表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/144

第18話『門番』

 三日後、全ての準備を終えて、俺たちはハラグロードの遺跡に向けて、村を発った。しかし、やはり最近のモンスターの活性化は激しく、徒歩十分くらいで、すぐにモンスターの群れに遭遇した。


「うらあああああああああああああああああああああああああッ!」


 俺は迫りくるコボルトの群れ相手にたった一人で無双し、殲滅していた。何せやはり戦闘は楽しい。胸が高鳴る。俺はそのビートに合わせて、次々とコボルトの死体の山を築いた。当然、討ち漏らしは零だ。俺は全てのコボルトを駆逐したあと、レビアに語りかけた。


「もう片付いたから、出てきても大丈夫だぞ?」


 レビアは身を潜めていた木陰からひょこっと顔を見せた。


「本当にもう平気なの?」


 内心びびっているレビアに俺は親指を突き立てた。


「もちのろんだ。討ち漏らし零だし、コボルトくらいの雑魚モンスター数匹くらいなら、レビアのレベルなら楽勝だって!」


 俺が安心材料を投げかけても、それでもレビアは不安気だ。それはある意味仕方ない。俺みたいなバトルジャンキーでもない限り、普通の神経をした女性なら、モンスターとの戦闘はビビッて当然だ。まあ。それも、経験を少しずつ積めば、何回かで慣れてくるとは思うが。


 俺は自分の身に降りかかった返り血を洗うために体に聖水を振りまいた。すると、あっという間にモンスターの血は綺麗さっぱり洗濯された。


 同じようにコボルトに聖水を振りかけると、あっという間に灰になって消えてしまう。そう。この世界の常識ではゲームと違い、死んだモンスターを素材や食料としない場合は聖水で浄化作業を行うのが通例だ。


 そうしないと、腐ったモンスターの肉が病原菌を生み出したり、新たな脅威度の高いモンスターを呼び寄せたりする。だから、こうやってこまめに聖水を撒く努力も冒険者としての立派な勤めなのだ。


 一通り処理が終わり、少し給水休憩をとってから、すぐに先へ進んだ。


 そのあとは不思議とモンスターとの遭遇もなく、なんとか近くの森へと辿り着いた。そのまま森の中を進み、虫の羽音が聞こえた瞬間、レビアは俺に抱き着いた。


「む、虫! やだやだ。もしかして、ゴキブリじゃないよね?」


 俺はレビアの頭を軽く撫でてやりながら、安心させてやった。


「ゴキブリなんて薄暗いゴミ捨て場じゃないんだし、そう簡単には出ないさ。それにあの羽音は恐らくモスキートの物だな」


「ええ! モスキートってあの大きなハエのモンスターだよね。わたしあれも嫌い……」


 レビアは怯えて俺の手を握ってきたので、優しく握り返してあげた。


「大丈夫だ。モスキートもコボルトと強さは対して変わらない。落ち着いて対処すれば、今のレビアなら楽勝で倒せるモンスターだよ!」


 俺の説明にレビアは若干、不思議がっていた。


「でも、わたし家で錬金術の研究と実験ばっかりしていただけだよ。それでもレベルが上昇して強くなるって、なんだかちょっと可笑しいよね……」


 それはゲームの世界だからと口がすべりそうになったが、その口を噤んで、客観的な理論で解説した。


「それは、それだけ魔力を消費するからだろう。この世界の全ての物質は魔力でできている。そして、魔力は消費しても回復しても、その度に経験値が入るのがこの世界の仕組みだ。つまり大量の魔力を行使する錬金術はそれだけレベル上げにも最適なんだろうな」


「へぇ。そうなんだね」


 戦闘関連に関しては、レビアはあまり知識が豊富ではないようだ。その点については俺の方が詳しい。何せ、毎日、父の書斎で戦闘に関する知識を学びまくっているからな。当然【魔力強化】を行使しながらだけど。


 本当は戦いたかったが、レビアが怖がっていたので、なるべくモンスターが沸きそうな場所を避けて、先へと進んでいった。そして、三十分ほど歩いた先に、ようやくハラグロードの遺跡の入り口が見えてきた。


「ほら、見えたぞ! あれがハラグロードの遺跡だ!」


「へぇ。あれがそうなんだね!」


 驚いて足元が危なっかしいレビアの手を掴みながら先へ進むと、石造りの建物の鉄門の前に三つの赤、青、緑の宝玉が並んでいた。


 まだ転生する前は、勇者ミカリスたちと散々悩んで、試行錯誤していたっけな。ゲーム初回プレイの時も、序盤から何のヒントもない状態でパズルをさせられて手こずったっけ。同じ魂を持つ二人の少年の記憶が共鳴し合い、俺の脳内に浮かんでくる。レビアは顎に指を当てて頭を傾げた。


「これってどうやって解くの?」


「それは俺に任せておけ!」


 そうどんと胸を叩いてから、俺は鉄門へ近寄り、手際よく動かして、鉄門の宝玉を操作した。すると、一〇秒もかからないうちに、簡単に宝玉の仕組みは解けてしまった。


「すごい。ルシフって知性のステータスが低いのに天才だね!」


「知性のステータスが低いのは余計だ。それに一度、勇者たちと解いたことがあるんだから簡単に解けるに決っているだろう?」


「た、確かにそれもそうだね」


 おいおいしっかりしてくれよと思いつつ、俺はレビアに指示を出した。


「レビア。ちょっと後ろに下がっていろ。問題はここからだ!」


「へ?」


 レビアがきょとんとしているので、俺は無理やりにでもレビアの身体を抱きかかえた。


「ちょ、ちょっとぉ、ルシフのえっちぃ。どこ触っているのぉぉ!」


「少しくらい我慢しろ。今はそれどころじゃないんだってば!」


 俺は大急ぎで門から離れると、中からビーム攻撃が飛んできた。初見ではこれを食らって生命力の三割持っていかれたっけな。


 そう過去の苦い思い出に浸っていると、遺跡の鉄門の中から、石造りの大きな巨兵が姿を現した。あれこそがRPGでお馴染みの石造りの巨兵、つまり【ゴーレム】だ。


 俺はレビアをその辺で適当におろすと、すぐに【無の刀】を取り出しつつ、彼女に注意を呼びかけた。


「あいつはさっきみたいにたまに目からビームを放ってくる。おそらく一瞬で片付くと思うが、万が一敵が死に際にビームを発射してきたら全力で横っ飛びで避けろ。いいな?」


「わ、わかった。気を付けておくね……」


「よし。じゃあ。すぐ片付けるから、待っていろ!」


 俺は【無の刀】を構えて、攻撃魔法を放った。


「マジックショットォォォォォォォ!」


 今回は強敵でもないので、いつもの決め台詞はあえて言わないでおいた。アニメや漫画の影響でついああいう厨二的な発言をしがちだが、こんな雑魚相手に言うのもなんだか盛り上がらないし、逆に格好が悪い。


 計四発のマジックショットのダメージ判定が入り、どん、どん、どん、どんと四回ほど強烈な爆音が響いた。


 序盤の中ボス【ゴーレム】はあっけなくやられてしまい。跡形もなく消え去った。これは思ったより楽にクリアできるのではないかと思ってしまう。


 それに中層と下層も一応はエンドコンテンツの一部となる。何故なら、クリアしてからしか立ち入ることができないからだ。


 それでも超低レベルでもクリア可能なほど、一番難易度が低いダンジョンであるため、正直、原作知識では楽勝だった記憶しかない。モンスターのポップ率がやたら高かったけど。


 俺は後ろに隠れているレビアに「もういいぞ」と声をかけた。


 また木陰からひょこっと現れた彼女は、なんだかキラキラした瞳で俺を見つめてきた。


「す、すごいね! ルシフ! さっきのコボルトの時も思っていたけど、あんなおっきいのやっつけるなんて、本当に強くなったんだね!」


「ま、まあな……」


 そう素直に尊敬されると少し照れ臭い。でも、本題はこれからだ。俺はすぐに気持ちを切り替えて、レビアに注意を促した。


「そんなことより、本番はこれからだ。ダンジョンの中は何が起きるか正直分からない。うかつに宝箱に触ったり、変な横道にそれたりしないこと。いいな?」


「はーい!」


 あまりにも軽すぎる返事だが、本当に分かっているのだろうか、この錬金術オタクは。俺は先行きが不安ながらも、とりあえず遺跡の中へと進むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ