第101話『伝説の動画配信者』
いきなり始まった伝説の動画配信者さんの突撃インタビュー。
俺はまずいきなりな質問をされた。
「えっと。ルシフ君は、新たに誕生した魔王ミカリスを倒す勇者候補に選ばれているそうですが、いまのお気持ちはいかがでしょうか?」
俺はなんと答えたらいいのか、分からずに、少し口籠ってしまった。
「え、あ、まあ。その頑張ります……」
めちゃくちゃコミュ障全開の回答に、周囲は『コミュ障乙』とか『ルシフきゅん。可愛い♡』とか様々なコメントが寄せられてきた。
それにしても、同時接続百万人ってとんでもないな。
伝説の動画配信者さんは、またしても気遣ってくれたようで、動画のみんなに別れの挨拶を告げた。
「悪いな。みんな。ルシフ君はどうやら緊張して上手く話ができないみたいなんだ。よって突撃インタビューはここで終わり。本日のゲストは魔剣士ルシフ・ホープ君でした。じゃあ。またなぁ~~!」
伝説の動画配信者はそこで動画の撮影を終えた。
そして、記録結晶をしまうと、俺の方へと振り向いた。
「いやぁ。驚かせてすまなかったね。何せ動画のネタには最高だったもんで。つい、欲が出ちゃってね。てへ♪」
てへ♪ じゃねぇよと思ったが、本当にこの人は愉快だ。俺は緊張しながらも伝説の動画信者さんに挨拶した。
「いえ。別に構いませんよ。それと、いつも配信見てます。ルシフ・ホープです! ずっとずっとファンでした!」
伝説の動画配信者さんは真面目そうな顔をにやりを笑顔に変えた。
「あっはっは。知っているよ。毎回コメントやスパチャくれてた。ルッシーって君のハンドルネームだろ? あとそのハンドルネームは前世では大人気対戦ゲームの世界大会優勝者のハンドルネームであり、本名倉杉卓也のもの、違うかな?」
「ど、どうしてそのことを……」
この男、どうやら只者じゃないらしい。
まさか前世の俺が同じハンドルネームで使用していたことで、直観でルシフイコールルッシーだと気が付き、転生者であることまで見抜いたのだ。
なんて恐ろしい男なのだろう。
俺は警戒したが、伝説の動画配信者さんは笑顔でその緊張を解いた。
「いや。勘違いしないでくれ。君をどうこうする気はないし、転生者だって情報を公開するつもりもない。ただおれは純粋に君に興味があるんだ。あの天才ゲーマールッシーがどのような軌跡を辿って、勇者ミカリスを闇堕ちさせて、自分が闇堕ちを回避したのかね……」
なるほどこの人は好奇心の塊だ。
おそらく原作シナリオを知る身から分岐されたルートのことに純粋な興味があるだけなのである。
それなら答えてあげた方がいいだろうと思い、今までの冒険の軌跡を聞かせる決意をした。
「分かりました。実は……」
俺は今までの経緯を全て伝説の動画配信者さんに語った。
まずは転生して勇者パーティーに加入せずに闇堕ちフラグをぶっ壊したこと。
その後、特別指定冒険者になり、クエストを通じて転生者のマリアに出会ったこと。
レビアとパーティーを組みエクストラダンジョンをクリアしたこと。そこにイレギュラーが存在したこと。
新人潰しのダッサイが魔族に堕ちたので牢屋送りにしたこと。
クッズ・ハラグロードが転生者で傲慢の堕天使に憧れる教信者だったため牢屋送りにした。
ホープ村の英雄に認定されたこと。
異世界から来た幼馴染と再会したこと。
異世界人の動画によって強化された憂鬱の魔人軍幹部と戦ったこと。
レビアの恋人として道具屋経営を手伝ったこと。
水竜を討伐したこと。
その過程でもうひとりの幼馴染でこの世界の絵師ハンバーガーちゅきちゅき先生に出会ったこと。
牢屋から脱獄したダッサイを殺して、生まれて初めて人を殺して罪を背負う覚悟を決めたこと。
レイルズエクストラダンジョンをみんなとパーティーを組んで攻略したこと。
道具屋経営の際に、ルイナやジンクに手助けして貰ったこと。
道具屋が繁盛したと思ったらミカリスが魔王になり、魔人アスマデウスや炎竜と戦ったこと。
そして、ミカリスが本格的に世界を敵に回す魔王となり、自分の命を狙っていること。
その原因になったのがもしかしたら自分が伝説のダンジョン配信者さんに流した睡眠経験値修行法が魔人軍を強化して世界のインフレを招いたかもしれない罪悪感。
全部伝説のダンジョン配信者さんにぶちまけた。
彼は俺の話しを全て受け入れてくれた上で、考え込むように顎を触りながら黙考して、ひとつの答えを出した。
「どうやら君は女神が選んだ転生者の中でも中心人物なのかもしれないな……」
「と、言いますと?」
「ああ。それはな。女神の奴がこの世界のシナリオを滅茶苦茶にすることだけが目的だってことだよ!」
伝説の動画配信者さんの仮説を聞き、かつてクッズから聞いたことを照らし合わせた。
やはりそうか。
この操られたかのような気持ち悪さ。
女神の意図が絡んでいるのだ。
俺はある不安を伝説の動画配信者さんに語った。
「つまり女神は神話になぞって、俺が堕天使ルシファーと同じように、大天使ミカエルに敗北して、地獄へ突き落される。つまり俺はミカリスに勝てないということでしょうか?」
それについて伝説の動画配信者は首を振った。
「それもあり得ないよ。何せ世界を滅茶苦茶にするならDLCの追加ストーリーすら破綻させないといけない。つまり勇者ミカリスに生きて貰うメリットがない。それに世界のシナリオを嫌う女神が、そう簡単に結果まで自分で決めてしまうとは思えないし、どう変えるかは結局君たち選ばれた者次第というわけさ」
それを聞いて安心した。
つまり結果まで決められていないなら、実力だけで魔王ミカリスに対処できるということであう。
俺はほっと安堵の息を吐くと、伝説の動画配信者さんはこう言った。
「悪かったね。先に狩場を独占しちゃって。リポップするまでに二日かかるし、それなら別のエンドコンテンツで修行した方が時間を無駄にせずに済むだろう。これを受け取ってくれ!」
伝説の動画配信者さんが前に俺が連絡した時のメールアドレスに何かのファイルを送ってくれた。
俺はそのファイルを開くと【禁断領域】の攻略法と【ダメージ計算ツール】と【乱数調整ツール】が入っていた。
「こ、これ、いいんですか?」
伝説の動画配信者さんは頷いた。
「おれは直接世界を救うことができないからね。だから俺の秘伝のツールとこの大陸最難関ダンジョンをソロ攻略するための攻略情報を君に渡しておく。これくらいなら直接世界を救ったというより、間接的なサポートをしただけだから、罰則はないしね!」
俺は伝説の動画配信者さんに頭を下げた。
「ありがとうございます。伝説の動画配信者さん!」
礼を告げると、伝説の動画配信者さんはサムズアップした。
「ああ。頑張れよ。ルシフ君。世界の命運は君にかかっているからな!」
「はい!」
こうして俺は伝説の動画配信者さんと別れて、野営地で、ダメージ計算ツールとダメージ調整ツールを弄りながら、自分のスキルと奥義の中で、ダメージを与える正確な計算結果や、レベルアップ時のランダムステータスを調整する方法を探り始めた。




