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第111話『地獄のダンジョン最終層』

 俺は最終層のフロアで休憩していた。


 いよいよだ。


 正直ここまで来られたのは、伝説の動画配信者さんの攻略情報のおかげだ。


 俺の力だけじゃ二層ですら詰んでいた可能性が高い。


 それに乱数調整ツールでのステータスが最大値になる時間やダメージ計算ツールでその時間を調整できなければ、到底到達できなかっただろう。


 感覚的に理解していたつもりだったが、乱数調整に関しては正直きちんと計算できてなかったと思う。


 ダメージ計算も何割かのずれがあった。


 高乱数で耐えてギリギリの戦いをしていたことだってあったのだ。


 それがあの人が間接的に手を貸してくれたおかげで、俺はここまで強くなれた。


 本当に感謝の気持ちしかない。


 それと紫鬼や黒鬼との戦いで技術力アップや、新奥義習得まで至れた。


 あのふたりとの戦いがなければ、ここまでの成長は得られていないだろう。


 ふたりの鬼人にも感謝しかない。


 問題はこのあとだ。


 最終層のボス。


 通称【閻魔大王】


 黒鬼より強く、紫鬼より高い剣技を持つとされている。


 伝説の動画配信者さんは回復に気を配らなければ、すぐに死んでしまうと書いてある。


 つまりギリギリの戦いだったのだろう。


 あの人が挑戦したのが二年前だから、俺が転生するより一年前になる。


 その時の彼もおそらくレベル200前後だ。


 条件はほぼ同じ。


 それに俺は黒鬼戦で超強化奥義を手に入れた。


 たぶんそれでもギリギリの戦いになる。


 なんとなくそんな気がしたので、乱数調整によるパワーアップは見込めないだろう。


 攻略情報にも敵の攻撃パターンなどは記されていなく、死ぬ気で頑張れ君ならなんとかなるというあの人らしい適当ぶりだ。


 そんな適当で楽しそうに生きている人だからこそ、俺は彼を推しているのだが、それでもいざとなればちょっとイラついてしまうのも事実だ。


 どちらにせよ休憩は充分とったし、そろそろ行くべきだろう。


 俺は魔剣を最初から取り出し装備して、休憩フロアを出た。


 いつもの三倍くらい豪華でデカいボス部屋の扉を見つめて気合を入れた。


「いよいよ最後だ。全力で楽しんでやる!」


 俺はにやりと笑い、ボス部屋の扉を開いた。


 中は真っ黒な部屋で中央の巨大な台座に黒髪黒マントの黒い角が生えたイケオジの鬼人が鎮座していた。


 あれが【閻魔大王】か。


 思ったよりごつくない印象だ。


 きっとその先入観も漫画やゲームの影響だろう。


 創作物での【閻魔大王】なんて、ごついおっさんと相場が決まっているからな。


 その固定概念を崩すとは流石は絵美だ。


 その鬼人のイケオジはゆっくりと台座から降りて、俺のこう問いかけた。


「よう。来やがったか。小僧。今までずっと観察させて貰っていたんだが、お前めちゃくちゃ強いのな!」


 思っていたよりチャラそうな雰囲気のイケオジである。


 そして、イケオジは続けた。


「実はよぉ。俺も黒鬼や紫鬼と何度かやり合ったことがあるんだが、三回に一回は負けてんだわ。そのふたり相手に、しかも黒鬼の十八番までコピーして昇華させちまうなんて、お前マジで凄いよ」


 思った以上に好感を抱かれているようだ。仲間を倒したお前を許さないとか怒ると思ったんだが、チャラいだけで仲間想いというわけではなさそうだ。


 そして、チャライケオジは軽く微笑みながら会話を続けた。


「へへ。実を言うとさぁ? 正直、俺も負ける予感がビンビンしてるし、ビビり散らかしてんだわ! だから小僧には悪いが、最初から本気で行かせて貰う。死ぬ覚悟はいいかい? 準備オーケイ?」


 そんな世界一軽い死ぬ覚悟の問い方はないだろうと、正直笑えてくる。


 でも、陰キャの俺相手にここまでフレンドリーに接してくれたんだ。


 それならきちんと返事をしないと失礼というものだろう。


 俺は比較的冷静に返答した。


「悪いが死ぬわけにはいかないな。それにそれはこっちの科白だ。お前にゲーマーのプライドって奴を思い知らせてやる!」


 イケオジは笑った。


「いいねぇ♪ そういう威勢がいいの嫌いじゃねぇぜ? そんじゃいっちょ楽しく戦おうぜ!」


 俺は頷いた。


「言われるまでもない。俺も全力で楽しむに決ってる。黒鬼以上の敵を相手にワクワクしないようなら、そいつはゲーマー失格だ!」


 イケオジはあひゃひゃ笑いをした。


「あひゃひゃひゃひゃ。お前マジでおもれーわ! 気に入った! さっそくおっぱじめようぜ!」


「望むところだ!」


 俺は魔剣を構えると、閻魔大王も黒い刀身のサーベルを取り出した。


 そのチャラさからは想像できないくらいの圧倒的な強者感が溢れ出していた。


 これは油断していると痛い目を見そうだ。


 俺は最初から【真・限界覚醒】を発動させた。


 イケオジもなんと同じく【真・限界覚醒】を発動させたのだ。


 まさか同じ強化奥義を使う相手と戦うことになるとは思わなかった。


 俺は一気に勝負を決めるべく【ダークネスブレイカー・エンチャント】を付与し、念のために【バリア】と【リヒール】でゾンビ状態も作っておいた。


 イケオジは思いっきり息を吸い込むと、楽しそうにあひゃひゃ笑いしながら目をぎらつかせた。


「あひゃひゃひゃ。行くぜ! オラァァァァァァァァァ!」


 黒鬼以上の速度で突っ込んできたイケオジは、とてもつない速度で重たい横薙ぎを繰り出した。


 回避しようとしたが、あまりにもその剣速が早や過ぎて回避が遅れてしまった。


 その瞬間人生で経験したことがないような、とてつもない痛みが肉体に迸った。


「がはぁっ!」


 俺は身体から大量の血を流して、吐血した。


 まさか物理ダメージ半減に【バリア】を重ね掛けして子のダメージか。


 伝説の動画配信者さんが苦戦するわけだ。


 このイケオジはチャラいだけでなく、とんでもない化け物だ。


 俺は間違いなく異世界に転生してから戦った最強の敵相手に戦闘欲求が止まらなくなった。


「ふふふ。ふははははははは。いいね♪ チャラオジ♪ あんた最高だよ♪」


 俺の闘志に火がついて脳内のドーパミンやアドレナリンやエンドルフィンがマックスな量で迸った。


 軽く意識が飛びそうなほどの快楽だ。


 まさにバーサークモードに突入だ。


 チャラオジもあひゃひゃ笑いした。


「あひゃひゃひゃひゃ。やべぇ奴だな。おい。死にかけるくらいのダメージ受けて笑ってるなんて見たことねぇよ。まるで戦闘欲の化身。いや。自分が負けることを一ミリも恐れていないような。傲慢の化身だなぁ! マジおもれーわ。あひゃひゃひゃひゃ!」


 俺は実はまだ試していなかった秘策を試してみることにした。


「だったら俺も奥の手をぶっつけ本番で試すしかないよな。行くぞ! ゲーマーのプライドを思い知れ! 真・限界突破・改――ッ!」


 それを発動した途端、俺は物理特化にステータスを切り替えた。そう【新限界突破・改】の要素を掛け合わせたのである。


 圧倒的なドス黒い焔を纏う俺に、チャラオジは口笛を吹いた。


「ひゅう♪ こいつはイカしてんね♪ こりゃますますテンションアゲアゲだぜぇ!」


 俺も口の端を歪めて、同意した。


「ああ。俺も正直この先の戦いが楽しみで仕方ないよ。さあ。第二ラウンドを始めようか!」


 俺と【閻魔大王】は、全力の魔力を迸らせながら駆け出した。



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