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第133話『ルシフはルシフのままでいいんだよ』

 王城の訓練場で、俺は先代勇者の【真・究極覚醒】を習得するために、怒りを爆発させて修練に取り組んでいた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!!」


 俺はもうすでに【真・究極覚醒】を自分の物にしていた。


 その凄まじい魔力は、俺の体を焼きつくすかのように荒れ狂っている。


 俺は前世からの習慣で一度見たものはすぐに真似して習得できるのだ。


 まるでラーメン屋や職人の師匠が、見て盗めというかのように、見ただけで瞬間的に理解できてしまう。


 それは神経にすりこまれるかのように、感覚的に習得できてしまう。


 我ながら、成長速度だけに関しては天才だと思う。


 だが、問題はこの【真・究極覚醒】と【傲慢の魔王】の融合化だ。


 このふたつをかけ合わせることができれば、あの金髪の男にも対抗できるだろう。


 僕は胸に憎しみの焔に身を焦がされそうな想いだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!!」


 先ほどより気合を入れて、【真・究極覚醒】を発動したあとに、【傲慢の魔王】を重ねるように発動させようとしたが、なかなか上手く行かない。


 まるで苦虫を噛みしめるような想いだ。


 俺はぶっ倒れること覚悟で、再び修練に取り組もうとしたが、背後から呼びかける声が聞こえた。


「ルシフ。もうやめて……」


 後ろを振り返ると、そこには涙ぐんだレビアの姿があった。


 まるで人魚のような美しい顔は、涙の跡でいっぱいだった。


 俺は心配になってレビアにかけよった。


「どうしてここに居ることが分かったんだ?」


 レビアは自分の冒険者カードを見せた。


「ルイナと一緒に改良して、ルシフの跡を追跡できるようにしたの……」


「そうか……」


 俺はツッコミたい衝動を抑えきれずに、心の中で恋人のヤンデレ具合に対して叫んだ。


いやいや、それ普通に犯罪だからね?


 だが、そんな些末なことなど、どうでもいい。


 なぜレビアは泣いているのだろうか。


 俺はどうしても気になって尋ねた。


「それより、どうしてレビアは泣いているんだ?」


 俺の問いかけに、レビアはゆっくりこちらへ近づき、真っすぐ熱い想いを乗せるような視線を送り、両手で俺の手を包み込んで答えた。


「ルシフが憎しみに囚われているから」


 その言葉に俺ははっとした。


 確かに俺は先代勇者を殺されたことで、心の中は憎しみの感情でいっぱいだった。


とうとう俺は堪えきれなくなり、自分の想いを告げた。


「先代勇者は前世の時からゲームで知っていた。本当にいい人なんだ」


 俺はポロポロと、頬を伝う雫を流しながら、懐かしい【ブリファン】の想い出とキャラへの愛を吐き出した。


「あんなクズな勇者ミカリスに対しても、弟子として認めて、一生懸命【正義の勇者】の習得のために手を貸してくれるようなお人好しなんだ!」


 俺はまた胸に憎しみの焔が宿り、身を焦がされる思いで大量の涙を流した。


「なのに――ッ!! あの金髪の男は、先代を殺した。しかも彼が命を懸けて貫いた勇者のプライドを否定したんだ!!」


 そう俺は先代勇者ローグ・セントナイトの誇り高さを知っているからこそ、どこの誰だか分からない、異世界人に汚されて、侮辱されるように殺されたのが許せなかったのだ。


 まるではらわたが煮えくり返るような感覚だった。


 そして、その憎しみに囚われたまま、俺はこの訓練場で修行していたのだ。


 目の前で涙を流しながら、優しく微笑んでいるレビアに、俺は自らの胸中をぶつけた。


「どうしても許せなかったんだ。あいつだけは……どうしても許せなかったんだよぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 俺は涙が堪えきれなくなり、渦巻く憎しみに焼かれそうになり泣いた。


 そんな俺をレビアは優しく抱きしめてくれた。


「憎しみに囚われるなんて、ルシフらしくないよ……」


 今度はレビアが俺への想いを優しく抱きしめたまま、ありったけの愛を込めて綴ってくれた。


「わたしはね。楽しそうに戦っているルシフが好き。そんな憎しみに囚われた戦い方なんてルシフらしくないよ? そうでしょ?」


 俺は胸の中の炎が消えた。


 まるで彼女のそよ風に抱きしめられるようにかき消されたのだ。


 そして、胸の中には灰が溢れ出るような感覚がした。


 そこで俺は自らの過ちに気が付いた。


 そうだ。俺は闇堕ちを回避しようとしていたはずだ。


 それなのに、先代が殺されたことで、自らの心の闇に囚われて闇堕ちしかけていたのだ。


 大切な人を守るために、闇堕ちフラグをぶっ壊したはずなのに、俺自身が自らで自らの心をぶっ壊していたのだ。


 俺は自分の間違いを認めて、レビアに語った。


「そうだな。憎しみに囚われるなんて……俺らしくないよな……」


 俺は心の灰に支配された感覚がした。


 このまま真っ白に燃え尽きてしまうのではないか。


 そんな感覚がしたのだ。


 しかし、その感覚も、レビアの一言によって変えられた。


「そう。ルシフらしくない。わたしは思うんだ。ルシフはルシフのままでいいんだよって……」


 そして、まるで聖なる水の如く、彼女の海のような深い愛が俺の中の灰を洗い流した。


「だってわたしは、楽しそうにしているルシフを愛しているから。ルシフがルシフのままでいてくれることが、わたしにとって一番の幸せなんだよ……」


 全部浄化された。そんな気がした。


 胸の憎しみも、苦しさも全てレビアが癒してくれた。


 俺はレビアを強く抱きしめて、そのあと、ふたりで見つめ合って接吻した。


 甘く囁くように、自らの決意を表明した。


「ありがとう。レビア。正直、救われたよ」


 俺はレビアから離れて、涙を拭き、ニコッと笑った。


「俺もっと楽しむよ。憎しみなんてとらわれずに、あの金髪との試合も楽しんで戦う!」 


 そして、グッと握りしめた拳を前に突き出した。


「それが、それこそが、俺のゲーマーとしてのプライドだ!」


 そんな俺を見たレビアは涙を流しながら笑った。


「うん。それでこそわたしの好きなルシフだね。ん……ッ!」


 レビアは強く俺を抱きしめた。


「今夜は一緒にいたいな……」


 俺はその意味を理解して、ゆっくり頷いた。


「ああ。俺もだ……」


 なんだか照れ臭いが、いまはただレビアに甘えたい、そんな気分になっていた。


 俺は苦しいだけの訓練は中止して、宿へ戻り、レビアと一夜をともにした。

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