第100話『フレアドラゴンの谷』
村の皆に別れを告げて旅立って翌日。
極限まで高められた【新限界突破・改】を使用しての移動し、わずか数時間で野営ポイントまで辿り着き、しっかり食事と睡眠により体調の管理も準備も万全に整った。
「よし! 行くか!」
俺は最初の修行場所【フレアドラゴンの谷】の入り口の前へと立っている。そこは見るからにドラゴンの物と思われる足跡がたくさんあり、そこらに骨が転がっていることから、餌となった動物か、あまり考えたくないが、人間という可能性も捨てきれない。
とにかく俺は【フレアドラゴン】の餌になるつもりは毛頭ないので、すぐに魔装備を取り出しレビアに作成して貰った【傲慢の魔剣+3】の鞘を手に持ち、周囲を見回した。
どこにも【フレアドラゴン】のいる形跡がないのだ。
明らかに可笑しいので、どんどん先へ進んでいく。
しかし、やはり【フレアドラゴン】の姿は見当たらない。
だんだんと焦りが勝ってきて、いつの間にかエリア内をダッシュで駆け回っていた。だが、どこにも【フレアドラゴン】は見当たらないのだ。
どういうことかと俺はスマホを開くと、どうやらこのダンジョンを誰かが攻略しているようだ。
「くそ! 先客がいたか!」
これは狩場を先取りされたと言っていいだろう。俺の経験値が……と内心嘆きながら、せめてその攻略している奴の顔を拝まないことにはやり切れない。
コミュ障の俺が直接語りかけることはないが、遠くからそっと顔だけ見てやりたいのだ。
それにこれだけの【フレアドラゴン】が出現する谷をソロ攻略してしまえるほど、その人は強いのだ。
俺はどんどん谷の奥へと進んでいき、ちょうど洞窟を見つけた。ここからがさらに強力な【ハイフレアドラゴン】やエンドコンテンツ級ボスモンスター【フレアドラゴンロード】の住処なのだが、まさかあの凶暴なドラゴンを単独撃破しようとする無謀な人物がいるとは、その人物は俺と同じでよほどのゲーム好きでバトルジャンキーらしい。
それとさっきからブリチューブの通知音がうるさいのだが、構っていられないので先へ進む。
辺りはもうとっくに狩り尽くされており、しばらく奥へ進むと物凄い地鳴りと剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。
俺は先へ進むと、そこにはなんとびっくり仰天の意外な人物が戦っていた。
「みなさん。フレアドラゴンロードの弱点は顎下の宝玉です。ここをピンポンとで叩けば効率よくダメージを与えることが可能です! ほら! こんな風に!」
男は記録結晶を片手に、もう一本の腕で装飾華美な片手剣を振っていた。その片手剣により【フレアドラゴンロード】はとうとう生命力が尽きたのか、その場に倒れてしまった。
俺は目を疑った。何故ならあれほど憧れたあの人が目の前にいるのだから。俺は興奮が隠せずに、思わず隅っこに隠れて、その様子を伺っていた。
「ほ、本物だぁぁぁぁぁッ!」
俺の目の前の人物は、なんとあの伝説の動画配信者さんその人だったのだ。あの黒髪ショートの真面目そうな顔立ちは、間違いなく動画配信者さんだ。
俺は彼の顔を見て、スクショしたい気持ちに駆られたが、許可もなく撮影したら、肖像権の問題で色々と不味いだろう。
見るしかできない自分のコミュ障ぶりが悔しい。すると伝説の動画配信者さんは実況を続けてとんでもないことを言い出した。
「フレアドラゴンの谷攻略配信は以上です。ご視聴ありがとうございましたと行きたいところですが、どうやら時のあの人がやって来ているようなので、凸しに行きたいと思います! さあ。隠れてないで出てきてくださいよ。魔剣士ルシフさん?」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
いきなり過ぎて意味が分からない。まさか伝説の動画配信者さんに隠れていたことがバレて凸されるとかどういう事態よ。
俺はもう逃げることはできないだろうなと悟ったので、ゆっくりと伝説の動画配信者さんに姿を見せた。
彼は「ほら。来ましたよ。原作の闇堕ち魔王で有名な魔剣士ルシフ君です!」
と彼は俺を動画に映し出したので、俺は自己紹介した。
「ど、どうも魔剣士ルシフです……」
俺がきょどりながら答えると、チャット欄から『アレ、意外とコミュ障?』とか『シナリオと歴史が改変されたせいで性格変わった』とか色々な憶測混じりの言葉が飛び交った。
動画配信怖い。思ったよりカメラの前で喋るのって勇気が要ることに気が付いた。
伝説の動画配信者さんは俺に上手く気を回してくれた。
「どうやら魔剣士ルシフ君は初めての撮影で緊張しているようなので、皆さんあまり煽ってあげないでやってくださいね?」
などと冗談めかして言うと『いやいや。原作キャラにいきなり失礼だろ』とか『了解です。ルシフきゅん。頑張って♡』とか色々なコメントが飛んでくる。
動画配信ってこんな精神的に削られるのかよと胸がドキドキしてしまった。
俺がきょどっていると伝説の動画配信者さんはひとつ注意説明をした。
「あ、言っとくけど。おれシナリオに干渉するのは禁止されてるんで、彼の攻略には一切手を貸しません。うぇ~~いw 女神様見てるぅぅぅ~~!」
なんだよ。その『うぇ~~いw オタク君見てるぅぅぅ~~』みたいなNTR漫画みたいな言い方は……。
思った以上に陽キャオタクで愉快な人だ。真面目な見た目からここまでちゃらけたキャラは推測できないだろう。
このエンタメ性に惹かれて、俺も彼の配信を見ていたのだ。そして、伝説の動画配信者さんは俺への質問を開始した。
「では早速質問行ってみよか~~」と、ハイテンションな合図と共に俺の伝説の動画配信者から俺への突撃インタビューへとコーナーが移っていった。
俺はもう勘弁してくれと今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいであった。




