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第144話『傲慢の魔王勇者』

 ミカリスは死んだ。いや、俺がこの手で殺したんだ。


 悲しくはあるが、不思議と後悔はない。


 何せミカリスを殺さなければ、俺のホープ村は滅びの道を辿っていたからだ。


 あれから王に優勝トロフィーと、世界を救った者として【傲慢の魔王勇者】の称号を与えられえた。


 俺はその称号には不服だ。だって俺は勇者なんかじゃない。自分のプライドのためだけに戦った傲慢な魔剣士であり、ただのバトルジャンキーのゲーマーだ。


 魔王勇者だなんて大層なもんじゃない。


 それでも流されるままに表彰されて、現在王都で晩餐会が開かれている。他の家族も呼び出された。一方、魔王城では、魔王を失い、ほとんどの魔族が城を離れて、各自勝手気ままに暴れているらしい。


 要するにミカリスが死んでも、世界の危機は変わらないのだ。


 それと俺は王に飛竜を貰った。この飛竜は異世界人の手によりジェットエンジン式に改良されており、一時間で世界を一周できるスピードを出せるらしい。


 これで行動範囲も大幅に増やせる。これを使い暴れている魔族を倒しながら、来るべき女神との戦いに備えて、伝説の動画配信者さんのようにエンドコンテンツを遊び尽くせる。


 ミカリスがいなくても、破滅フラグがぶっ壊れても、俺の冒険者生活は変わらないのだ。


 開催されたパーティーで、俺は肉を食い過ぎてしまい、気分転換にテラスで夜風に当たっていた。すると、何故か分からないがレビアがやってきた。


 レビアは少し俺を気にかけながら、こう問いかけた。


「ねえ? ルシフはさ? 魔王ミカリスを倒したこと、後悔してる?」


 突然聞いてくるから何事かと身構えたがそんなことか。当然だが、俺は首を振った。


「いや、後悔なんてしてない。むしろ誇りに思ってる」


「そっか……」


 レビアはそう寂しそうに囁いた。


 俺はミカリスを倒したことを本当に誇りに思っていた。あいつとは命を懸けた本気のゲームが、戦いができたのだ。


 たとえもう戦えなくなってしまったとしても、俺の中でミカリスの誇り高き勇姿は永遠に残り続ける。


 だが、俺は大切なことなので、レビアに言っておくことにした。


「俺さ? もっともっと強くなるよ! そして、もっと強い奴と戦ってみたいんだ!」


 俺がそう言い切ると、レビアは微笑みながら尋ねてきた。


「ねえ? ルシフはどうしてそこまで強い人と戦いたいの?」


 レビアのなかには心配の色が窺えた。きっと強敵との戦いで俺が死んだり、人の命を奪うことでまた後悔すると案じてくれているのだ。


 俺はそのレビアの優しさに感謝しながら、はっきりと自分の意志を示した。


「そんなの決まっているさ。それが俺のゲーマーとしてのプライドだからだ!」


 それだけを口にするとレビアは「そっか」とだけつぶやいて納得したように微笑んだ。


 おそらく彼女も心配しながらも分かってくれたのだろう。


 正直、俺はまだまだ戦い足りてない。もっともっとこの世界を、エンドコンテンツをやり込みたいのだ。


 そして、もっと力をつけて、真の黒幕である女神に反逆したい。俺たちは神の操り人形ではない。自分たちの意志で自由に生きるただの人間なのだ。


 女神の思惑なんかで、俺たちの人権や自由や人生を台無しにされてたまるものか。


 俺は絶対に女神の計画を阻止して、大切な者たちを守るためにゲーマーのプライドを思い知らせてやる。


 レビアにはそのことを黙っていた。言わなくても察しているだろうし、大切な恋人を余計不安にさせるようなことは言いたくなかったからだ。


 だって女神への反逆なんて、やっていることがあまりにも無謀過ぎるし、それをわざわざ口にすることでレビアを悲しませたくなかったのだ。


 ただ俺はレビアにこう言った。


「これだけは言っておく。レビア。俺はどんなことがあってもお前だけは守ってやる。絶対にだ!」


 その言葉を聞いた瞬間、レビアは嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ。ありがとう。やっぱりルシフは優しいね!」


 なんだか照れくさくなり、俺はあえて自虐してみた。


「そうかな? 俺なんて、ただ傲慢なだけだと思うけど……」

 

 俺は照れくさくて、レビアから視線を逸らした。しかし、レビアはそんな俺に近づき、両手で頬を包みこんだ。


「そんなこと言わないの!」


 レビアはそう注意したあと、顔を赤らめて微笑んだ。

 

「だってわたしはね? そんな傲慢なルシフのことが世界で一番大好きなんだよ! ……ん!」


 レビアはますます艶っぽくなり、いきなり俺の唇を奪った。俺は抵抗できず、レビアとの甘い口づけを受け入れた。


 しばらくの接吻のあと、レビアはとんでもない不意打ちをかましてきた。


「これがその証拠! わたしはルシフのこと世界一愛してる。ルシフはどう思ってるの?」


 もう反則だ。そんなのこう答えるしかないじゃないか。俺は口を開いた。


「俺もだ。俺も世界一レビアを愛してる。だから俺が必ずお前を守るよ! 約束だ!」


 俺は小指を差し出すと、レビアは喜んで自分の小指を絡めてくれた。


「うん! 約束だね!」


 俺たちは互いに笑い合いもう一度口づけを交わして抱きしめ合った。


 これだけは誓おう。俺はこれからもずっとこの大切な恋人を守るためなら、どんな破滅フラグだってぶっ壊してみせる。


 それが俺の魔剣士ルシフ・ホープとしてのプライドだ。


 そう固く決意して、俺とレビアはテラスのなかで抱きしめ合い、お互いの温もりをただひたすらに感じていた――。


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