第14話『転生後の初デート』
今日はなんと転生後のレビアとの初のデートの日である。ルシフの記憶では、二人はたまにデートを度々行っており、友達以上恋人未満の関係性だったようだ。
あとマウントを取らせてくれ。俺もゲーム大好き陰キャの高校生だったが、デートくらいしたことがある。
実は近所に幼馴染の女の子がふたりいて、彼女らと普通に遊んでいただけだが、男と女が二人きりで遊べば、それはデートなのである。
まあ。転生前の人生では三人で遊ぶことが多かったので、そのふたりのどちらかと、ふたりきりで遊ぶのは月に一回あるかどうかくらいだが。
クラスメイトに、それで幼馴染ふたりハーレムしながらキープして付き合ってないとか、お前はラノベ主人公かよって突っ込まれたことがあるのだが、現実の幼馴染というのはなかなか恋愛に発展しにくいのだ。なんというか、兄妹に近い感覚になることが多い。
俺もふたりを女の子として好意を抱いていなかったし、向こうも恐らく同じだろう。
でも、このレビアという少女に対して、原作のルシフは明らかな恋愛感情があり、レビアも闇堕ち後にルシフに依存した病みまくりのヤンデレ女子化するのだから、おそらくレビアはルシフに恋愛感情を抱いているのかもしれない。
しかし、だが、それは転生前のルシフに対してだろう。転生後のバトルジャンキーと化した俺には若干引いていて、恋愛感情などとっくに冷めているに違いない。
だってあの転生者のガチ恋オタクのマリアにも『うわ。きっしょ』とか引かれていたしな。バトルジャンキーはおそらく女子ウケが悪いのだろう。このデートも、単純に昨日の焼き肉が楽しくて、昔遊んでいた頃が懐かしくなり、息抜きがしたくなっただけだろう。
それにしても、待ち合わせの噴水前でこうやって思索に耽っているのだが、もう約束の時間から二時間も経っている。もしかしてドタキャンかと思ったが、レビアのことだ。どうせ昨日も徹夜で錬金術の研究をしていて、寝坊しているに違いない。
俺は暇なので、その場で【魔力強化】を限界まで高めてスクワットを開始した。一日サボると習慣化が途切れてしまうからな。
努力を持続させるには習慣を辞めないことがコツだ。ガチゲームプレイは修羅の道だ。楽しいだけじゃなく、飽きてきて辛くなることもある。
だからこその習慣化のテクニックが大切なのである。毎日攻略ウィキやら考察サイトを眺めて、ひたすらやり込みと周回を繰り返す毎日。特にレベル上げの度にステータスの決定は乱数で決まるので、乱数調整しながらの最高率のレベリングをして、キャラクターのステータスを最大値まで引き上げるのだ。
正直、ブリファンなんかをここまで極めているのは数人レベルしかいない。それでも極める価値。いや人生の全てを懸ける価値のあるゲームだと俺は信じていた。たとえ原作シナリオがクソだとしてもだ。
とにかくスクワット。スクワット。スクワット。なんかボディビルダーにでもなった気分でレベリングに励む。できたらそろそろ隠しダンジョンとかに挑戦して、効率よく経験値を稼ぎたいものである。
スクワットを続けること三十分。ようやくレビアが駆け足でやってきた。
「はぁ。はぁ。はぁ。ルシフ。遅れてごめん」
「いや。全然待ってないよ。むしろ空いた時間で修行していたからノープログレムだ!」
レビアはふふふと笑いながら、それでも申し訳なさそうに頭を下げた。
「それでも遅れたことに違いはないから。本当にごめんなさい。実はこれを作るのに時間がかかっちゃったの」
レビアが差し出したバスケット籠には、俺の大好物であるチーズ肉サンドが大量に詰まっていた。これは正直かなり嬉しい。俺は最大限の念を込めて、感謝の言葉を口にした。
「ありがとう! レビア! めっちゃ嬉しいよ!」
俺がそう言うと、レビアは照れくさそうに笑った。
「えへへ。そんなに褒められると照れちゃうよぉ。それよりわたしのせいでもうお昼過ぎだし、早速食べよっか?」
「ああ。もちのろんだ!」
俺たちは噴水近くのベンチに座って、バスケット籠のチーズ肉サンドを頬張り始めた。蕩けるチーズとカリカリの肉の触感がたまらない。俺は思わず三秒で一つ目を食べてしまい、二つ目に手を伸ばそうとしたら、レビアに笑われてしまった。
「ふふふ。ルシフったら食べるのが早すぎだよぉ。できるならもっと味わって食べて欲しいな。だってルシフのために、あれだけ時間と味を研究して頑張ったんだからね!」
そこまで言われると、早食いはできない。でも俺のために頑張ってくれたのは正直嬉しい。なんて親友想いのいい子なのだろうか。感激で涙が零れ落ちそうである。
「わかった。もっと味わって食べるよ!」
俺はチーズ肉サンドをゆっくりと味わうようにして食べた。そこで初めて気が付いた。チーズの蕩け加減が絶妙なこと、味付けは焼き肉のタレのような甘さに、少し唐辛子でスパイスを利かせていることに。
しかも肉の焼き加減も俺好みのこんがり焼きにしてある。それに肉や野菜の切り方も食べやすいように工夫してある。これは食べる側の気持ちを考えて作った絶品だ。俺はレビアに親友として、そこまで大切想われていることに感激した。
「どう美味しい?」
こちらを上目遣いで聞いてくるレビアに、俺は満面の笑みで応えた。
「絶品だ。レビアは料理上手だな!」
「もう! 褒めすぎだよぉ!」
レビアはそう言っているが、ここはきちんと褒めておく。今は親友としてしか見られてなくても、異世界での恋人最有力候補はレビアだ。
妹であるベルゼナは論外として、あの肉食系女のジークや、ガチ恋女オタクのマリアとは恋愛関係になる可能性は限りなくゼロである。というか、俺が生理的に無理だ。
なので、少しでも好感度を稼いで、そういう関係になる確率を上げておく必要がある。せっかく二次元みたいな可愛い美少女がたくさんいる世界なのだ。RPGだけじゃなく、ギャルゲーとしても楽しまなくてはもったいない。
弁当を食べ終わった俺は、手を合わせて感謝の念を込めて言葉を発した。
「ごちそうさまでした!」
親の躾のせいで、食べ物に関しては最大限の感謝を持ちなさいと言われていた。最近は物価高で食材だって無駄にはできないのだ。異世界では関係ないかもしれないが、それでも感謝はするべきだろう。
レビアはふふふとほんわか笑いながら、こう返した。
「お粗末様でした!」
本当にレビアはいい女だ。やばい。俺ちょっと好きになりかけているかもしれない。どんだけちょろいんだよと、ちょっと優しくされたくらいで、すぐ勘違いするとか、モテない陰キャの悪い癖だぞと、自分を戒める。
彼女の好意はラブではなくライクだ。つまり親友としての友情だ。そこを履き違えて勘違いすると痛い目に遭う。
これは気を引き締めなければ、そう思いつつも、やはり好感度は稼ぎたいので、立ち上がった俺はレビアに手を差し出した。
「さあ。せっかくのデートなんだし。もっと楽しもっか!」
俺が差し出した手をレビアは顔を赤くしながら掴んで立ち上がった。
「うん。ふたりでいっぱい楽しい思い出を作ろうね!」
これはけっこう好感触かもしれない。なんとか好感度を上げるために頑張らねば。俺のギャルゲー攻略はまだ始まったばかりだ。




