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第19話『ハラグロードの遺跡上層』

 遺跡の中はわりと明るかった。所々に、魔光石という魔力で光る石が設置されており、前に勇者と来た時とそう変わっていなかった。問題はモンスターが出現するのにランダム性があるというわけだ。


 油断しているといきなり首を狙われてちょんぱされるという事態に陥っても可笑しくはない。ここはゲーム原作の世界だが、それと同時に現実と変わらない世界でもある。当然、首から上に致命傷を受けたら命を落とす可能性だった充分考えられる。


 いつモンスターが出てきても困らないように、俺はレビアの傍から離れなかった。レビアも俺の腕にがっしりとしがみついている。その腕に感じる大きくて柔らかい物の感触を楽しんでいる余裕すらない。


 いくら雑魚とは言え、手数で来られたら、正直なところちょっと厳しい。何せレビアを守るには、この空間は狭すぎるからだ。


 こんな時、あと最低一人前衛が居れば、凄く助かるのだが。


 俺の緊張感が伝わったのか、レビアは心配そうに問いかけてきた。


「ねえ? モンスターが来ても大丈夫だよね? もしルシフに守って貰えなくても、わたしひとりでも倒せるよね?」


 どうやらレビアも同じ心配をしていたらしい。俺はなるべくレビアを安心させるように優しく接した。


「大丈夫だ。俺が絶対に君を守るし、それにレビア一人でも、この上層のモンスターくらいなら、その錬金杖で殴るだけで倒せる。ただし、首から上はしっかり守れよ? そこを狙われたら、どんなにステータス差があっても致命傷になりかねないからな?」


 レビアはごくりと唾液を飲み込み、覚悟を決めたように頷いた。


「うん。分かったよ!」


 そんな話しをしていたからだろうか。突如、俺たちの目の前にモンスターの群れが出現した。


 群れと言っても六匹ほどで、それも【バッド】という蝙蝠型の弱いモンスターだ。毒にさえ気を付ければそれほど苦しい相手でもない。俺は迫りくるバットに対して、一気に選考の如く駆け出した。


「たあああっ!」


 俺の剣閃の嵐が吹き荒れて、あっという間に【バッド】は跡形もなく消え去った。それを見ていたのか、レビアはパチパチパチと拍手した。


「お見事。やっぱりルシフは凄いね!」


 褒められて悪い気はしない。しかし、少し照れ臭いので、それとなく誤魔化した。


「そんなことないって。それよりボスの部屋までまだまだ先は長い。さっさと行くぞ!」


「はぁい!」


 歩くことは数十分。ちょうど上層の折り返し地点で、また謎解きの仕掛けが設置されていた。


 これは決められたパスワード二つの数字を入力するというもので、ヒントはこの周辺に置いてある石に書かれている。しかし、俺は原作知識と勇者とクリアした知識で何度も経験済みなので、さっさとパスワードを入力した。


「86っと!」


 すると、閉じられていた扉がガガガと音を響かせて開かれた。


「わっ!? すごい! ルシフったらヒントもなしに解いちゃった!」


「まあ。前に勇者と来ているからな」


 レビアは「流石だね」と言いながら、尊敬の眼差しを向けてくる。純粋な子なので、彼女からしたら、まるでスーパーマンのように見えているのかもしれないが、ただ事前に答えを知っているチート行為なので、そんな目で見られると、少し後ろめたい。


 扉の先を進み、数分経った頃、またしてもモンスターの群れが出現した。どうやら次の相手は遺跡でお馴染みのゴブリンらしい。


 ゴブリンと言えば、漫画やアニメの影響で女性に悪戯する悪いイメージしかないので、俺はほぼ全開まで【魔力強化】を解放して、荒れ狂う疾風の如く、秒で瞬殺した。


 俺の大切な幼馴染がゴブリンに汚される瞬間をイメージするだけで、腸が煮えくり返りそうになったのだ。またしても自分の出番なく、戦闘が終わったので、レビアは茫然としていた。


「い、今のルシフ。凄く強かったけど、ちょっと怖かった……。もしかしてゴブリンさんに何か恨みでもあるの?」


「いや、恨みというかなんというか……」


 流石にレビアが襲われるのが嫌だからとは言えなかった。どうも日本人特有のコンプライアンスへの配慮が染みついているせいで、そういうことは大々的には言いにくい。


 俺はすぐに誤魔化すように、話題を逸らした。


「そんなことより先を急ぐぞ? ボスの部屋までもう少しだからな!」


「うん。分かった!」


 俺はさっきよりさらに警戒を強めた。ゴブリンが出てきたということは、もうそろそろあいつが出てくるはずだ。


 このダンジョンで上層の中ボス。上層のボスの部屋の手前で待ち構える序盤の強敵が。


 俺は気を引き締めて、歩いていると、レビアが呑気にも緩い会話をし始めた。


「ねえ? ふたりっきりで遺跡の中を探検するなんて、まるで子供の頃に戻ったみたいでわくわくするよね! 探検ごっこみたいでさ!」


 全く呑気な子だ。ダンジョン攻略は遊びではないというのに。それでも、こうしてふたりで密着しながら歩くのは、男として、それはそれで嬉しいことこの上ない。


 これはこれで探検デートと言えば、そうなのかもしれないなと、不埒なことを考えてしまったが、俺はすぐに気を引き締めて、彼女に注意を呼び掛けた。


「あのな。ダンジョン攻略は遊びじゃなくて、命を懸けたクエストなんだぞ? いくら俺が高レベルって言っても、不測の事態が起きないとは限らない。だから常に気を張っておけ。油断していると、足元すくわれるぞ?」


「そ、それくらい、わたしだって分かっているってば!」


 本当かどうかは怪しいが、実は俺も彼女のことを言えた義理ではない。今は命を預かった仲間がいるから、気を引き締めてはいるが、ソロ攻略だったら、いつも通りハイテンションで楽しみまくっていたに違いない。


 そろそろ奴が来るはずだ。俺は大きな広間に出た瞬間【無の刀】を構えた。


「来るぞ! いつでも防御魔法の札を使えるようにしておけよ!」


「りょ、了解!」


 広間の奥から、ずしりずしりと一匹の大きな人型のモンスターが出現した。あれこそ、このダンジョンの中ボス【ハイゴブリン】だ。


 その強さは序盤の中ボスにしてはなかなか手ごわく、そう簡単には倒れない耐久力を持っている。


 しかし、それは序盤のステータスでの話しだ。俺はすぐさま【魔力強化】の濃度を高めて、煌めく星のようにコンマ一秒で【ハイゴブリン】を瞬殺した。さっきもそうだが、本来なら攻撃判定が二回入るはずだが、一度目で生命力を削り取ってしまっているので、二回目の判定が入る余地すらない。


 あっけなく散った【ハイゴブリン】から背を向けて、刀の血糊を払った。またしてもレビアからキラキラした視線が寄せられる。もうそろそろ慣れてきたが、やはりレベル12の彼女からしたら神業のように見えるのだろう。


 俺は「もう、いいぞ!」と彼女に呼び掛けると、まるで兎のように飛んできた。


「凄い。凄い。凄い! あんたでっかいゴブリンを一瞬で倒しちゃうなんて、ルシフ凄すぎだよ! しかもルシフの動き全く見えなかった。やっぱりルシフって最強の魔剣士なんだね!」


 もう褒め殺しかよと思うが、これは打算なく正直に褒めてくれているらしい。まあ。初心者冒険者が、手練れの冒険者を尊敬するシーンなどはアニメやラノベで慣れているので、彼女の気持ちは分からなくはない。


 分からなくはないが、いざ自分がその立場になると、やはり少しむず痒いものだ。俺は軽く咳払いして、クールに答えた。


「こほん。いいからさっさと次行くぞ?」


「はぁい!」


 俺たちは迫りくるボス戦へのボルテージを高めながら、ダンジョンの先をどんどん進んでいった。

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