第137話『王都でのデート』
俺は王城の部屋で暇を持て余していた。
少しお腹が減ったので、目の前にあるリンゴに被りついている。
第二試合、つまり準決勝が終わった。
決勝は三日後の予定だ。
それにしても、あの金髪の男のことが気になっていた。
何故、あいつは俺に執着しているのだろう。
別に勇者になりたいわけではなさそうだし、俺も大切な者たちを守るために仕方なくやっているだ。
もし、あんな異常者でなければ、試合だけ楽しんで、勝ちそうになったところで降参していた可能性が高い。
あいつは何のために、この勇者選別武術大会に参加しているのだろうか。
なんだか妙に嫌な予感がする。正直、胸のざわつきがおさまらない。
俺はそれよりリンゴだと気分を切り替えて、黙々と被りついていると、部屋がノックされた。
「ルシフ。いま時間いいかな?」
この声はおそらくレビアだ。もしかすると金髪の男が声を擬声して暗殺に来た可能性もほんの少しだが考えている。
俺は慎重に、いつでも【ダークネスブレイカー】を発動できるように身構えながら、部屋のドアを開いた。
そこには蒼海のような鮮やかな色合いの胸元が強調されたスカートの丈の短いドレスを着たレビアが恥ずかしそうに立っていた。
あまりの美しさに、今までの不安が消し飛び、すぐにレビアに視線が釘付けになってしまう。
俺の熱い視線に気が付いたのか、レビアはますます恥ずかしそうにもじもじしながら返事した。
「も、もうそんな変な目でみないでよ。ルシフのえっち……」
「ご、ごめん……」
なんだか微妙に気まずい空気が流れだして、しばらくの沈黙が訪れた。
どう声をかけようか迷っていると、レビアが俺の手を握ってくれた。
「そ、その焦らなくても、夜にはちゃんと好きにさせてあげるから。だからその……」
レビアは少し緊張しながら、俺に目的を口にしてくれた。
「今日、暇でしょ? だから息抜きにデートとかどうかな?」
レビアの顔は、まるで沸騰したポットのように、真紅の色に染まっていた。
もう付き合って一年近く経つのに、お互い人見知りなせいで、こういう時は緊張してしまうのだ。
俺はレビアの手を情熱的に握り締めて、部屋を出た。
「ああ。いますぐ行こう!」
俺が手を引いてリードすることで、レビアもようやく緊張感を解いて、まるで天使のような表情を見せてくれた。
「うん。行こっか!」
胸の高揚感を覚えながら、俺たちは王城を飛び出した。
門兵に丁寧に会釈をして、城の門をくぐり抜けると、そこはゲームの中とは少し違った風景だ。
異世界人の手により、現代的なショップもかなり増えている。
俺はレビアに紹介したいところがあったので、なんとか勇気を振り絞って聞いてみた。
「なぁ? 異世界人が経営している武器屋に行ってみないか?」
レビアは興味津々に頷いた。
「いいね。わたしも錬金術の勉強になるし、異世界人の鍛冶屋さんが作った武器とか見てみたいな!」
彼女を武器屋に誘うとか、彼氏として如何なものかと思わなくもないが、やはり金髪の男との戦いに向けて、サブウェポンを用意しておきたいのだ。
それもタカネとの戦いで、俺は格闘戦のコツを瞬時に見極めて掴んでいる。
あの金髪の男との試合では、命が懸かっている。
まさにデスゲームであり、新たな破滅フラグとも言えるわけだ。
それをぶっ壊さずして、果たしてミカリスの手から村を守れるだろうか?
答えは否だ。
俺はレビアの手を引いて、少し駆け出した。
「早速行こう! 資金ならたくさんあるから、参考にしたい武器があるなら買ってやるよ!」
プレゼントを買って貰えることを知り、レビアは嬉しそうにテンションを上げた。
「やったー! ありがとう。ルシフはやっぱり優しいね!」
俺は少し恥ずかしさ混じりに首を振った。
「別に気にしなくていいよ。レビアにはいつもお世話になっているからな」
遠慮がちに返事すると、こちらの心中を察して、なおレビアは俺を肯定してくれた。
「ううん。わたしはたいしたことしてない。でも、そういうところだよ? いつもわたしがルシフのことを優しいって思ってるのは!」
思った以上の破壊力だ。そんな風に褒められて嬉しくないわけがない。
今すぐ抱きしめて、口づけした気分になったが、公共の場でイチャつくのは流石に俺には難易度が高い。
俺は自分の顔に熱がこもるのを感じながら、端的に礼を述べた。
「ありがとう。レビア。愛しているよ……」
そういうと、レビアは嬉しそうにはにかみながら頷いた。
そんな甘い雰囲気から、俺たちのデートは始まった。