第20話『上層ボス戦』
先ほどの【ハイゴブリン】との戦闘を終えてから、数十分後、俺たちはついに上層のボスの間に辿り着いた。
「よぉし。早速ボス戦だね!」
と無邪気に張り切るレビアを手で制した。
「その前に作戦会議だろ?」
「た、確かにそうだね。あはは……」
初心者冒険者あるあるだ。ボス戦の前になってやたら張り切って突っ込もうとする。実は俺もわくわくしていた。知性のステータスが低いせいで、どうも感情的になりがちだ。しかし、長い年月をかけて陰キャのガチゲーマーとして生きてきたので、大がかりな敵の前には冷静になる習慣が身についている。そのため彼女より感情の抑制が効くただそれだけだ。
俺はレビアの方を眺めて、ゆっくりボスの情報と作戦を伝えた。
「まず、この前、勇者と挑んだ時のボスは【グリフォン】というD級の中でも上位のモンスターだ。本当なら注意点を伝えたいところだが、今のところ、ほとんど問題はない」
俺はそう言い切ると、レビアがその答えを当てた。
「また一発でルシフが倒しちゃうからでしょ?」
「まあ。端的に言えば、そういうことだ。今回は奥義【スラッシュ】で早期決着をつける! だからお前はもしも俺の攻撃が外れた時のために、防御用魔法札と一本だけポーションを用意しておけ! 作戦は以上だ!」
「了解! まずはここを突破しないと中層や下層には行けないもんね!」
「ああ。でも苦戦することはまずありえないと思うから、そんなに気構えなくて大丈夫だよ。最悪、俺が何かしらのトラップで飛ばされても、お前ひとりでもなんとか勝てる相手だ。そこまで心配する必要はない」
「それを聞けて安心したよ。じゃあ、いこっか?」
「おう!」
話しが纏まったところで、俺は遺跡の前の扉をゆっくりと開いた。すると、その奥には鳥型の巨大なモンスターが佇んでいた。間違いなく【グリフォン】だ。
俺はゆっくりと全身して【グリフォン】の前へと対峙する。ちらっと背後を見やると、レビアは言いつけ通り、防御の魔法札で結界を張っていた。
これでもう心配する必要はない。序盤のボスとはいえ、ボスはボスだ。俺は持ち前の戦闘意欲が刺激されて、脳汁が止まらなくなっていた。
「さてと。グリフォン。お前にゲーマーのプライドってやつを思い知らせてやる!」
いつもの決め台詞を吐くと、敵の【グリフォン】も挑発されたと激怒した。
「くけええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」
そうだよな。敵に挑発されたら誰だって怒るよな。でもそうやって煽る方が、俺としてはテンションが上がる。煽られるのも嫌いじゃないし、むしろテンション上がるが、煽る方が気持ちよくなるのは、俺たちが人という猿人種に過ぎないからだろうか。
なら、猿は猿らしく、本能のまま行かせて貰うとしよう。
俺は刀を右斜め上に構えると、魔力を込めて、一気に解き放った。
「スラッシュッ!」
俺から放たれた巨大な斬撃の刃は相手に向かって、四つ分くらい重なり合いながら、ぶっ飛んでいった。
「くけっ!?」
瞬殺だった。ただの初級奥義だが【スラッシュ】は見事にグリフォンを引き裂き、瞬時にその猛々しい命の焔が消え去った。
俺は原作通りの強さでよかったと安心しながら、肺の中の息をゆっくりと吐き出した。
「ふぅぅぅぅ……」
俺のダメージ感覚に狂いはなかった。ほんの少し魔力を込めて、【スラッシュ】を放つだけで、ボスを瞬殺することができた。
通常攻撃では、二回の攻撃判定を入れても、最低四回は斬る必要があったため、その間に暴風を発動されたら、レビアに被害が及ぶ可能性がある。
我ながら心配性だとは思うが、大切な幼馴染を傷つけたくないので、念には念を入れさせて貰った。
撃破したことを確認したあと、レビアはハイテンションで、こちらへ飛んできた。
「やったぁ。これで上層クリアだね! ルシフ!」
「ああ。上層はまだ余裕だったが、中層からは気を入れろよ? 中層からの平均攻略レベルは10相当だからな! レビア一人ではきつい場面も出てくるから、困ったらすぐ俺の後ろに隠れろよ?」
「うん。わかった!」
俺は念のためマジックポーションを一口だけ飲むと、その場に座り込んだ。
「少し休憩していこう」
俺が落ち着いた口調で言うと、レビアはびっくりしたように大声をあげた。
「ええ!? ちょっと待ってよ? ここボス部屋だよね? こんなところで休憩していたら、またグリフォンが復活しちゃわない?」
やっぱり知らなかったかと、俺は軽く笑いながら、自分たちの身の安全が保障されていることを説明した。
「ははは。大丈夫だ。ボスモンスターは最低半日経たないと復活しない。つまり12時間も猶予があるってわけだ」
「へぇ。そうなんだねぇ」
レビアが感心している間に、俺は続けざまに説明を続けた。
「それに次の層へ進んだら、また連戦になるだろう? いくらステータスが正常でも、思ったより、ダンジョン攻略での連戦は神経がすり減るからな。俺は夜通しでも平気だけど、レビアはそういうわけにはいかないだろう?」
「言われてみればそうだねぇ」
レビアは納得している様子なので、俺は会話を締めくくった。
「つまり、ここで軽く休憩をとってから、次へ進む方がより安全ってわけだ。だからここで一度仮眠をとろう!」
「わかった。じゃあ、せっかくだし、ルシフにくっつきながら寝てもいいかな?」
とんでもない発言をしてきたので、俺は思わず挙動不審な態度をとってしまう。
「ど、ど、どうして、そうなるんだよぉぉぉ! お、お前はもっとしっかりガードを固めろ! 俺だって一応、男なんだぞ?」
至極真っ当な意見を申し立てたつもりだが、レビアはまたとんでもない爆弾を投下してきた。
「別にルシフにだったら、ちょっとくらいなら何されてもいいよ。幼馴染だしね……」
俺はぶほっとマジックポーションを噴き出してしまい、顔が熱くなるのを感じた。
「バ、バカ言うなよ! 幼馴染だからって、付き合ってもいない男女が、そんなことしていいわけないだろ! あんまりからかっていると、後で痛い目見ても知らないぞ? もう一度言うが、俺だって立派な思春期男子なんだからな?」
すると、レビアは微笑しながら、軽く流した。
「ふふふ。はいはい。分かったから、早く仮眠取ろうよ。わたしはさっさとルシフにくっついて癒されたいの!」
「人をマスコットみたいに言うなよな! 全く……」
本当に女の子って何を考えているのかよく分からない。でもきっとこれは幼馴染として俺のことを信頼してくれている証だろう。俺はその期待を裏切らないようにしようと固く心に誓う。そして、俺たちは毛布にくるまり、そっと肩を寄せ合って瞳を閉じた。




