第109話『地獄のダンジョン六層』
休憩エリアでカレーうどんを待っている間に、今までのことを振り返る。
桃鬼との戦いで俺のステータスは世界でも三十番目ほど強くなっていることを確認した。
おそらくこのダンジョンを一回クリアすればトップ二十五位以内には食い込めるはずだ。
そして、勇者選抜武術大会開催まであと三週間もある。転移を利用すればおそらくギリギリまで周回できるだろう。
禁断領域を破壊し尽くし、地獄のダンジョンの周回を三回くらいは繰り返せる。
金だっていざという時のために、たくさん持ってきている。
ギリギリまで、骨までしゃぶる覚悟で挑めば、きっと勇者選抜武術大会も優勝できるだろう。
きっと魔王ミカリスと戦うことになっても、ステータス差だけでは負けないだろう。
どんなに【独善】のユニークスキルが強力でも、圧倒的なステータスさえあればせめて対等には戦えるはずだ。
それにしてもあれだけ勇者ミカリスに余裕な態度を与える【独善】のユニークスキルとは一体どんな効果なのだろうか。
強制束縛系か、ノーダメージ状態を一時的に付与する無敵系か、もしくはスキルそのものを無力化してしまう無効化系か。
一番厄介なのは無効化系だ。
強制束縛や無敵系は対策ができる。
しかし、スキルを無効化されてしまえば、唯一のアドバンテージである【傲慢】のユニークスキルが無くなれば、ルシフなんてただのハイスペックなだけの何の個性も持たないキャラへと変貌してしまう。
今まで散々頼ってきた【傲慢】なしの戦闘は、魔法やスキルにも詠唱や一定のタメが必要になるだけでなく、今まで入っていた二回判定や二度魔法や奥儀が使える能力が使えなくなるのだ。
このユニークスキルがなければ俺は、あのクッズや七神竜にすら勝てなかっただろう。
それくらい俺の強さは【傲慢】に頼り過ぎている。
だからこそ今の方向性は正解かもしれない。
何故ならステータスが高ければスキルを無効化されてもミカリスと戦えるからだ。
もしかするとこの考え自体検討外れで、もっと厄介なスキルかもしれない。
強制即死系とか、不老不死系とか、物質創造系かもしれない。
とにかくあれだけ異世界人や世界を敵に回すような自信には、絶対にその裏付けとなる圧倒的な強さがあるはずだ。
そう考えるなら、ステータスだけでなく、ありとあらゆる対処法を準備しておく必要がある。
地のステータスは必須として、先ほど考えた三つのスキルに対抗する手段を仲間とやり取りして、知恵を絞り出さなくてはならない。
そのため勇者選抜武術大会が終わったら、一度作戦会議を開いた方がいいかもしれない。
とにかく今はステータス強化だ。
勇者選抜武術大会すら勝てない可能性だってあるのだ。
ちょうどカレーうどんがレーンから回って届いたので、いっきにうどんを啜ることだけに夢中になった。
☆☆☆
食事を終えて用を足し、十五分の仮眠の後、俺は六層のボスの情報を確認していた。
どうやら次のボスは紫鬼というらしく、あのベルフーゼと似たような効果を持つ魔法や奥儀を無力化してくるスキルを所持している。
俺はダメージ計算機で正確な時間と倒すまでのダメージ量を確認した。
ミスなく立ち回れば、ちょうど十五分ジャストで相手を倒せるはずだ。
俺は休憩フロアから飛び出て、ステータス最大値まで残り十七分になったので、急いでボスの部屋の扉を開いた。
紫鬼は暗い感じの少女だった。なんか地雷系メイクをしており、明らかにメンヘラみたいな雰囲気を纏っている。
紫鬼は俺を見るなりこう言った。
「御託はどうでもいいから、とりあえず戦おうっか?」
そう言って不気味に笑った。
俺も無駄口叩くのは嫌いなので、それに従った。
「ああ。戦おう!」
どうやらこの少女も戦闘狂のクチだ。
戦うことでしか生きる意義を見出せない。
そんな雰囲気を漂わせている。
ただ者ではない。
あからさまな威圧感が溢れ出している。
俺は魔装備を取り出し【新限界突破・改】を纏おうとしたら、急に力が抜けた。
事前の情報通りだ。魔法と奥義は完全に封じてくるスキルを所持しているらしい。
ある意味これはベルフーゼの上位互換だ。
俺は剣を構えて、紫鬼目掛けて全力で駆け出した。
紫鬼も刀を取り出し、互いに剣を交える。
やっぱりそうだ。
彼女はとんでもなく強い。
その強さは青鬼以上だろう。
何度も何度も剣を交える度に、俺と彼女は僅差で生命力を削り合い、互いに身体がズタボロになった。
「ふぅ。ふぅ。お兄さんやるね……」
「はぁ。はぁ。そっちこそ……」
俺は異世界に来てある意味一番の喜びを嚙みしめていた。
まさかここまで追いつめられるなんて、【シャドウドラゴン】や【アジダカーハ】以来じゃないか。
人間にここまで追いつめられたのは今回が初めてだ。
しかも魔法と奥義が使えなくなるのはどうやら相手も同じらしい。
つまり完全なる物理戦。想定していた時間をもう三分もオーバーしている。
こんなに楽しい気持ちになるなんて初めてだ。
もうここで死んでもいい。そう思えるほどに。
俺は魔剣を構えて、彼女に告げた。
「さあ。そろそろ終わりにしよう!」
「そうだね。ボクもそう考えてたよ」
まさかのボクっ娘か。
最後の最後に気が付くなんてな。
ボクっ娘は俺のドストライクなタイプなのだ。
生きても死んでも恨みっこなし。
そう思えるほど自分と対等に戦える存在に感謝した。
俺は最後に一気に脚力を振り絞り、思いっきり瞬歩で距離を詰めた。
「はあ!」
俺が袈裟懸けを放つと、向こうもそれに合わせてカウンターで逆袈裟懸けを返してきた。
「てや!」
互いの剣が火花を放ち、俺は相手の剣をへし折り、そのまま紫鬼を切り捨てた。
「がはぁ!」
彼女は吐血した。
終わった。
彼女とはもっともっと戦いたかった。
そう思えるくらい彼女の強さを認めた。
最後に紫鬼はこう言い残した。
「お兄さん。やっぱり強いね。ボクお兄さんと戦えて良かったよ」
「ああ。俺もだ! また来るよ!」
俺がそう告げると、最後に紫鬼は年頃の少女らしく笑い黒い靄となって消えた。
予想外だった。伝説の動画配信者さん目線で書かれているが、これはあの人のステータスだから可能だったのだ。
もしかすると、この経験を見越していたのかもしれない。
俺は異世界に転生して、初めて自分と同じ実力の相手と死闘を経験した。




