第120話『予選Cブロック』
控室でゆっくりしていると、ミズキが姿を現した。
間近で見ると、女優ばりの美人さんだ。
茶髪ボブヘアの髪に、美しい同色のタレ目の瞳。
その身に包むのは白銀のビキニアーマー。
体格もグラマラスで肌色成分が多いため、俺は思わずガン見してしまった。
思春期男子の性である。
俺の嫌らしい視線に気が付いたのか、ミズキはこちらへ近寄るといきなり話かけてきた。
「ちょっと貴方。確かルシフ・ホープさんでしたよね?」
いきなり話しかけられて俺は挙動不審気味に答えた。
「あ、はい……」
するとミズキは俺に人差し指を突き刺して偉そうに注意してきた。
「失礼ですが。さっきからじろじろと人の身体をじろじろと見ないでください。これだから男子は最低なのです!」
ああ。こういう感じの子クラスにひとりはいるよね。
男子ってば最低みたいな。
ミズキは学級委員長気質なのかもしれない。
そして、ミズキは続けた。
「いくら有名人だからって調子に乗らないでください。もう私を嫌らしい目で見ないこと? 分かりましたか?」
「あ、はい……。どうもすみませんでした……」
俺が素直に謝るとミズキは得意気な顔をして勝ち誇った。
「分かればいいのですよ。分かればね!」
俺の中のミズキに対する評価が変わった。
こいつ陰キャ男子相手にマウント取ってくる系の女子だ。
優等生だけど、裏では陰キャ男子を見下して、これだから陰キャはとか、もっと周りと仲良くする努力をしろとか、いつも嫌らしい目で女子を見てきてキモイよねとか、萌えアニメばかり見てそうキモイとか、そうやって影から、時には正面からマウント取って来たり、嫌がらせをしてくるタイプだ。
優等生を気取ったメスガキである。
ていうか、嫌らしい目で見られたくないなら、その肌色多めの装備をなんとかしろよとツッコみたい。
そりゃそんなセクシーな衣装していたら、健全な思春期男子なら誰でもガン見するに決まっているだろうとツッコみどころ満載である。
まあ。コンプライアンス違反でSNSに晒されて、炎上とかしたくないし、これからは変な目で見ないように気を付けよう。
それよりそろそろ予選Bブロックが始まる。
注目選手は細剣士カズキ・アラタニだろう。
公開されている奴のステータスはこんな感じだ。
細剣士カズキ・アラタニ
ジョブ 細剣士
レベル300
生命力7000
魔力3000
攻撃力8000
防御力7000
敏捷10000
技術10000
知性7000
幸運7000
魔力属性 水
魔力装備 【?】 攻撃力1000(500) 効果 ?
防具 【?】 防御力1000(500) 効果 ?
スキル【?】
流派 西大陸流免許皆伝。
奥義。
【魔力強化】 効果 魔力を身に纏い、ステータスを1・2倍アップさせる。
【魔力強化・改】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを最大1,2倍上昇させる。
【新魔力強化・改】 効果 魔力を身に纏い、物理系か魔法系のステータスを2倍に上昇させる。
【限界突破】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを3倍に上昇させる。
【限界突破・改】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを5倍に上昇させる。
【新限界突破・改】 効果 魔力を身に纏い、物理系か魔力系のステータスを6倍に上昇させる。
【限界覚醒】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを7倍に上昇させる。
【限界覚醒・改】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを8倍に上昇させる。
【真・限界覚醒】 効果 魔力を身に纏い、全ステータスを9倍に上昇させる。
【真・限界覚醒・改】 効果 魔力を身に纏い、物理系か魔力系のステータスを10倍に上昇させる。
【ホワイトスティング】 西大陸流の初級剣術。魔力を纏わせ、突き攻撃を繰り出す。
【イノセントレイン】 西大陸流の中級剣術。魔力を纏わせ、三連続で敵を突く。
【ホワイトアウト・スティンガー】 西大陸の中級剣術。魔力を纏わせ、敵にクリティカルヒットを与える突きを繰り出す。
【スノウ・インフィニティ】 西大陸流の秘伝の剣術。魔力を纏わせ、連続四回クリティカルヒットを与える突きを繰り出す。
見た感じスピード重視の剣士で、ヒットアンドアウェイを繰り返し、敵を倒していくタイプだろう。
それと他の注目株三選手と比べると見劣りするが、要はスキル次第だろう。
一体どんなチートなスキルを持っているのか楽しみだ。
スクリーンを眺めていると、どうやらもうそろそろ試合が始まるようだ。
その時、急にミズキが近寄ってきて、俺に話かけてきた。
「ルシフさん。貴方は誰が勝つと思いますか?」
まさかいきなりそんな話題を振られるとは思っていなかったので、俺はしどろもどろに答えた。
「え、あ、そ、そりゃ細剣士カズキが勝つんじゃないかな? かなり強そうだし」
俺の返答を聞くと、ミズキは嬉しそうに笑った。
「よく分析しているじゃないですか。カズキが勝ちますよ。あの人とは何度かパーティーを組んだ仲なのですが、とてつもないスキルを持っています!」
まるで自分の手柄のように勝ち誇るミズキ。
それよりもカズキのスキルが気になるので、ミズキに聞いてみた。
「ど、どんなスキルなんだ?」
ミズキはゆっくりと足を組みなおして余裕しゃくしゃくと呟いた。
「見てれば分かりますよ!」
もうこれ以上は詮索させないということなのだろう。
確かに彼女の言う通り、カズキがどんなスキルを持っているかは、見ていれば分かることだ。
動画内に移るカズキは自信満々と言った表情をしている。
黒髪ツーブロックにセンター分けの今時のお洒落な男子高校生と言った風貌だ。
その身を包むのは細剣士らしく緑のマントに緑色の細剣だ。とてつもなくRPGの伝説の剣を彷彿とさせる色をしたレイピアを持ち試合開始まで余裕の表情で佇んでいた。
そして、ゴングが鳴ると、同時にあり得ないことが起きた。
「なっ!?」
なんとカズキ以外の選手が身動き取れずにその場をじっとしているのだ。
他の選手はなんとか移動しようとするが、それが叶わない。
カズキは一気に【真・限界覚醒・改】を物理特化で発動して、瞬く間に他の選手を次々と殺していった。
そして、10分が経過した頃に、残った一人の選手が動けるようになった。
「よ、よくもやりやがったな。あの中には俺のダチだっていたんだ。許せねぇ。はあああああああああああああああ!」
残りの一人はどうやら一撃必殺特化のスキルを持っているらしい。
しかし、カズキは慌てることなくもう一度スキルを発動した。
「スキル発動【生体停止】――ッ!」
スキルの発動により、その選手の一撃特化のスキルは無効化されて、カズキは留めと言わんばかりに、その選手の首を刎ねた。
とんでもない強さだ。
他の三選手どころか、条件次第では俺より強いかもしれない。
そして、スクリーンからゴングが鳴り響く音が聞こえた。
「勝者。細剣士カズキ・アラタニ!」
俺は思わず息をのんでいると、ミズキが俺の肩に手を置いて勝ち誇ったように忠告してきた。
「ま、そういうことです。私は物理耐性がありますし、【物体操作】がありますので、カズキに負けることはありません」
そして、ミズキは続けた。
「これでお分りかと思いますが自分だけが特別強いなんて思いあがらないことですね。貴方以上に強力なスキル持ちなんて死ぬほど存在するのですから。あっはっはっはっはっは!」
悔しいが言い返せなかった。
やはり異世界人相手にするにはスキル対策が必須だ。
これはレビアと一緒に明日ルイナの所に行ってアクセサリーで対策を練るしかない。
俺は改めて自分が井の中の蛙だと思い知らされたのであった。




