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第136話『金髪の男VSナナミ』

 試合終了後、俺は居心地が悪いため、選手控室には戻らなかった。


 あそこにいると金髪の男と出くわして、互いの嫌悪感をぶつけ合って喧嘩になる可能性が高い。


 そう考えると、仲間や家族と一緒に試合を見た方が安心できる。


 というわけで、いまは観客席に周囲の視線を気にしながら座っていた。

 なんでこんな目立つんだよと、文句を言いたい。


 言いたいのだが、そんなことをいちいち気にしていたら、魔王討伐後なんて外を歩けなくなるだろう。


 これも一種のメンタルのレベリングだと割り切って、なんとか堪えて座っている。


 俺はいたたまれない気持ちになって、仲間や家族に話かけた。


「次の試合は、いよいよ金髪の男とナナミ・ナナミヤだな!」


 まずは舞花が比較的クールに解説した。


「そうね。金髪の男はステータスが異常。ナナミはスキルが異常。どっちが勝ってもおかしくないわ!」


 レビアも緊張した面持ちで会話に参加してきた。


「勝った方が、ルシフと決勝で戦うんだよね?」


 次は父ベルフゴルが、渋めの表情で頷いた。


「そうだね。どっちも厄介な相手には変わりないな……」


 父は目を細めて俺に視線を送った。どうやら心配しているようだ。


 ここは息子として、親に心配をかけたくないという思いが勝り、少し楽観的な発言をした。


「まあ。大丈夫さ。きっとなんとかしてみせる!」


 俺はサムズアップを送ると、父は少し表情を緩めた。


 いよいよ試合開始だ。両コーナーから現れた選手はそれぞれ異様な出で立ちをしていた。


 金髪の男はさっきと違い黒い喪服のようなスーツを身に纏っており、ナナミはお下げの黒会をすべておろしており、女子高生の黒基調のブレザーを羽織っていた。


 おそらく何かの対策か、気分でも変えたかったのだろうか。


 両者はそれぞれの想いで相手と睨み合っていた。


 これで金髪の男のスキルが、相手のスキルを無効化するシロモノか、判断できるだろう。


 ついに試合開始のルールを審判が真剣な面持ちで説明した。


「ルールは一回戦と変わりません。おふたりとも、準備はよろしいかな?」


 金髪の男は小馬鹿にしたような視線で頷き、ナナミも並々ならぬ覚悟を秘めた眼光を煌めかせて頷いた。


 審判は両者の視線を受け止め、首肯しながら、手刀をかざした。


「それでは試合開始!」


 刹那の刻。電光石火の如き黒と青の稲妻が迸った。


 何事かと思ったら、ナナミの体が斬り裂かれ、大量の血飛沫とともに、絶命していた。


 まるで一秒にも満たない衝撃の出来事だった。


 秒殺。そんな単語が脳裏に浮かんで、俺は驚きが隠せずに呟いた。


「まさか、秒で終わらせるとはな……」


 舞花も同じ思いだったようで、冷静に解説を述べた。


「ええ。全く見えなかったけど、おそらく瞬歩に莫大な魔力を乗せて昇華させていたわね。まさに、秘剣・電光石火の一閃と言ったところかしら……」


 いいネーミングセンスだと言おうとしたが、それどころではなかった。


 周囲の観客は、金髪の男の恐ろしいまでの強さに、恐れおののいて悲鳴を上げた。


「きゃあああああああああああああああああああ!」


「う、うわあああああああああああああああああ!」


 会場はもう大パニックで、逃げ出す者すらいた。


 しかし、そんな状況でも審判は冷静に試合の勝敗を告げた。


「し、し、勝者……! 金髪の男!」


 ゴングとともに、金髪の男は嫌らしく嗤いながら、丁寧にナナミの死体に聖水を浴びせて消し去った。


 そして、まるで喪に服したかのように、胸に手を置いて頭を下げた。


 その時、奴の視線は俺に向けられていた。


 まるで次はお前の番だぞとでも言いたいかのように。


 こんな人の命を犠牲にしたパフォーマンスで挑発されたら、怒りのあまり受けて立つしかなくなる。


 それすら奴の計算通りなのだろう。


 俺は胸にふつふつとした炎をたぎらせて囁いた。


「……上等だ」


 不思議な気持ちだ。こんないかれたクレイジーサイコ野郎と対面することに、俺は好奇心と喜びで満ち溢れていた。


 やってやる。人の命を玩具にするお前を勇者にしてたまるものか。


 そして、なによりも最恐の力を持つお前に、俺がゲーマーのプライドを思い知らせてやる。


 俺はそう誓いを立てて、仲間と会場を後にした。

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