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第10話『初めての野営』

 俺は遠出になるで、ハラグロード村で野営する準備をしっかりと行ってきた。そして、現在、モンスターの群れと遭遇して、ハッスルしているところである。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 俺はモンスターを、一匹残らず狩りまくっていた。モンスターは人類の敵だ。こういう相手を倒すことは、害虫を駆除するのと同じなので、あまり罪悪感を覚えたりなんかしない。


 ただこれから戦う相手は、同じ人類の敵であるとはいえ、人である。魔族は種族が違うだけで人なのだ。そんな奴を相手に俺は討伐――。つまるところ殺しなどできるのだろうか。


 現代日本人の感性として、そこはどうも躊躇ってしまう。しかし、遅かれ早かれ、俺はいつか人を殺さないと、いけなくなるだろう。


 それは特別指定冒険者なんて仕事をしているのだから、盗賊団の壊滅みたいなクエストもあるだろうし、そうなれば悪人とは言え、生身の人間を殺さなければならないのだ。


 これは俺も覚悟を決めなければならないかもしれない。そんなセンチなことを考えつつ、俺はモンスターを本能のままに駆逐した。


「ふぅぅぅぅぅ。楽しかったぁぁぁ~!」


 ゴブリンの群れをせん滅して、俺はその快楽に愉悦感を抱いている。これもこれで異常なのでは? と思ったりもするが、あまり深く考えないことにする。


 俺は知性が低い。アホの子が頭を使っても、メンタルが日和ってしまうだけで、ろくなことにならない。とにかく俺は言われた通りにクエストをこなす。それだけで理由は充分だ。


 そろそろ夕方近くになってきたので、俺は近場の野営ポイントまで【魔力強化】を使用して、猛ダッシュした。吹き抜ける風がなんと心地よいことだろう。俺はなんとか日が落ちるまでには野営ポイントに到着した。


「さてと。ようやく人生初の野営だな」


 人生初の野営と言っても、学校の林間学校でキャンプくらいしたことはある。それに家族や幼馴染一家に連れられて、何度か行ったこともあるくらいだ。バーベキューはかなり美味しかったっけな。


 しかし、今、手元にあるのは、食材屋で買ってきた干し肉とパンとチーズと水だけだ。


 いつもキマイラの肉を食いまくっている俺からしたら、ちょっと物足りないが、たまには質素なのもいいだろう。俺はその辺から適当の木材を集めて、チャッカマンで火を点けた。魔科学の発展に感謝の念でいっぱいである。


 暖をとれた俺は、干し肉を軽く炙って、串にチーズを突き刺して、軽く蕩けさせた。

 それをパンの間に挟んで、簡易版チーズ肉サンドの完成である。


「いただきます!」


 俺はきちんと手を合わせてそう挨拶してから、チーズ肉サンドにかぶりついた。蕩けた濃厚なチーズの味わいと、こんがり焼けた干し肉のカリカリした感触が堪らない。妹ではないが、食欲が暴走して、三秒で食べてしまった。


「はぁぁぁ。美味かった……」


 やはり人間というものは四大欲求を疎かにしてはいけない。食欲。排泄欲。睡眠欲。戦闘欲だ。ちなみに最後のだけは、固有欲求のようなものだが。


 さてと。腹ごなしを終えたことだし、レベリングでもするか。


 俺は【魔力強化】を施して、腕立て伏せを開始した。ちなみに一日一万回くらいしている。今は旅の途中で、睡眠を疎かにするわけにはいかないので、あまりできないが、今日も寝るまでには半分の五千回くらいはしておきたい。


 俺は高速で正しいフォームで、次々とプッシュアップをこなしていく。程よい筋肉の痛みと魔力の消費感が、俺の脳内快楽物質を刺激する。


 約十分で五千回が終わり、次は腹筋に移る。これもまた正しいフォームで、高速アンド魔力高負荷状態のまま行っている。これも約八分で終わった。


 次は背筋、スクワット、素振り、剣の型稽古と次々とこなし、走り込みは先ほどここに来る前にしたので、今日はそれでよしとしておく。


 俺は運動後のマナ補給のために、マジックポーションをぐいっと飲み干して、今日のトレーニングを終えた。


 あとは【魔力強化】を常時行いながら、冒険者カードで、異世界人の動画配信を見ながら寝るだけである。


 動画配信なんてするくらいなら、アプリゲームも開発して欲しいものだ。まあ。今は最高に楽しい、まさにネット小説などでよくあるVRMMO系のゲームをしているようなものなので、今さらアプリゲーなど物足りないが、それでもソシャゲにはソシャゲに良さがある。


 俺は無課金派だったが、やっぱり10連ガチャでSSRキャラクターを引いた時の喜びは計り知れないものがある。だが俺は、やはりコンシューマーゲームが好きな古風なタイプなので、据え置き型のゲームがしたい。


 いつか異世界でもゲームが開発されたらいいのだが、異世界人にゲームクリエイターが転移してくることを切に願おう。


 俺は今、ダンジョン配信物の動画を見ている。ダンジョンを攻略する動画を配信するだけで百万再生もバズるのだから、常にレベリングと時たま簡単なクエストで稼いでニートしている俺なんかより、よほど金を持っているに違いない。


 でも、俺だって、このクエストをクリアすれば、それなりに金を稼げる。


 ちなみに稼いだ金は、何かしらレベリングに役立つアイテムを購入したい。


 全てこの異世界で強くなることに金を投資するのだ。それくらいしないと、数年でレベルをカンストさせるなんて絶対に不可能だろう。


 俺は動画配信を見ていたら、ちょっとうとうとして、睡魔が押し寄せてきた。俺はそのまま微睡の世界に身を委ねようとしていたら、急に猛烈な魔力を感じ取ったので、すぐさま臨戦態勢に入った。


 敵の投げナイフを、俺は身体を回転させて、回避する。


「誰だ! 姿を現せ!」


 すると、そこには黒フードを被った暗殺者らしき女性がいた。


「お前まさか、高難易度クエストに指定対象にされている暗殺者か!?」


 相手は何も答えずに、二つのナイフを手慣れたように構えた。


「偽物ならば、たとえ推しの魔王の姿であっても排除する!」


「推しの魔王だと!」


 どうやらこいつは、ブリファンのことについて知っている。それに、偽物という科白から察するに、こちらが転生していることにも気が付いていることも確定だろう。


 ということは相手も転生者か。俺は警戒度を底上げして、【魔力強化】を限界ギリギリまで滾らせた。その魔力を見て、暗殺者は「ふぅ……」とため息を吐いた。


「どうやら無策で勝てる相手ではないみたいだな。ここは一時撤退させてもらうよ!」


 そう言い残して、暗殺者は、この場から離れた。こいつがまさか転生者だとは。


 それとよく考えたら、何故この世界の異世界人は、みんな本編のシナリオに関わろうとしないのだろうか。それは俺も同じだが、俺の場合は逆にがっつりシナリオに関わらないと、ゲームのシナリオ自体が書き換わってしまう。


 もしかすると、それすらこの世界に俺を転生させた存在の思惑ということだろうか。何か掌の上で転がされている気がして癪に障るが、俺が思っているより、この世界は何か大きな変化の渦の中にいるのではないか。なんとなくそんな予感がした。

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