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第131話『先代勇者ローグの意地』

 俺は選手控室に戻ると、なんとか次の試合に間に合ったようだ。


 控室にはタカネとカズヤがイチャイチャしており、ナナミが読書をしていた。


 俺が戻ってきて、一瞬だけこちらを見たが、すぐにタカネとカズヤは互いの身を寄せ合って、愛の言葉を囁き合い、ナナミは本を熱心に読み始めた。


 無視されたような陰キャ特有の辛さを感じる。


 それより試合だ。


 なぜなら、俺はこの試合を楽しみにしていた。


 なんせ、先代勇者のローグ・セントナイトと金髪の男の勝負だからだ。


 ローグのじいさんは規格外に強いし、金髪の男については謎が多い。


 どちらが勝ってもおかしくないのだ。


 画面にはローグのじいさんと金髪の男がそれぞれアップで映し出されていた。


 ローグのじいさんは試合前に水筒を飲んでいる。


 ということは試合前に酒を飲んでいるのだ。


 あのじいさんは相変わらずファンキー過ぎる。


 金髪の男は比較的冷静な態度を貫いていた。


 そこでローグのじいさんが金髪の男に語りかけた。


「お前さん。どうやら悪い意味で強くなったみたいじゃのう。ふぉふぉふぉ。分からせてやるのが楽しみじゃわい!」


 どうやらふたりは知り合いのようだ。


 そして、金髪の男はぶっきらぼうに淡々と答えた。


「貴方はもう過去の遺物だ。遺物は大人しく墓の中で眠っていて貰おうか!」


 どうやら金髪の男はローグのじいさんを亡き者にすると宣言したようだ。


 ローグのじいさんはまた酒を飲んで笑った。


「この老いぼれの命など好きに持っていけ。ただわしはそう簡単に負けはせんぞ?」


 審判がふたりの間に入り、手刀をかざした。


「準備はよろしいかな?」


 ふたりが頷くと、審判は叫んだ。


「それでは試合開始!」


 ゴングが鳴り響き、その瞬間ふたりから圧倒的な魔力が溢れ出た。


 どうやら爺さんは【真・究極覚醒】を発動したようだ青い魔力が稲妻を立てて発している。


 金髪の男からは禍々しいくらい黒と青の魔力が溢れ出たあんなの見たことがない。


 ふたりが強化奥義を使い終わると、先に仕掛けたのはじいさんだった。


「奥義――ブリリアントソード!」


 先代勇者だけあって、いきなり勇者流免許皆伝奥義で攻めに行った。


 しかし、それを金髪の男はハイキックでへし折った。


「ええ! マジィ!」


 試合を見ていたタカネが声を荒げた。


 無理もない。


 あんな芸当たぶんここの選手控室にいる中では、誰にもできない。


 そして、【ブリリアントソード】を解除され、無敵状態を失ったじいさんに金髪の男のボディブローが入り込む。


「ぐはぁ!?」


 そこからはワンサイドゲームだった。


 金髪の男はまるでなぶるようにじいさんを容赦なくボコボコにした。


 血だらけで、傷だらけになったじいさんは、それでも瞳のギラつきが消えてなかった。


 金髪の男は最後にじいさんの頭にかかと落としを決めてこう吐き捨てた。


「やはり貴方はもう古い。そのまま大人しく気絶していろ!」


 審判は試合終了を告げようと、手を挙げようとしたが、なんとローグのじいさんは立ち上がった。


 俺は思わず呟いていた。


「……やめろ。もう立つな……」


 もちろん俺の声なんて画面越しには伝わらない。


 ローグじいさんのことは原作で多少は知っている。


 やはり大好きなゲームのキャラクターには死んで欲しくない。


 もうやめてくれと内心叫ぶ、俺の願いは届かなかった。


 ローグのじいさんは足り上がり、先ほどの一・五倍くらいの魔力を引き上げた。


 名づけるなら【真・究極覚醒・改】と言ったところか。


 とんでもないじいさんだ。


 じいさんは金髪の男に向かって吠えた。


「このくらいでこの老いぼれを倒せると思いあがるなよ! この青二才がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 まさに不屈の闘志だった。


 元勇者のプライドと言ってもいいだろう。


 金髪の男はそれを見て侮蔑したように冷たい視線を送った。


「そのまま寝ていればいいものを。なら貴方には速やかに引導を渡してやろう!」


 金髪の男はさっきの二倍の魔力を引き上げた。


 じいさんのステータス強化が三十倍だとするなら、金髪の男は百三十倍だ。


 正直、ふたりとも通常強化奥義の俺のステータスを軽く凌駕している。


 もうふたりとも伝説の動画配信者さん級の強さを持っているだろう。


 じいさんは全力で吠えて瞬歩で距離を詰めた。


「砕け散れい!」


 じいさんの右ストレートが、金髪の男に襲いかかる。


 しかし、金髪の男はそれを回避して、じいさんを斜め横から払い斬りした。


 「がはぁ!」


 じいさんの身体から致死量の血が溢れ出た。


 おそらく生命力はもう一程度しか残っていないだろう。


 だが、それでもじいさんは倒れなかった。


 そして、吠えた。


「うおおおおおおおおおおおおおお! わしは! 勇者はこのわしじゃあ! ミカリスが闇に堕ちたのなら、わしが戦うしかないじゃろうがぁぁぁぁぁぁ!」


 もうこれはプライドどころの話じゃない。


 意地だ。


 じいさんの勇者として覚悟が彼を奮い立たせているのだ。


 俺は思わず涙を流し、ぼそりと呟いた。


「じいさんもうやめろ……。頼むから、もうやめてくれ……」


 金髪の男は意地で立とうとするじいさんに屈辱的なセリフを浴びせた。


「勇者の意地などくだらない。そんなことだから貴方は僕に勝てないんだよ! このくたばりかけのくそじじいが!」


 じいさんは不敵に笑い、こう呟いた。


「そのくたばりかけのくそじじいにお前さんは負けて死ぬんじゃよ! 砕け散れ! 小童!」


 じいさんは全力でアッパー攻撃をしかけた。


 しかし、金髪の男はその腕を掴み、変な方向へと捻じ曲げた。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その地獄のような痛みに耐えながら、じいさんは左フックを放った。


 金髪の男はその左フックを回避して、残酷な言葉を告げた。


「さよならだ。先代よ!」


 そう言い放ち、金髪の男は先代の心臓を突き刺した。


 俺は画面越しに叫んだ。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 その瞬間、魔力を送り込み、じいさんは青黒い魔力の稲妻に焼かれた。


「ふぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 じいさんは跡形もなく消え去った。


 その瞬間ゴングが鳴った。


 審判は怯えるように勝者の名を告げた。


「しょ、勝者……金髪の男……」


 会場も静まり返っている。


 そこで金髪の男はカメラ目線でこう言い放った。


「ふっはっは。貴様ら分かったか? 勇者なんてくだらない価値観に拘るからこうなるんだ! こんな武術大会などに意味などない! ルシフ・ホープ! これが僕とお前の差だ! 恐怖のあまり眠れぬ夜を味わうがいい。あっはっはっはっはっは!」


 中継が終わった。


 その途端、自分の中で何かがぷつんと切れた気がした。


 俺は静かに呟いた。


「許さない……」


 その瞬間、俺の身体から白と紫のオーラが溢れ出した。


 これでも制御している方だが、正直、理性が飛んでしまいそうになっていた。


「ひ、ひぃぃぃぃ……」


 タカネの悲鳴が聞こえる。


 ちらりと周囲を見ると、タカネは震えあがり、カズヤは小便を漏らし、ナナミは本を落として膝を抱えている。


みんな、まるで悪魔でも見るような視線を俺に送っていた。


 俺は居心地が悪くなり部屋から立ち去った。


 そのまま闘技場を歩いていると、ちょうどタイミング悪く金髪の男に出くわした。


 金髪の男は俺にこう告げた。


「いい魔力だ。あのくたばったくそじじいよりは楽しめそうだな……」



 俺は怒りのままこいつを殺してしまおうか迷ったが、そんなことをしてはカズキと同じ運命に遭ってしまう。


 俺はこれだけ伝えた。


「貴様だけは許さない。待っていろ。決勝戦で、貴様だけは確実に、この俺が倒す……」


 俺の怒りの言葉に、金髪の男はこう返した。


「やれるものならやってみろ。この凡才が!」


 そう吐き捨てて、金髪の男は立ち去った。


 俺はローグじいさんの意志を継ぐために、控え室には戻らずに、王城の訓練場へ籠り、秘密の特訓を開始した。

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