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第106話『地獄のダンジョン三層』

 地獄のダンジョンは思ったより楽に進めている。


 これもひとえに伝説の動画配信者さんの攻略情報のおかげだ。


 二層のボスだって、対策なしなら間違いなく詰んでいた。


 自分もマッドサイエンティスト貴族のクッズに使用したことがあるのだが【ストロング・バインド】はソロプレイ殺しの極悪魔法だからな。


 状態異常耐性や魔法耐性無効化の必中の束縛魔法。


 あれを対策してなければ、間違いなく初見のソロ冒険者は詰む。


 伝説の動画配信者さんも【地獄のダンジョン】に挑戦した冒険者たちから事前に情報を集めて、原作とのギャップを埋めていたらしい。


 いつもあの人は華やかな動画制作の裏で、着々とリサーチや準備に勤しんでいるのだ。


 それができる人だからこそ、あれだけ色んなダンジョンをソロで攻略することができるのだ。


 本当に尊敬の念しかない。


 あの人に近づけるように、俺ももっと頑張らないとな。


 次の最大値を得られるまで、約二時間と四十分。


 とりあえず施設のベッドで軽くコーヒーナップをして、仮眠を取り、それから食事を摂り、軽く動画で時間を潰して、約一時間の余白を残して先へ進もう。


 何せ次のフロアのボスは前置きがとんでもなく長い。


 そんな校長先生みたいな奴に挑むとなるとなんだかげんなりする。


 とにかく階下に降りたので、俺は施設の休憩フロアに入り、予定通りの行動を淡々とこなした。


 注文したコーヒーはアメリカンの、何処となくさっぱりとした苦みがとても美味かったし、ベッドの寝心地がとてもよくぐっすり二十分は仮眠をとれた。


 食事は眠気がこないように、炭水化物少なめで高タンパクの鶏肉ともやし炒めを注文した。


 そこから追加でアメリカンをもう一飲みしたあと用を足し、あとはタイマーをセットして伝説の動画配信者さんのアーカイブの続きを見ていた。


 それにしても東大陸に向かう船の飯はとても美味そうだ。


極上のステーキに、白ワインに、ロブスターやキャビアなんかも出てきていた。


 俺の給料でも食べられないことはないが、あれだけ高カロリーな食事は身体に毒だろう。


 そんな風に子供のようにはしゃいでいる伝説のダンジョン配信者さんを見て、俺はとても羨ましく思えた。


 俺も勇者さえ倒したら、こんな風に自由に旅行しながら、世界を回ってみるのも悪くないかもしれない。


 村の英雄としての任務もあるので、そう簡単に旅行になんて母さんが出させてくれないだろうけど。


 俺は伝説のダンジョン配信者さんのグルメ動画を見終わると、残りの時間で攻略情報の確認に徹した。


 俺はなるほどなと次のボスの情報を徹底的に頭に叩き込んでいると、ぴぴぴとタイマーが鳴る音がした。


 どうやら休憩の時間は終わりのようだ。


 乱数調整ツールを確認すると、次のステータスの最大値を得られるまで残り一時間ジャストだ。


「よし。行くか!」


 俺は立ち上がり、冒険者カードの電源をオフにした。


 休憩エリアを飛び出すと、俺はすぐ隣にある巨大なボス部屋の扉をゆっくりと開いた。


 その途端、豪快な笑い声が聞こえてきた。


「がーはっはっはっはっはっは。よくぞ来た。冒険者よ。我が名は茶鬼。鬼人の中でも話術と知識に長けた稀有な才能の持ち主である。まず貴公には我の幼少期から話さなくてはならん。良いかな?」


「は、はぁ……。できれば手短にお願いします……」


 遠慮がちにそう言うと、茶鬼はハイテンションで笑いまくった。


「がーはっはっはっはっはっはっは。良き心構えだ。命を懸ける相手の素性はきちんと知っておかねばそなたも不憫であるからな。がーはっはっはっはっはっは!」


 それから茶鬼はまくし立てるようにぺらぺらぺらぺらお喋りを続けた。


もうノンストップのマシンガントークだ。


 全部聞くのも面倒というか興味ないので、内容は全て右から左に流すことにした。


 そして、途方もなく長い前置きが終わり、ようやく心の中で唱えて開いていた【ステータスウィンドウ】の時刻表示によると、かれこれ五十五分も語り尽くしていたようだ。


 もう動画配信者にでもなれと言いたい。


 内容がつまんないので、再生数はきっと毎回数十回再生程度で終わるだろうけど。


 とにかくこれだけ待たされたのだ。


 もう一ミリも容赦する必要はない。


 茶鬼は棍棒を抱えた。


「さて。我の話は以上だ。さて、では雌雄を決する覚悟は良いか?」


 俺はちょっと小馬鹿にしたように鼻で笑いながら、はっきりと宣言した。


「ふっ。当然だ。そこまで無駄口叩いたからには、少しくらいは楽しませてくれよ?」


 原作ルシフのような気障な科白を吐くと、茶鬼は憤怒した。


「貴様。我の話しを無駄口と申すか! 許さん! 貴公は死刑に処す!」


 茶鬼が棍棒を頭上で回転させると、俺はまた馬鹿にしたように挑発した。


「死刑になるのはそっちの方だ。またリポップするまで地獄で寝てろ!」


 俺のヘイトに引っかかってくれた茶鬼は、棍棒を俺に振りかざした。


「我を愚弄したことを後悔するがいい。マジックキャンセラー!」


 相手の速攻詠唱魔法により、俺は全ての魔法手段を封じられてしまった。


 つまり魔法だけ使用することができない状態だ。


 だからこそ好都合だ。


 俺の本領は魔法ではなく奥義にあるのだから。


 無詠唱と無溜めで【新限界突破・改】を物理特化に、さらに【ダークネスブレイカー・エンチャント】を【傲慢の魔剣+3】に付与した。


 そこからはもう俺のワンサイドゲームの始まりだ。


「茶鬼。行くぞ。ゲーマーのプライドを思い知れ! ブラッドネスバースト!」


 俺はドリルのように螺旋上に突撃して、茶鬼の身体を貫いた。


「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 まさか瞬殺されるとは茶鬼も考えていなかったらしく。


 最後に未練がましい言葉をぼやいた。


「くそう。こうなるのだったらこの先の将来設計まで語って置くべきだったか……!」


「そんなしょうもないこと、誰も求めてないよ……」


 俺が反論すると、茶鬼はあっけなく消え去った。


 その瞬間だった。


 脳汁が溢れるほどの経験値の快楽が俺を襲った。


「ああ……。ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……♪」


 俺はその快楽に酔いしれながら、自らの力の高まりに興奮した。一気にレベルはまたしても十ポイント以上もアップしており、平均ステータス上昇率も500ポイントオーバーだ。


 現在のレベルは189。


 知性の低さももう改善されたし、ほぼ弱点無しになってきている。


 無属性だから必要以上にダメージを受けることも、半減されることもない。


 あとは圧倒的なステータスの高さと、ユニークスキルと、自らの天性の戦闘センスと、積み重ねた技量と知識で埋め合わせするだけだ。


 もうミカリスにだって負けやしない。


 いや負けてはならない。


 大切な者たちを守るために。


 もっともっと強くなるのだ。


 そう決意して、俺は次のフロアへと向かった。

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