第143話『決着!』
闘技場の中、膨大な魔力同士が迸る。俺とミカリスは互いに駆け出した。
俺は瞬歩を活用して、高速でミカリスに近づき、掌底で顔面を狙った。
「せいっ!」
ミカリスはそれを防ごうと剣を構えたが、俺の方がステータスが勝っていたのか、あっけなく吹き飛ばされた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺はミカリスが立つまで待った。
なぜならこいつもまだ本気を出していないからだ。
俺ははっきり言ってやった。
「その程度のはずがないだろう! そろそろ本気を出せ! ミカリス!」
ミカリスは高笑いした。
「あっはっはっはっは。バレていたか……」
ミカリスは笑った。
「そうさ。本当はもっと貴様の力を分析してから、戦うつもりだったが、もうもたもたしていられないな!」
ミカリスは不敵に嗤った。
「いいだろう。僕の本気をお前に見せてやる! 強化奥義――独善の大魔王――ッ!」
ミカリスは元の金髪に青メッシュが混ざり、巨大な青い羽根と、漆黒の悪魔のような姿となった。
俺はその姿を見て、にやりと笑った。
「いいね♪ そうこなくっちゃな!」
ミカリスは高嗤いした。
「ふははははははははは! 見たか! これが僕の全力の姿だ!」
「ああ。最高に痺れたよ! さぁ。本気で戦おう!」
「ふっ。その余裕。何処まで持つかな?」
俺たちは剣を構え合い、まずは俺か仕掛けた。
「秘剣――燕返し!」
俺の高速二連撃を、ミカリスは完全に捌ききった。
そして、速攻詠唱で魔法を放ってきた。
「防げ! ガードウォール!」
ミカリスの魔法は完全に俺の燕返しを無効化した。
俺も負けじと高速詠唱で魔法を発動した。
「撃ち抜け! マジックバースト!」
全力で放たれた巨大な魔力砲撃は、ミカリスにクリーンヒットした。しかし、ミカリスはあえて避けずにそれを耐えきった。
「ふっ。八割持っていかれたか!」
ミカリスは俺に指を刺した。
「褒めてやる! 偽物とは言え、流石は魔剣士ルシフだ!」
俺は嬉しくてにやつきながら、剣を納刀した。
「ああ。もっともっと楽しもうぜ! ミカリス!」
「ちぃ! 僕を舐めるなぁぁぁッ!」
俺は魔力を全開に昂ぶらせると、同じくミカリスも魔力を猛烈なほど迸らせた。
次の瞬間――。全てが消え去るように一閃。火花と火花が稲妻のように怒涛にぶつかり合うように、俺は目の前のミカリスに全力で剣を振るう。
ミカリスはそれを弾き、今度は向こうから仕掛けてきた。その袈裟懸けを俺は逆袈裟で弾き返す。それからは言葉にならないほどの執念と情熱。復讐と矜持がぶつかり合った。
俺の生命力も、どんどん削れていき、残り二割を切ってしまう。ミカリスはあれから生命力を一切削らせず二割をキープしている。
ステータスでは俺の方がわずかに上だが、技量はミカリスの方が圧倒的に上だ。
「これが地獄の実戦で磨かれた魔王の剣か!」
ミカリスは俺を見下すように嗤った。
「ふっ! 貴様こそ、少しばかりステータスが高いからと奢ったな!」
図星で驚いた。まさか見抜かれていたとは。これはもう名残惜しいが早期決着をつけるしかない。俺のゲーマーとしての勘がそう言っている。
俺は剣に黒と赤の魔力の渦を込めた。
「ミカリス。楽しかったよ。そろそろ決着をつけよう!」
俺が無邪気に笑うと、ミカリスはニヒルに嗤った。
「いいだろう。そろそろ貴様を地獄に葬り去りたかったところだ!」
ミカリスも剣の金と青のオーラを溜め込んでいた。
俺は最後の決め技はこれと決めていた。何せ俺を何度も窮地から救ってくれた技だ。これで決めなきゃゲーマーじゃない。
互いの魔力の高まりが臨界点を超えた時、俺とミカリスは叫んだ。
「行くぞ! ミカリス! ゲーマーのプライドを思い知れ!」
「来い! ルシフ! 僕の独善に這いつくばれ!」
互いに一歩踏み出し、自身の最大奥義を放った。
「ダークネスブレイカー!」
「ブリリアントソード!」
互いの剣撃波がぶつかり合う。熱く。そして、矜持と復讐の果てに吠えた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」
互いの最大の一撃がぶつかり合って拮抗する。その果てに俺の剣にひびが入る。大爆発と共に俺は吹き飛ばされた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
声を聞く限り、どうやらミカリスもダメージを食らっているらしい。
(ここで終わってたまるものか)
俺は生命力をなんとか一だけ残して立ち上がった。不死耐性の効果だ。俺の手元からは愛剣が砕け散った。どうやらそれはミカリスも同じらしい。
互いに残る生命力は一のみ。
俺は、ミカリスは「うおぉぉぉぉぉぉ」と吠えながら、駆け出した。
「ゲーマーの――」
「僕の独善に――」
互いの拳が繰り出される。
「思い知れ!」
「這いつくばれ!」
声が重なり合い、クロスカウンターで互いの頬にストレートパンチが繰り出された。
俺は死を覚悟して血を吐き、ミカリスもまた吐血した。
「かはぁっ!」
「ぐはぁぁぁっ!」
俺は意識を失いそうになり倒れそうになった。その時、死を覚悟したが、こんなところで死ぬわけにはいかない。
こんなに楽しい戦いをしたんだ。死なないで、生き残って、絶対に勝ちたい。
それが、それこそが俺のゲーマーとしてのプライドなのだから。
俺はなんとかグローブやグローブの不死耐性と気力だけで死を持ちこたえた。
目の前を見ると、同じくミカリスが立っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まだやれるよな?」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……。あ、当たり前、だ――ぐはぁ!」
その途端、ミカリスは大量に吐血して倒れた。
「ミカリス!」
俺はすぐにミカリスに駆け寄ると、ヒールをかけてやろうとした。
しかし、もうそれは遅いらしい。
ミカリスの身体はどんどん透明になって消えていくのだ。俺は思わず声をかけた。
「しっかりしろ! ミカリス!」
ミカリスは俺を見ると、こう呟いた。
「そうか。やっとわかった。やはり、お前は本物のルシフだったよ……」
俺は涙を流しながら【エリクサー】をミカリスにかけた。しかし、ミカリスは復活することはなく、どんどん薄くなっていく。
どうしようもない悲しさに襲われて、俺は涙が止まらなかった。
「ミカリス! 死ぬな! もっと。もっと俺と戦おう……」
薄く消えながら、ミカリスはようやく本音を口にした。
「ルシフ。お前は僕の目標だった。僕は……僕は……お前に……」
完全に薄くなり、存在が気迫になりながらもミカリスは涙を流して言い残した。
「……お前に勝ちたかった……」
「ミカリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――ッ!!」
そして、ミカリスは消え去り、試合終了のゴングが鳴り響いた。




