第126話『予選の打ち上げ』
予選を無事勝ち抜いた俺は、王城を抜けて、みんなとハンバーガーショップに来ていた。
そこはまるで前世で見たことのあるようなハンバーガーショップその物だった。
俺はてりやきハンバーガーを注文してから、みんなと一緒に席に座っている。
レビアは慣れないみたいで、おどおどしていた。
「な、なんだかすごいところに来ちゃったね……」
愛しの彼女は人見知り故、未知の光景に好奇心を刺激されながらも、圧倒されているようだ。
そりゃそうだ。
田舎の異世界人が、ハンバーガーショップなんか見たら、こうなるに決っている。
俺は不安がるレビアに優しく手を添えた。
「大丈夫だ。心配しなくてもちゃんと美味しいハンバーガーが届くからな?」
レビアに優しく囁きかけると、彼女も安心して手を握り返してきた。
それはまごうことなき恋人繋ぎだ。
レビアは少しはにかみながら答えた。
「うん。ルシフがそう言ってくれたから、なんだか安心しちゃった。本当にルシフは優しいね……」
急に優しいねとか言われるとどうも照れ臭くなってしまう。
俺は端的に「そ、そうかな……」とだけ返事しておいた。
その様子をじろっと見つめる視線を感じた。
舞花である。
どうも俺たちがイチャイチャしているのを嫉妬したらしく文句をぼやいてきた。
「ホント。呑気なもんよね。そんな恋人に甘えてばかりいて、ちゃんと次の試合でミズキ・シジョウに勝つ対策は考えてるんでしょうね?」
俺は誤魔化しようがないので素直に答えた。
「え、えっと……。それを相談するために、明日ルイナの店にレビアと一緒に行こうかと思ってる……」
一応、考えているという意志だけは見せておいたので、舞花も納得してくれた。
「ふぅん。それなら別にいいけどね。まあ。どうせあんたみたいなチートの権化は相手がどう足掻こうが勝てないわよ。一体何度アタシが何回あんたのそのチートさ加減に苦労させられたことか……ぶつぶつ……」
またしても説教が開始された。
俺どうしてこんな面倒臭いやつとずっと仲良く幼馴染なんてしているんだろう。
しかも異世界に来てまで。
舞花の説教がヒートアップしそうなところで父がストップをかけてくれた。
「まあ。まあ。みんなここは穏便に行こうじゃないか。ただでさえ店の中でこれだけ他の客に見られているだから? ね?」
父の正論に舞花は真っ赤になり、レビアもすぐに手を離し「ごめんなさい」とふたり揃って謝罪した。
そうこの周囲の視線は好意五割。三割興味本位。二割敵意の眼差しだ。
ああ。英雄って本当に面倒臭い。
しかも動画配信で拡散される異世界とか、実力隠したチートムーブできないじゃん。
悪役転生のテンプレ崩壊じゃん。
大体俺みたいな状況をネット小説では悪役転生と呼ばれるのだが、大体そういうのは他に異世界人がいなくて、自分だけが知識を所有してチート無双して、実力を隠しながら、悪役モブムーブして、裏でひっそり無双しながら、徐々に破滅フラグを回避するものだ。
だというのに、俺は初手からフラグをぶっ壊すわ。
転生者やら転移者だらけで世界は歪んでいるわ。
破滅フラグを避けたと思ったら、次から次へと厄介事や、面倒事が押し寄せて、結局女神の手の上で転がされて、世界を救うための武術大会が開催されるとか。
もうふざけんなと言いたい。
悪役転生ってもっとこう、ストレスフリーで楽しく無双するもんじゃないのかよ。
自由に生きると誓って、どんどん女神のせいで世界を救う方向へと転がされている。
こんなの自由じゃない。
ああ。伝説の動画配信者さんが羨ましい。
などと脳内でもやもやと悩みを抱えていると、店員さんがてりやきハンバーガーセットを持ってきた。
「ご、ごっくりどうぞ。きゃあああああああああああ♪」
なんか色っぽい目で見つめられた。
もう有名人やん。
俺の田舎に籠りながら、世界各地のダンジョンを攻略する陰キャのガチゲーマー生活は一体どこへいった。
とにかくいまはハンバーガーに集中しよう。
俺は久しぶりに食べるてりやきバーガーを手に取り、口へ運ぶと、面倒臭いことなど忘れてしまうくらいほどの感激を受けた。
「う、美味い!」
甘辛いタレに、ジューシーなハンバーグの味わい。
レタスの触感や、マヨネーズがちょっと混ざっているこの絶妙さ。
これだよ。
俺が求めていたハンバーガーは。
そして、十秒でハンバーガーを食したあと、ポテトに手を伸ばす。
この柔らかくて、しなしなだけど、ちょっと先端の方がカリっとする感触。
これこそがハンバーガーショップのポテトだ。
あとドリンクのブラックコーヒーはアイスできゅーっと疲れに染みわたり、エコ対策で紙を使用した物になっていた。
「ああ。幸せだ……」
俺も幼馴染の絵美の影響でハンバーガーは大好物の一つだ。
あとラーメンと焼き肉も捨てがたい。
焼き肉はしょっちゅうキマイラの肉を食べているので、不足していないが、こういうジャンキーなフードはあまり食べられていないのだ。
俺はてりやきバーガーセットを無言で堪能し、大満足で笑った。
「あっはっはっは。美味い。やっぱりハンバーガーは最高だな!」
そう思っていると、舞花が指を指した。
「あれ。ミズキじゃない?」
「へ?」
俺が舞花の指さした方を見ると、ミズキがこそこそとこちらを伺っている。
どうやら偵察されているようだ。
俺は小さい魔力弾をテーブル下から指で弾いて、ミズキの足の脛へと飛ばした。
「いたぁ!」
そう言って立ち上がったミズキは他の客に見つめられて、俺をキッと睨んだあと、その場を立ち去った。
これを見ていたレビアははっきりと言った。
「ルシフ。めちゃくちゃ弱点や弱みを探られようとされてるじゃない。ど、どうするの?」
俺は冷静に的確な判断を口にした。
「探りたいなら探らせればいいさ。どちらにせよ。ミズキはどう対策されても勝ち目はある。問題はタカネの方だ!」
そうタカネの【神速】だけは俺の裸眼では追いきれない。
そのために俺はある勉強熱心なサラリーマンや学生が日常的に使用しているアレを作って貰おうと思っている。
だが、そのことを口に出すとミズキにバレてしまいかねない。
なので、チャットルームを開き三人に予め下書きしてあった予定をコピペして送信した。
みんなは冒険者カードを取り出し、俺にサムズアップを送った。
これは手ごたえありだ。
俺はそれを確信しながら、他のみんなが食べ終わるまで不用意な発言は控えて、大人しく座っていた。
明日ルイナの店を訪れるのが楽しみで、俺は待ち切れなくて、ワクワクしている。
本戦も負けられない。
俺は油断せずに、異世界人対策のアクセ案を、ゲーム内知識を駆使して、さらに脳内で練りまくっていたのであった。




