第15話『異世界初のギャルゲー攻略』
街をふたりで手を繋いで歩きながら、俺はレビアを攻略するために、まずどうやって好感度を高めるかを考えていた。
ギャルゲーだと、選択肢があり、それなりにヒロインを思いやった選択肢を選べば、そうそう酷いことにはならない。
たまにひっかけみたいな感じで、バッドエンドに突入する奴もあるが、基本的にはヒロインが喜ぶことや、ヒロインを褒めることを選択すればいい。
あまりべったり褒めると、引かれてしまう感じの選択肢もあるので、適度適宜に相手を思いやる力が必要となるというのは、攻略サイトを見ずにやるガチ勢だけだ。
俺みたいにギャルゲーエンジョイ勢は、攻略サイトを見ないとまず失敗する。でもここは異世界だ。攻略サイトなんてどこにもない。恋愛テクニックや恋愛心理学の本とか動画なら探せばあるかもしれないが、この異世界にはまだゲームは誕生していないのだ。
というか、ゲームのような世界なので、異世界人もソシャゲやギャルゲーをするより、自分のチートスキルで無双してチーレムする方が楽しいのかもしれない。
無言が続くなか、レビアはあるお店を見かけていた。それはアクセサリーショップだ。この世界のアクセは、追加効果のある物が多く、装備するだけで戦闘が有利になったりする。彼女も何かしら錬金術に効果のある装備が欲しいのかもしれない。
俺は勇気を振り絞ってレビアに語りかけた。
「アクセ欲しいんだろ? 買ってやる!」
俺がちょっと気障っぽく囁くと、彼女は少し申し訳なさそうな表情をした。
「でも、本当にいいの?」
なんかやたら遠慮するので「何故?」と聞き返すと、レビアは心配そうに眉をひそめた。
「だって聞いたよ。ルシフが高難易度クエスト失敗したって。そのせいで、ルシフのお母さんに一週間タダ働きさせられたんでしょ? だったら、いま手持ちのお金あまり持ってないんじゃないの?」
「うっ!」
見透かされてしまった。レビアはヤンデレになるほど繊細だから、空気を読む能力も高い。それからレビアは俺の手を握って、真剣な表情に移り変わった。
「もう無理して恰好つけないでよ! わたしはルシフと一緒に居られるだけで充分満足なの!」
「そ、そうか……」
どうしよう。怒らせてしまった。これは好感度がだだ下がりだ。もしかするともうフラグを折ってしまいレビアの攻略は不可能かもしれない。
俺はレビアのことをけっこうというか、わりと女の子として意識していたため、かなりショックである。俺はがっくり肩を落とすと、レビアは俺の肩に頭を預けてきた。
「わたしはね。どんなアクセサリーなんかよりも、こうしてルシフの温もりを感じて居られる時間が、何よりもの癒しなんだよ」
「うん。うん。ありがとう……」
なんて優しい子なのだろうか。フラグも折れて、もう友達としてしか見られない俺に、同情をかけてくれるなんて、優しいにも程がある。でも恋愛シミュレーションはひとつの選択ミスでバッドエンドになりかねないのだ。
もう攻略は無理なんだと理解しろ。大丈夫。俺にはゲーム攻略という夢がある。ギャルゲーなんかに、現を抜かしている暇なんて、俺にはないのさ。
強がって胸の失恋感を抑えようとしていた。それでも辛い。その時、レビアはいきなりとんでもない発言をしはじめた。
「お礼を言うのはわたしの方だよ。だってルシフはわたしの大切な幼馴染だからね。こうやってふたりでくっついていられるだけで、わたし凄く幸せなんだよ!」
「へ?」
あれ。思ったより好感触なのかもしれない。いやいやいや。まてまて。これだから非モテ男子は駄目なんだ。女の子にちょっと優しくされたくらいで、すぐ勘違いする。俺は自分を律して、レビアの優しさに感謝した。
「そう言ってくれてすごく嬉しいよ。俺みたいな無骨な幼馴染に、温情かけてくれただけでも、とてもありがたい気持ちでいっぱいだ。好きでもない男に優しくしてくれるなんて、君はまさに天使のような女の子だ。本当にありがとう!」
「え、ちょっと待って。今の流れでどうしてそうなるの?」
「分かっている。分かっているから……」
「ええ! なんでそうなるの!」
俺が涙を流していると、レビアは困り果てたような顔をした。そうだよな。いきなり好きでもない男に泣かれたら困ってしまうよな。俺はなんとか涙を堪えようと必死になり、誰にでも優しくしてくれる彼女に最大の敬意を払った。
「レビア。今日はありがとう。友達として久しぶりに遊べて本当に楽しかった」
すると、レビアは急に信じられない物を見たというような驚愕めいた顔をしたあと、頭を抱えて真っ黒な影のある瞳になりながら、ぶつくさと何か言い始めた。
「なんで……。どうしてこんな展開になっているの……。最初は積極的だった癖に、途中からなんかやたら卑屈になっているし……。鈍感だ……。ルシフってこんな鈍感だったの……。ぶつぶつぶつ……」
あれ? どうしてこんなヤンデレっぽくなっているんだろう。もしかして俺、何か地雷でも踏んじゃったのかな?
ひとしきり、ぶつくさ言ったあと、レビアは突然何かを決心した表情になり、俺の手を急にガッと掴んで、自分の胸の間へと引き寄せてから、俺の頬に口づけをした。
「こ、これでも分からないかな? わたしの気持ち……」
「ん?」
あれ、なんでこの子好きでもない男の頬にキスしているのだろうか。もしかしてアレか。錬金術を頑張り過ぎたストレスか何かで、手頃なイケメンに癒されたかったのかもしれない。
俺は純粋な彼女がそこまで必死に根を詰め過ぎて、ストレス過多になっているとは一ミリも気が付かなかった。俺は親友として純粋な彼女に道を違えて欲しくない。だから真剣に彼女を見つめてこう言った。
「好きでもない男にそんなことしたら駄目だ。俺は親友として、レビアに道を違えて欲しくない。錬金術のやり過ぎでストレスが溜まった時は、いつでも俺を遊びに誘ってくれてもいいから、手ごろなイケメンだからって、本気で好きじゃない相手に口づけなんてするのはやめよう。な?」
俺が熱意を込めて接すると、彼女はみるみる血相を変えて、怒りの表情へと変化した。
「ル、ル、ルシフのバカァァァァァァァァァァッ!」
そう叫んで、彼女はその場から一目散に走っていった。ちょっとストレートに言い過ぎたせいで、彼女のデリケートな乙女心を傷つけて、逆ギレさせてしまったのかもしれない。ああ。女の子の心を理解するのって本当に難しい。




