く大変だったから……」


 確かに大変だった。正直、レビアの防御結界の札が無ければ、絶対にクリアできていなかったと思う。


 俺はそう振り返りながら、ポーションと解毒ポーションを一口ずつ飲んだ。すぅっと疲れと、わずかに毒が効いていたのか、身体の中がすぅっとする感覚を味わった。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」


 俺は思わず息を吐き出すと、レビアも隣で「ぷはぁぁぁぁ!」と女子にしてはやや豪快な吐息が聞こえてきた。


 俺はそのまま毛布をレビアに手渡した。


「ほら。一度だけ仮眠とるぞ?」


 レビアは毛布を受け取ると、すぐ俺に身を寄せてきた。


「ねぇ? 添い寝したら駄目かな?」


 駄目だと言いたいところだが、これだけ疲弊したのだ。レビアだって誰かに寄りかかりたくなることだってあるだろう。特に気を許した幼馴染なら、なおのことだ。俺はそんな彼女の信頼を裏切ることがないよう誓いを立てながら、毛布の中に彼女を入れた。


「いいよ。でもさっきみたいに一緒に寝るだけだからな?」


 レビアはそっと俺の肩に身を寄せて「うん。それだけで幸せだから」と返してきた。だんだんと穏やかで心地よい温度を感じながら、俺は微睡の中へと沈み込んでいった。


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