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第11話『情報屋』

 翌朝俺はとある街へと訪れていた。それは勇者が序盤で訪れることになるダイスの街だ。原作の知識によると、ここには腕利きの情報屋がいたはずだ。そいつに聞けば、おそらく暗殺者の寝蔵がわかることだろう。


 俺は門の前で冒険者カードと、銀貨一枚を支払い、街の中へと入った。そして、早速その情報屋がいる下通りの裏路地にある店へと向かう。どうも薄暗くて、ここで奇襲でもされたら、けっこうヤバいかもしれない。


 なんて柄にもなく不安になったが、ぐちぐちと余計なことを考えるのは性に合わない。俺はなるべく警戒心を高めながら、裏路地を進み、腕利きの情報屋ジークのいる店に入店した。


「いらっしゃい!」


 ジークは女性の情報屋だ。しかも、魔族で、裏世界ともコネクションを沢山持っているらしい。見た目は黒髪ボブに黒目でグラマラスな体系をしてちょっと露出度の高い服を着て妖艶な容貌をしている。俺はゲーム知識で、ジークに「瓶エール一杯」と口にする。


 ジークはその言葉を聞くと「なるほど。そっち系の依頼だね。場所を変えようか」と奥の部屋へと案内される。ジークは殺しや裏社会に関わる仕事については、場所を変える。そこも原作と同じだ。


 俺は奥の部屋へと入室した。そこはどうも黴臭くて薄汚れた部屋だった。ハエやゴキブリなどがうようよしている。こんな不衛生なところに一秒でも居たくないので、俺は矢継ぎ早に話しを進めた。


「実は魔族の暗殺者を探している。名前は不明。ただ黒いフードと赤いネックレスをしており、どうやらそいつは異世界からの転生者らしい」


 そこまで話すとジークは「ああ」とすぐに暗殺者の正体に勘づいた。


「そいつはたぶんマリアだな。裏社会で帝国の犬と呼ばれている腕利きの女暗殺者だ」


「マリアか」


 マリア聞いたことのない名だ。もしかするとゲームではモブキャラで、あの転生者はモブから帝国専属の暗殺者として成り上がったのかもしれない。


 俺が脳内で情報を整理していると、こちらの思考が終わるタイミングを見計らっていたのか、少し間を置き、ベストなタイミングで話しを続けた。


「そうだ。奴は今でも世界中の冒険者ギルドから、高難易度クエストとしてずっと討伐依頼が出されているのだが、誰一人として命が無事だった者はいない」


 それを聞いてちょっとワクワクしてしまう。俺が歓喜に震えていると、それを察したジークはけらけらと笑った。


「けっけっけ。まさかあの死神を相手に武者震いする奴がいるとはな。あんたもしかしなくても戦闘狂のクチだろう?」


 一瞬で俺がバトルジャンキーであることを見抜かれてしまった。やはりジークは侮れない。今さら隠し通せるだけの知性が足りないので、俺は素直に話しておくことにした。


「ああ。俺は戦うことや強くなることを生き甲斐としている!」


「なるほど。それで、その戦闘狂のあんたが、次の戦闘相手に暗殺者マリアを選んだってわけか?」


「そういうことさ」


 俺は自信満々にドヤ顔を決めてから、次は打って変わったかのように、謙虚な態度で情報屋に頭を下げた。


「だから頼む。俺にマリアの寝蔵の情報を売ってくれ!」


 情報屋ジークはしばらく悩む素振りを見せたが、すぐにかりと歯を見せて、右手でコインのマークを作った。


「金貨三枚だ。それで手を打ってやる!」


 金貨三枚って、俺がキマイラ討伐クエストを毎日こなして、二か月分の給料だぞ。日本円に換算するなら、約三十万円くらいだろうか。


 俺は迷ったが、それでもこのクエストをクリアしたら、金貨五枚手に入る。元は充分に取れるし、何よりお金よりも俺はあのマリアって暗殺者と戦いたい。


 自分の四大目の欲求に抗えず、俺は素直に金貨三枚を財布から取り出して、ジークの右手に握らせた。


思ったより線が細くて柔らかい手だったので、思わずどきりとしてしまう。ジークは俺が何を考えているのか察したらしく、悪戯っぽく笑いながらこう言った。


「まいどあり。それはそうと、いま私の手を握ってドキドキしていただろ? 初心で可愛いね」


 原作通りジークは小悪魔だ。そうやってイケメンを誑かしているのを俺は誰よりもよく知っている。確かにこんな美少女とだったら、ちょっとくらいなら恋愛してもいいかなと揺らいでしまうが、不特定多数と付き合っているような女は陰キャとしてはちょっと怖い。


 俺は陰キャ丸出しの態度で、挙動不審になりながら、首を振った。


「い、いや。べ、別にお前になんか興味はない!」


 ジークはにやにや笑いながら、こちらが奥手だと悟ったらしく、それ以上無理強いはしなかった。


「ま、私だっていくらイケメンでも、恋愛経験のない奴は無理かな。だって女慣れしてない男なんてつまらないだけだしね!」


 こ、こいつバカにしやがって。でも反論できるだけの経験と知識もないので、俺は咳払いして話しを変えた。


「それより金は払ったぞ。マリアの居場所を教えろ!」


 ジークはすぐに卑しい笑いから、真顔へと切り替えた。そして、マリアの居場所について話しを始めた。


「あの暗殺者はこの街の外れの山小屋に住んでいる。なんでもスローライフを送るのだとか、暗殺者の癖に平和ボケしたことを抜かしていたと聞いたことがある」


 なるほど。どうやらマリアは元の世界ではネット小説やアニメでよくあるスローライフ系の作品を見るのが趣味らしい。


 どうやら前世ではわりとお疲れだったご様子だ。おそらくだが、ブラック企業に勤めていて、残業でふらふらしていたら、トラックに轢かれて転生したとかそんなところだろう。


 そして、俺のことを推しと言っていたということはブリファンユーザーで間違いない。よく動画やブログを見ていると、不思議とブリファンについて知っている奴は居なかったのだが、賛否両論の廃人ゲーだし、知っている奴は俺と同じ相当やり込むガチゲーマーか、ちょっとマイナーで評価が割れる作品を好んでやるクソゲーハンターの亜種みたいなコアなゲーマーのどちらかの可能性が高いだろう。


 他に考えられるとしたら、ゲーム内ストアの半額セールで安いから買ってみて、嵌っただけの、ライトゲーマーという可能性もある。


 どちらにせよ。魔王ルシフを推しているということは、どんな手を使ってでも、推しと接触をはかって仲良くなりたいと考えているに違いない。それがファン心理というものだ。


 これは戦うだけ戦って和解した方がいいような気がしてきた。スローライフを求めているようなかわいそうな労働者の女性相手に、親のすねをかじってゲームで遊んでいる高校生のガキの俺がその自由を奪う資格なんてないだろう。


 クエストなんか失敗したって別にいい。ただ手練れの異世界人と全力で戦えたらそれでいいのだ。


 俺はジークに頭を下げて、席を立った。


「情報提供ありがとうな。また困ったことがあれば仕事を頼みにくるよ」


 すると、ジークはまたいやらしい表情をしながらこう言った。


「もっと恋愛して男としての魅力を磨くことだね! それじゃあせっかくのイケメンが台無しだよ!」


 男としては聞き捨てならない情報を耳にして、思わずブチ切れてやろうかと一瞬悩んだが、なんとか理性を取り戻し、あくまでそっけなく答えた。


「俺は色んな男をたぶらかすような女には興味がないんだ。本気で落とすつもりなら、一途に想い続ける覚悟で来るんだな!」


 ジークは笑って指を突き立てた。


「ほざいていろ。このクソ陰キャ!」


 やはり品性の欠片もない女だ。そう思いつつも、別れ際まで女性として魅力的な彼女からつい目が離せなかった。

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