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第2話『幼馴染』

 辺りを見ると、村の中は、ゲームで見た、中世ヨーロッパ風景そのものである。


 木製の家が立ち並び、まるでおとぎ話の中に迷い込んだ気分になる。そして、空を見上げると、太陽が少し傾きかけている。


 つまり夕方だ。そろそろ自宅に帰らないといけない。


 その前に、俺は転生者として、真っ先にやるべき大事なことを行うことにした。そう例のあれだ。俺はお決まりのコマンドを意気揚々と叫んだ。


「ステータスオープン!」


 そう唱えた瞬間、俺の目の前にステータスウィンドウが表示された。



 ステータス 

 ルシフ

 レベル 5

 ジョブ 魔剣士

 生命力20

 魔力18 

 攻撃力35

 防御29

 敏捷16 

 技術12

 知性9

 幸運25 

 魔力属性 無 

 魔力装備 【無の刀】 攻撃力20 効果 全ての敵に与えるダメージが2倍になる。

 防具 【黒のコート】 防御力10 

 ユニークスキル【傲慢】 一度攻撃すると2回攻撃判定が入る。さらに一度に2回魔法と奥義を放てる。2回目は消費魔力はなし。魔法や奥義も1回につき2回判定が入る。かなり高速度で魔法を詠唱でき、奥義による硬直時間も無効化する。

 流派 中央大陸流初級 無属性魔法初級 回復魔法初級 

 奥義

【魔力強化】 魔力を身にまとい、ステータスを20ポイントアップさせる。

【スラッシュ】 効果 飛ぶ斬撃は放つ。

 魔法 

【ヒール】 効果 体力を回復する。

【マジックショット】 無属性の魔力弾を飛ばす。


 これを見て、序盤だから、まだ能力値が低いことを実感した。それにしても、原作の魔剣士ルシフより、知性が低いのが気になる。ゲームばかりして、学業を疎かにしていた俺の頭の悪さに引っ張られてしまったのだろうか。


 まあ。ステータスはレベルを上げさえすれば、どうとでもなるし、これから育成していく楽しみがあると思えば、ゲーマーとしてのワクワク感が止まらない。


 しかし、特筆すべきは、ステータスではなく、そのユニークスキル【傲慢】だ。これは流石に強すぎる。何せ通常の攻撃判定が二回入るのだ。


 奥義や魔法なんかは、二回連続で発動され、二回目は魔力の消費がない。しかも、一回につき二度の攻撃判定が入るということは、実質一度に四発分の魔法や奥義をぶっ放せるということだ。


 さらに魔法の詠唱を短縮できるだけでなく、奥義を放つためのゲージの溜めすら必要ない。もうぶっ壊れ性能と呼んで差し支えないであろう、チートスキルである。


 このスキルのおかげで、序盤の強敵たちが、どれほど楽に倒せたことであろうか。


 実際に、序盤と中盤を、ルシフ抜き縛りでプレイすると、ブリファンの難易度は数倍に跳ね上がる。それくらいルシフはぶっ壊れ性能を持ったチートキャラクターなのだ。


 これは断言できる。最強冒険者の道も夢ではないと。


 俺は未来の自分の強さにワクワクしながら、ステータスウィンドウを閉じた。


 ますます傾きかけている夕暮れを眺めて、俺は腕を上げて「ううぅぅん」と伸びをした。


 そして、自宅のある方角へ身体を向けた。


「さてと。今日は遅いし、明日から早速ゲームプレイ開始とするか!」


 俺は帰路に着こうと、その場を離れようとした。しかし、背後の方から聞き覚えのある、まるでガラス細工のように、透明感のある声が聞こえてきた。


「ルシフゥゥゥゥゥッ! 待って! 最後にお別れの挨拶をさせてぇぇぇ!」


 後ろを振り返ると、そこには神々しいまでの、絶世の美少女がいた。煌びやかな金髪は、日本で見た染色している偽物と違い、つやっぽさと艶めかしさがある。その綺麗な髪を肩口でボブヘアに切り揃えており、体格は小柄ながらも端的に言うとムチムチだ。


 その抜群のプロポーションを包みこむのは、赤いローブスカートに茶色のブーツ。いかにも錬金術師と言った見た目をしている。このキャラは、ゲーム序盤でお世話になる、錬金術師のサポートキャラクターレビアである。


 序盤はこのキャラしか錬金術を行えるキャラがいないので、何度ワープ機能でこの村を訪れたことだろうか。


 錬金術師の作る魔法札は超便利アイテムだからね。使用するだけで魔法が誰でも発動できるのだから、魔法の使えない剣聖に回復系や補助系の札を持たせて、序盤を凌いだ思い出がある。


 まあ。中盤からもっと優秀な錬金術師が登場するので、そこでほとんどお役御免になるのだけどね。


 このレビアというキャラも、終盤は一度死亡して魔人として転生し、敵として登場する。


 男性キャラ人気一位のルシフと並び、女性キャラランキング一位を誇っている。


 何せイラストレーターのハンバーガーちゅきちゅき先生が、一番気合を入れてデザインした超絶美少女キャラクターなのだ。


 とは言え、そのイラストレーターの好みについては、俺が誰よりも一番よく理解しているだが。


 それにしても、美しい。ただの陰キャの童貞で、思春期の男子高校生としては、うっかり惚れてしまいそうになる。


 俺はちょっと鼻の下が伸びそうになりながらも、冷静になり、返事を返した。


「レビア。別れの挨拶なんて必要ないよ。俺は勇者の仲間になるのを断ったからな!」


 俺の言葉に、レビアはほっと安堵の息を吐いた。


「良かった。もうルシフに会えなくなると思っていたから、なんだかすごく安心したよ……」


 何、この子。超いい子じゃん。俺は彼女の思いやりに応えたくなり、はっきりと宣言した。


「安心しろ。俺は基本的に、この村を拠点に冒険者活動をするつもりだ。だって、こんなに優しい幼馴染を一人残して、勇者の仲間になんかなれるわけがないからな!」


「そ、そうなんだ。そんなこと言われちゃうとちょっと照れちゃうね……」


 彼女は照れくさそうに頬を赤らめて優しく微笑む。俺はその彼女を姿と未来の闇堕ちした姿を比較して、少し可哀そうな気持ちになった。


 そう彼女は、勇者の詰めの甘さと、原作ルシフの傲慢さによる被害者だ。嫉妬の魔人として闇堕ちした彼女は、もうルシフ大好き依存しまくりのヤバい女で、ヤンデレ過ぎて見ていられなかった。こんなに純粋だった子が、病み病みの病みキャラになって、クレイジーサイコ女化するのだ。


 でもその見た目もめちゃくちゃ可愛くて、色っぽかったため、プレイヤーのほとんどは彼女にメロメロになっていた。


 闇堕ち前と、闇堕ち後のギャップに萌える奴も多かったな。もちろん自分も含めて。


 だが、可哀そうな事実に変わりはない。正直、原作の魔王と勇者を、分からせてやりたい気持ちでいっぱいだ。魔王ルシフは推しだから、特別に許すが、勇者だけは許しがたい。


 もう決めた。この子も俺が守ってやろう。こんな純粋な子を、あんな悲しい姿にさせてたまるものか。


 これは好意とかそういうわけではない。大好きな推しのキャラクターだからこそ、本来の彼女を守ってやりたいのだ。俺はレビアに語りかけた。


「レビア。今後のことだが、俺は最強の魔剣士を目指そうと思う。そして、世界のエクストラダンジョンに挑戦して、高難易度クエストも達成して、冒険者活動を極め尽くすつもりだ。俺は世界を救うことよりも、己の強さの限界に挑みたいんだ! そして、大切な幼馴染である君や家族のことを守りたい!」


 格好つけた言い方をしたが、要はレベリング大好きゲーマーで、戦闘大好きバトルジャンキーで、やり込み要素大好きのガチ勢だから、チュートリアルの本編に興味ないし、推しの魔王ルシフやレビアや家族キャラたちが傷つくのが嫌だから、オタクのプライドに懸けて全力で推しを守るという、ある種の傲慢なゲーム脳染みた意味を含んでいることに、純粋な彼女は気が付かないだろう。


 レビアは涙を流しながら、こくりと頷いた。


「うん。ありがとう。すごく嬉しいよ。なんだか昔の優しいルシフに戻ったみたいだね……」


 昔の優しいルシフ。ルシフの記憶を辿ると、確かにルシフも、昔は優しくて真っすぐな男だったようだ。


 それが思春期になるにつれて、厨二病みたいな感覚に陥り、クールを気取って恰好つけていたようだ。


 作中でも、彼の時に見せる情の厚さにはぐっときたっけ。


 でも、彼女は優しい人と言ってくれてはいるが、どう考えても、今の俺はゲーム大好きオタク野郎であり、真っすぐさからはかけ離れている。


 とりあえず誤魔化すために「あはは。ありがとう」とだけ答えておいた。


 すると、どうしたことだろうか、彼女は優しくはにかむように微笑んだ後、すぅと息を吸い込んで拳を空に突き立てた。


「よぉし。ルシフがいるなら百人力だね。わたしも夢の道具屋を経営して、人の役に立つ凄い錬金術師になるぞぉ!」


「……お、おう!」


 俺も彼女に釣られて拳を軽く持ち上げた。


 なんだよ。この無駄な熱血テンションは。少女漫画のヒロインかよと思ってしまう。闇堕ち化した時とはまるで別人格だ。


 なんか好きなことに一直線な点については、このレビアって子と俺は少し似ているのかもしれない。そんな気がした。


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