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第107話『地獄のダンジョン四層』

 残りのボスフロアの数は五つ。


 ようやくこの四層を攻略したら半分だ。


 次の最大値を得られるまで残り十時間。


 なんかやたらと長すぎる。


 ここは休憩エリアで一度睡眠を取るべきだろう。


 俺は階下を降り、休憩エリアを発見すると、銅貨を入れて冒険者カードのマナを充填して、ベッドに近くに設置されたテーブルの置いてあるサイドメニューでホットミルクを選択した。


 約三分を経たない時間でホットミルクがやってきた。


 こんな至れり尽くせりのダンジョンなら挑戦者が多いのも納得だ。きつければ一層か二層で撤退して、再度ダンジョンに入り直して周回すれば、いいレベリングになる。


 そして、こちらが貨幣を支払うことで、向こうも儲かるという仕組みだ。


 全くこのダンジョンの運営者はかなりのやり手だな。


 俺はホットミルクをちょっとずつ啜った。砂糖が少し入っているのか、ほんのりと甘い味わいが戦闘続きでハイになった自立神経を上手い具合に落ち着けてくれる。


 全部飲み終わり、自然と眠気がやってきたので、俺はセキュリティ対策とアラームだけきちんとセットして【限界突破・改】を使用してから、ベッドへと潜り込んだ。


「ふかふかだ……」


 思わずそう口にして、自宅のベッドよりさらに寝心地のよい極上のマットレスと布団に包まれながら、深い微睡に誘われて世界が透明になった。



 ☆☆☆



 ぴぴぴと鳴るアラームの音で俺はすぐにぱっと目を覚ました。


「ふわぁあ……」


 久しぶりに快眠できた気がする。夢などほとんど見なかった。しかし、超回復の量も凄まじいみたいでレベルも一つアップしてレベル190になっていた。


 そこで俺はある失態に気が付いた。


「しまった。乱数調整の時間が狂った!」


 ステータスウィンドウを開いて数値を確認すると通常時の伸び率となっている。


 これがうかつだった。まさかあまりにも寝心地がよくてレベルアップしてしまうとは、今後は睡眠レベリング法をもう使えないかもしれない。


 何せ乱数調整の時間が狂ってしまったのだ。


 知性上昇の補正が入ってこれだ。


 どうやら俺のうっかりは性格由来の物だと理解した。


「クソがッ!」


 俺は思わず台パンした。


 それで気分も少しは落ち着き、乱数調整ツールを確認する。


 次の最大レベルアップまで十五分。


 これはどうやらゆっくり休んでいる暇はなさそうだ。


 俺は【ポーションクッキー】と安価の【ミックスポーション】を飲んで、すぐに休憩エリアから飛び出した。


 用を足し、着衣を整えて、扉の前で攻略情報をさっとおさらいする。


 相手は青鬼。水系統の魔術や奥儀を得意とするバランスのよいタイプのボスらしい。


 ならばこちらがやることはひとつだ。


 考えが纏まった所で、俺はボス部屋の扉を開いた。


 乱数調整ツールによると、次回ステータス最大値まで十分。


 それだけあれば楽に相手を倒せるだろう。


 開いた扉の中へ入ると、そこにはスマートでイケメンな青い鬼がいた。


 今まで不細工な奴ばかりだったが、こいつは油断ならない気がする。


 俺が前へ進むと青鬼は名乗りを上げた。


「私は青鬼と申す者だ。この四層のボスを務めている。貴公の名を聞いておこう」


 どうやらとても真面目な鬼人のようだ。俺は戸惑うことなく自身の名を告げた。


「俺は魔剣士ルシフ・ホープだ!」


 青鬼は眉を顰めた。


「貴公があの……。いいだろう。これ以上言葉は要らないな。始めようか!」


「ああ。お互い全力で楽しもうぜ!」


 俺は魔装備を取り出し【新限界突破・改】を物理特化に切り替えた。


 向こうも背丈にあった片手剣を取り出し【魔力強化・極】らしき魔力を身に纏う。


 向こうのステータスは四倍アップ。こちらは物理ステータスだけ六倍アップだ。


 尖った分だけ、知性への補正が働かないため、立ち回りでは奴に不利を取りかねない。


 だからこそ攻略情報通りに相手の出方を伺った。


 青鬼は軽く微笑して、切っ先を向けた。


「では不肖青鬼。いざ参る!」


 相手は真っすぐな太刀筋で横一閃を繰り出した。


 俺はそれをジャンプで回避して、一気に攻め立てる。


「秘剣・虎乱刀!」


 しかし、青鬼はそれを回避して、身体を捻って背後に回り込んだ。


 俺は本能的に、その身体をくるくるっと回転させながらバックステップで回避。


 離れた途端に青鬼は禁断魔法【アブソリュート】を無詠唱で放ってきた。


 凍てつく衝撃波が地面を伝って、一気に襲い掛かってくる。俺はそれを片手で打ち消して、すぐに【ダークネスブレイカー・エンチャント】を使用して、足の膂力を爆発させて、瞬歩で相手との距離を詰めた。


 そして、全身全霊を以てして、最大の一閃を繰り出した。


「秘剣・絶の太刀――ッ!」


「がはぁ!」


 俺の最大の秘剣がクリティカルヒットして、一気に相手の生命力をゼロにする。ダメージ計算で結果は分かっているのだ。


 青鬼は片膝をついて、こう吐き捨てた。


「見事だ。勇者候補よ。この世界を頼んだぞ……」


 そう言って青鬼は黒い靄と共に消え去った。


 俺は消えゆく青鬼にこう答えた。


「世界なんて関係ない。俺が救いたいのは大切な者たちだけだ」


 その言葉が聞こえたのか、分からないが、青鬼が微笑みながら『それでこそ真の英雄だ』と告げたよう気がして、俺はもう一言だけ付け加えた。


「青鬼。お前との戦闘。なかなか楽しかったよ!」


 そう呟くと、また青鬼が笑ったような気がした。



 圧倒的な経験値の奔流でハイになってはいたが、それでも青鬼との勝負は本当の意味での真剣勝負だった。


 そんな気がした。


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