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第116話「魔王との修行の成果」

 魔王との修行は苛烈極まりなかった


 俺の弱さと弱点を徹底的に潰し、長所をさらに厳しいフィードバックによりエッジを効かせる。


 そして、魔王流剣術の習得は骨が折れた。人の見である俺が習得するには難易度が高過ぎる。


 だが、せいぜい習得出来たのは、中級剣術程度。


 まだまだ修行が必要だ。


 魔王は俺が疑似的に【傲慢の魔王】を習得できるように、自身の魔王の魔力を流し俺が制御するという地味だがめちゃくちゃ負荷の高い修行をした。


 この世界では食事や排せつが必要なく、睡眠を取れば大抵の疲労は回復する。


 そんな生活を数か月送ったところで、俺はようやく魔王流上級を習得することが可能になった。


 魔王は珍しく俺を褒めた。


「ほう。まさか凡夫が我が魔王流をわずか数か月で習得するとはやはりお前という存在がそうさせるのかもしれないな」


 意味が分からなかったが、俺は素直に礼を言って置いた。


「お褒めの言葉をいただきありがとうございます。師匠!」


 魔王は師匠と呼ばれるのが気に入っているらしく、褒められたのが嬉しいのか珍しく異空間から出した料理を用意してくれた。


「お前も何か月も飯を食ってないから、腹を空かしただろう。今日は遠慮なく食え。その代り明日からは今までの数倍厳しく行くから覚悟しておけよ!」


「はい。師匠。ありがとうございます!」


 俺は師匠が用意してくれた焼き鳥やらステーキをたくさん頬張った。しかもドリンクに葡萄ジュース付きだ。


 ここ数ヶ月で分かったのだが、闇堕ちしているからってルシフの本来の優しさが失われたわけではなかった。


 きっと復讐のために悪を演じざるを得なかったのだろう。


 ここまで親切にされたのなら、俺もなんとしても結果を出さなければならない。


 あとは魔王流免許皆伝の習得と【傲慢の魔王】化の習得だ。


 正直この二つは骨が折れそうだ。きっと現実世界なら半年はかかる。


 つまりこの空間で俺は師匠と一年も精神的に修行していることになるのだ。


 そして、翌朝免許皆伝奥義と【傲慢の魔王】化の本格的な修行が開始された。


 最初は苦戦したものも、免許皆伝奥義は一か月で習得した。


 しかし【傲慢の魔王】化だけはどうやっても習得できない。


 そこで師匠はある提案を出した。


「どうやら傲慢の魔王」化を習得するには、お前が闇のエネルギーに精神を支配される必要がある。つまりお前が恐れていた闇堕ちを疑似体験するのだ」


 その言葉はつまり俺の心に絶望の苦しみを味わえということになる。


 非情な判断だが、俺は大切な者を守るためなら闇堕ちしても構わないと覚悟を決めた。


「分かりました。師匠。俺は闇堕ちする覚悟を決めます!」


 俺が真っすぐな瞳でそういうと師匠はこんなことを言い出した。


「だが経験するのはただの闇堕ちではない。闇堕ちした上で希望を見出し、闇堕ちを克服するのだ。俺はお前にはそれができると思っている。なんたってお前だからな!」


 この数か月師匠は俺の何かを知っている素振りを見せる。


 しかし、いつか必要な時期が来たら話すと、はぐらかされてばかりだ。


 それでもどうやって闇堕ちを体験するのだろう。


 俺はそう思っていると、魔王ルシフは俺にある光景を見せた。


「お前には本来有り得たかも知れない未来を見て貰う。もちろん記憶はそのままにだが、お前にとってはかなり厳しい光景になるだろう。それでも自分を見失わず闇の力を乗り越える覚悟はできるか?」


 俺は頷いた。


「ええ。絶対に成し遂げて見せます。だからその有り得たかもしれない未来を俺に見せてください!」


 魔王ルシフは首肯した。


「そこまでの覚悟があるなら大丈夫そうだな。ではお前の意識を飛ばすぞ? 準備はいいな?」


「はい。いつでもお願いします!」


「では行くぞ。はぁ!」


 俺は自身の魂が転移される感覚を感じた。


 意識が覚醒すると、そこはホープ村だった。しかし、そこに村の様子はまるで地獄絵図だった。


「なんだよ。これ……」


 村全体が炎に焼かれて、村人の死体が転がっている。そこには舞花や絵美や母やベルゼナや父やバッカスやルイナやジンクやエナの死体が転がっていた。


「嘘だろ……。こんな、こんなのあんまりだろう……」


 俺はそこにレビアがいないことを確認して、すぐに村中を駆け巡りレビアの姿をようやく見つけた。


 そこには【独善の魔王】化した魔王ミカリスの姿があった。


 レビアは俺が来たことを察すると、全力で叫んだ。


「ルシフ。逃げて――ッ!」


 彼女の襟元を掴みながら、剣を差し出している魔王ミカリスが俺に見せつけるかのようにこう言った。


「残念だったな。ルシフ。お前の最愛の者の命はこの僕が奪ってやる! はぁ!」


「や、やめろぉぉぉぉぉ! ミカリスぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 しかし、ミカリスはあっさりとレビアの心臓を突き刺し、俺は魔王から学んだ魔王流初級剣術【プライド】を放った。


 高威力の斬撃に魔王ミカリスは後退した。


「ちぃ。無駄な足掻きを!」


 俺はすぐレビアの元に近寄ると彼女の最期の言葉を聞いた。


「ルシフ……。どうかわたしが居なくなっても希望を捨てないで。貴方ならきっと魔王ミカリスを倒して世界を救えるはずだから……」


 俺はありのままの気持ちを打ち明けた。


「いやだ。俺はレビアのいない世界なんて耐えられない。君が死ぬというのなら俺も後を追う。俺は君がいなきゃ生きている意味なんてないんだよ! だから……! 頼む! 絶対に死なないでくれ! きっときっと高位の回復魔法をかければ生き返れるはずだ。頼むだから死なないでくれ。俺にとってレビアの存在が全てなんだよ……。行かないでくれ……」


 子供のように泣きじゃくる俺にレビアはこう告げた。


「わたしルシフと恋人になれて幸せだった。きっとルシフはわたしがいないと絶望に飲まれると思う。でもわたしは信じている。貴方は絶望すら力に変えてこの世界を救う人だって……。だ、だから……ル、シ、フ……。負けない、で……。そしてわたしはルシフのことを世界一愛して……。る…………」


 その瞬間俺に絶望の奔流が流れ込んだ。


「ああ、ああああ、ああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 俺はこの事態を避けるために勇者パーティーに入るのを拒否した。


 でもそのザマがこの結果だ。


 俺の中に闇の奔流が荒れ狂うのを感じた。


 一方ミカリスは高笑いしていた。


「あっはっは。言い様だな。ルシフゥゥゥ♪ 俺は一年もこの瞬間のためだけに生きてきたのだよ。調子に乗った。貴様が絶望するその顔がな!」


 その言葉を聞いた途端、俺の心は完全に壊れて闇に支配された。


 俺はその闇の力に飲まれて身体が魔族へと堕天していく感覚を覚えた。


 その時脳内に師匠の声が聞こえた。


『しっかりしろ。ルシフ。それは全てお前に見せた悪夢のような物だ。闇の力に飲まれるな。お前はレビアを現実でもこれより酷い目に遭わせたいのか!』


 その言葉を聞いた瞬間はっとした。そうだ。俺はレビアを闇堕ちさせない。家族を闇堕ちさせない。何より俺が闇堕ちしないことを信条としてきたじゃないか。


 俺は自身の中にある闇を冷静に俯瞰した。


 これはある種の精神異常による魔力暴走だ。


 なら師匠に半年流し込まれた闇の魔力を共鳴させて、その暴走を手懐けてやればいい。


 俺は闇の魔力を俯瞰し、その力を完全に制御することに成功した。


 脳裏にはレビアや仲間のことでいっぱいだ。


 俺は大切な仲間を最愛の人を守る為に己の闇堕ちフラグをぶっ壊してやる。


 その途端、俺の身体が光輝いた。


 俺はその光の奔流に従いミカリスに宣言した。


「ミカリス。お前は哀れな奴だよ。くだらない復讐心なんかに囚われて、まるでお前はこの世界を愛していない。お前はゲームキャラであり、ゲーマーじゃない!」


 ミカリスは苦笑しながら反論した。


「どうした? 恋人が死んで頭でも可笑しくなったか?」


 俺は首を振った。


「俺は最初から頭の可笑しいバトルジャンキーだ。お前に、この世界を愛さないお前に、ゲーマーのプライドを思い知らせてやる。強化奥義【傲慢の魔王】!」


 俺は自身の肉体が変わるのを感じた。冒険者カードで姿を確認すると、魔王というより白い悪魔。勇者然とした善の神のような姿だった。白い魔力羽が生えており、神の白い天使の輪が浮かんでいる。


 これはもう天使と言っても過言ではないだろうか。


 原作のルシフの【傲慢の魔王】化を踏襲しつつ、まるで善に偏った存在になっていた。


 ミカリスは笑った。


「そんなコケ脅しなんか通用するものか! 死ね! ルシフ!」


 勇者は自身の最大奥義【ブリリアントソード】を放つつもりだ。


 俺はそれに対抗して魔王流剣術の免許皆伝奥義を発動させた。


「行くぞ。魔王ミカリス。ゲーマーのプライドを思い知れ! ルシファー!」


 俺は白い羽根を纏った魔剣でミカリスと衝突した。


 そして、ミカリスは無敵時間まで粘ったが、それが解除されると共に白い羽根の渦に飲まれて消えた。


「おのれぇぇぇぇぇ。魔剣士ルシフゥゥゥゥゥ!」


 ミカリスを討伐することに成功した途端、意識が途切れ、気が付くと師匠の前にいた。


 師匠は俺を見てニヒルに笑いサムズアップした。


「よくやったな。合格だ!」


 その言葉を聞いた途端、俺はテンションがフルマックスになり、大声で叫んだ。


「や、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!」


 こうして、俺は師匠の修行を全てやり遂げた。


 その晩は豪華なご馳走を食べて、もうしばらく力の調整のために時間を使い、俺は師匠との別れの時がやってきた。


「師匠……」


 憧れの推しであり、俺を育ててくれた師匠と別れるのは正直辛かった。


 しかし、師匠は俺にこんなことを言ってくれた。


「これで今生の別れというわけではない。お前が困った時、その石で呼びかけて、何度だってお前を鍛えてやる。言っとくがお前はまだ自分のポテンシャルの半分も引き出せていないんだからな!」


 その言葉を聞けて嬉しくなった。俺は師匠に頭を下げた。


「師匠本当にありがとうございました」


 すると、最後に師匠は大切なことを口にした。


「俺はどうも世界をめちゃくちゃにしようとする女神のやり方が許せない。だからいつかはお前が女神の思惑を崩せ、お前にはそれを成し遂げるだけの選ばれた存在なのだからな!」


 俺は師匠に頭を下げて、拳を突き出した。


「分かりました。俺は必ずやり遂げます。いつか女神の思惑を崩して、この世界を本当の意味で女神の支配から解放された、みんなが笑い合える自由な世界を作って見せます!」


「ああ。期待しているぞ。我が最愛の弟子よ! ではな……」


「はい。師匠もお元気で!」


 別れの挨拶を告げた途端、俺の意識は吸い込まれるように途切れた。

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