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第128話『水黽眼鏡』

「できたでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 昨日の深夜遅くまでジンクとボードゲームをして、そのまま寝落ちしていた俺たちはルイナの叫び声によって起こされた。


 俺はふわぁあと伸びをすると、ジンクも同じく口に手を当てながら欠伸をしている。


 それよりもさっきの叫び声の通りなら遂に例の対策アイテムができたのだろう。


 俺はジンクと一緒に急いで階下を降りて、ルイナの研究室へと向かった。


 ルイナはスマートな形をした眼鏡をブラブラさせていた。


「ほら見てみぃや! この美しさを!」


 いや。美しさとかどうでもいいから機能を説明しろよとツッコミたかったが、ぐっと堪えた。


 なんとなく雰囲気で察したのか、レビアが解説を始めた。


「この眼鏡はね。【水黽眼鏡】って言って、どんな素早い動きでも、まるでスローモーションのように見える眼鏡なの。とりあえずつけてみなよ!」


「ああ。分かった!」


 俺は言われた通り、【水黽眼鏡】なるアイテムをつけてみた。


 確かになんだかみんなの一挙手一投足がものすごく遅く見える。


 俺は試しに頼んでみた。


「レビア。俺を思いっきりビンタして見てくれ?」


 レビアは戸惑いながら尋ねてきた


「いいの? すごく痛いよ?」


「たぶん。大丈夫だ。当たらないから。遠慮せず思いっきりやってくれ!」


 そうお願いすると、レビアは覚悟を決めた表情をした。


「分かった。じゃあ行くよ?」


 レビアは思いっきり俺の頬を叩こうと、【新魔力強化・改】で肉体を強化して叩こうとしてきた。


 しかし、俺はその攻撃がまるでスローモーションのように見える。


 俺は軽く身を反らし、レビアのビンタを二本の指で白刃取りした。


「え……。うそ……!?」


 どうやらレビアも相当隠れて修行を積んでいたらしい。


 通常でも当たることはないが、流石に白刃取りまではできなかっただろう。


 つまり実験は大成功である。


 俺は一応眼鏡を外して、ルイナに手渡した。


「すごいよ。これ。まるで兎が亀になったように見えるよ!」


 ルイナはくすくすと笑った。


「おもろい表現しはるなぁ。流石はルシフはんや!」


 確かに兎と亀の物語はあまり知られてないかもしれない。


 そりゃ面白い表現になるのかな?


 どちらにせよ。


 この【水黽眼鏡】があれば、ミズキやタカネも怖くない。


 俺はルイナとレビアに頭を下げた。


「本当に助かった。これで何とかミズキやタカネとも互角に戦えるよ!」


 そこでレビアは俺にもうひとつアイテムを渡した。


「これはコンタクトレンズ。もし眼鏡を狙われたらこれを試してみてね! 全く同じ効果だから!」


 まさかコンタクトレンズまで開発するとは、普段から異世界人と接しているだけあってレビアの発想はルイナより一歩先を行っている。


 こんな頭のいい彼女を持てたことを俺は誇りに思う。


 俺はレビアの頭を撫でた。


「ありがとな。レビア。一生大事にするよ!」


 そして、レビアは注意喚起を出した。


「一応その水黽コンタクトレンズも水黽眼鏡も魔力性だから壊れても、破片が目に刺さることはないから安心してね?」


 まさかそんな特殊加工がされているとは。


 俺はふたりに頭を下げた。


「ふたりとも本当にありがとうございました!」


 ルイナは慌てたように手を振った。


「そんな気を遣わんといて。ウチら友達やろ?」


「そうだぜ。兄弟。水臭いっての!」


「そうだよ。わたしはルシフの彼女なんだからこれくらい当然だよ。いつも助けて貰ってるしね」


 俺は涙が込み上げてきて、思わず泣いてしまった。


「ありがとう。みんな本当にありがとう。うぅぅぅぅぅぅ……」


 レビアは俺の肩を支えた。


「泣かないでルシフ。みんな動揺しちゃうから!」


 ルイナも優しく声をかけてくれた。


「ルシフってクールなイメージあったんやけど、意外と繊細なんやな。なんかちょっとウチの好感度上がったで、どっかのお金のことしか考えとらん馬鹿とは違ってデリケートでええわ!」


 ジンクはツッコんだ。


「うっせぇ。誰のおかげで店が儲かっていると思ってやがんだ!」


 ルイナは勝ち誇った表情で言った。


「そんな態度取ってええんか? ウチがやる気失くしたら売り上げどうなるんやろなぁ。にっしっしっし!」


「ちっ。そういう性悪なところがなければタイプなのによ。なんでこんな女好きになっちまったんだか。まだ一回もちゅーさせてくれないし!」


 ルイナは馬鹿にしたように笑った。


「ウチの唇はそんな安くないで。だったらこの店を王都一にすることやな!」


 ジンクはパチンと指を鳴らした。


「言質取ったぞ。録音もしたからな? ぜってぇ王都一の店になったら俺と付き合えよ?」


 ルイナは小悪魔的に笑った。


「それはあんた次第や。せめて一年はその状態を維持できたら考えたる。ちゅーくらいなら店一番になったらしてやるわ!」


 ジンクはやる気を出したように大声を上げた。


「よっしゃ。んじゃ早速商売の準備だ。兄弟やレビアは朝飯食ったら帰りな。商売の邪魔だ!」


 なんかこの男は単純というか、欲に正直というか、本当に分かりやすい奴だ。


 天才商人とは思えない軽薄さだ。


 そこでルイナはとんでも発言をした。


「実はな。ルシフとレビアはもう大人の階段を登ったらしいで? まあ。ジンクも精々頑張りや!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺たちふたりはジンクに睨まれた。


「このぉ! リア充爆発しろ!」


 何年前のネット用語だよと思いながら、俺たちは朝食のベーコンエッグとハムサンドをいただいて、ジンクとルイナの店を後にして、王城へと帰還したのであった。

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