第1話『勇者パーティーから離脱して闇堕ちした魔王に転生したのだが、破滅フラグをぶっ壊すために、勇者の仲間にならないことにした!』
この作品はカクヨムでも先行公開しています。普段はカクヨムメインで活動している新人作者ですがよろしくお願いします。
俺は死亡した。圧倒的な痛みと暗黒に包まれて、脳内に猛烈な電流が走った。
「うう……」
「おい! ルシフ!? 大丈夫か?」
目を覚ますと、そこは中世ヨーロッパの田舎のような景色が見えた。すると、頭を抱えたままの俺を気にかける、美しい黒髪をした少年が近寄って来たので、手をかざして制した。
「ああ。大丈夫だ。ミカリス。それより話しってなんだ?」
自分で話しってなんだと聞いているが、俺はその内容を知っている。何故ならここは、世間では賛否両論のRPG【ブリリアント・ファンタジスタ】の世界だからだ。
そして、陰キャでガチゲーマーの男子高校生である俺、倉杉卓也は、猫を庇ったせいでトラックに轢かれて死亡し、この世界のとあるキャラとの記憶の融合を果たした。それは勇者パーティーから離脱して、闇堕ちして魔王化する魔剣士ルシフである。
だから次に、この黒髪少年こと、勇者ミカリスが、語る科白も知っていたし、どう答えるのかも決めていた。そして、勇者ミカリスは俺に手を差し出してきた。
「ルシフ。僕と来ないか? 僕と君なら、きっと世界だって救えるに違いない! それに僕は君と友達になりたいんだ!」
まさに理想的なほど熱烈な勧誘だ。しかし、俺は勇者の手を取らず、はっきりと言い放った。
「悪いな。俺にはこの村が大切なんだ。だから、お前のパーティーには入らない!」
その言葉を聞いた途端、ミカリスは焦り始めた。
「嘘だろ……? だって、あんなにクエストを通じて仲良くなれたじゃないか?」
それでも、俺は自分の意志を貫いた。
「悪いな。一時の友情より、故郷の方が大切なんだよ」
その言葉を聞くなり、ミカリスはみるみる血相を変え、眉間にしわを寄せて、裏切られた激情を俺にぶちかましてきた。
「仲間にならないだと! ふざけるな! 君はこの世界が危機に瀕していることを理解しているのか? それに僕とのあのクエストでの友情の誓いは嘘だったのか!! 答えろよ!! 魔剣士ルシフッ!!」
それはまあ怒るだろうな。だが、俺は落ち着いて、なるべく相手を傷つけないように配慮しながら、言葉を選んだ断り方をした。
「確かに世界は危機に瀕している。でもな? 俺にとっては世界を救うことよりも、家族や幼馴染の方が大事なんだよ。わかってくれ。ミカリス……」
勇者はその言葉を聞くなり、こちらを見下したような視線のまま俺を貶み、主人公に相応しくない傲岸不遜な発言を口にした。
「ふっ。所詮、君はその程度の男だったというわけか。失望したよ。魔剣士ルシフ。田舎に引きこもり大志を抱かないようでは、君は僕の隣に並ぶ資格も、友となる権利すらない。もう会うこともないだろう。じゃあな!」
気障で独善的なセリフを吐き捨てて、勇者は恰好つけた仕草で、俺に背を向けて歩き出した。やっぱりどう考えても、こいつは主人公失格だ。こんな嫌な奴を主人公にしようとしたシナリオライターは何を考えていたのだろう。
そして、何故俺が勇者ミカリスの仲間にならなかったのか。それはこれから訪れる魔王ルシフの破滅のフラグを初手からぶっ壊すためだ。
なるべく簡潔に経緯を語ろう。
まず魔王ルシフは、勇者ミカリスの親友であり、魔剣士という強力なジョブと【傲慢】というユニークスキルを所持した作中屈指のチートキャラクターだ。
しかも強さだけでなく、作中屈指のイケメンであり、白銀短めのショートヘアに、顔は中性的な女顔で、赤く燃えるような瞳が印象的だ。体格は小柄で細身。服は黒いコートを着用しており、何処となく堕天使ルシファーを彷彿とさせるという完全に中二病的なキャラクターデザインをしている。
正直言って、超カッコいいので、俺の最推しのキャラクターである。
その俺の推しである魔剣士ルシフは、旅に出たばかりのミカリスと偶然出会い、このハラグロード村のクエストを通して意気投合し、勇者パーティーに加入することになる。
それから、長い旅路の果てに、魔人国の王サタナスを討伐して、世界を救うことに成功するのだが、悪いのはサタナスであって、魔族たちではない。全滅させるのは可哀そうだと、勇者ミカリスは同情して、魔族の残党たちを見逃してしまう。
しかし、それでハッピーエンドとは行かずに、勇者に見逃された魔族の残党である魔人アマデウスが、自らの主を殺された腹いせに、魔剣士ルシフの故郷を滅ぼしてしまうのだ。
大切な故郷を失い、絶望したルシフは、闇堕ちして魔族に堕天してしまい、魔王として覚醒を果たし、勇者たちを、全ての人類を恨むようになる。
そして、全ての人類と世界を敵に回してしまった魔王ルシフは、勇者ミカリスに倒されて世界は救われて終わるというよくあるパターンのシナリオだ。
だが、問題はそこではない。この勇者ミカリスという少年は、自分の甘さのせいで親友が闇堕ちしたにも関わらず、反省や後悔すらせずに、非情にも魔王となったルシフを即人類の敵だとみなして討伐することを目指してしまうのだ。
そして、挙句の果てには、あれだけ敵だとか、ほざいていた癖に、魔王ルシフを倒した後、美しい思い出をありがとう。友よとか綺麗事を抜かす始末である。そのあまりの非情さに、まるで救えないクズ主人公として、ユーザー人気投票で最下位になるほど嫌われているのだ。
ちなみにルシフはクリア後に喋らないモブNPCとしてパーティーに参加できるという救済措置がされており、そのあまりのチートさと万能さゆえに、もうスペック的にも劣化ルシフで、戦力として使う必要がない勇者ミカリスを、パーティーメンバーから外してしまう猛者たちが現れるほどには嫌われていた。
つまり、あんなクズ勇者の仲間になれば、どんなに上手く立ち回ったところで、また何かしらのトラブルに巻き込まれて、闇堕ちして魔王になるに決っている。
そうなれば、最後はこちらが覚醒を果たした勇者に討伐されてしまい、破滅するという本来のシナリオに収束する可能性が高い。
だからこそ、俺はこう考えた。だったら、最初から勇者の仲間にならなければいいだけではないかと。
何故なら、主人公たちが辿る本編シナリオに関わらなければ、魔人に難癖つけられないだろうし、面倒な悲劇など、そうそう簡単には生まれないからだ。
我ながら天才的な選択だ。これで俺の闇堕ちするフラグは、ほぼ初手からの、神の一手でぶっ壊せただろう。
それはそうとして、今後の異世界での生活を考えると、ゲーマーとしてのプライドが刺激されて、熱い思いが込み上げてくる。
なんたって、この略称ブリファンというゲームは、キャラクターデザインとやり込み要素だけはやたら評価が高い。
何せ廃人ゲーと呼ばれるくらい、クリア後のやり込み要素が満載なのである。ゲーム本編はチュートリアル。クリア後からが本編であるという名言があるくらいだ。それくらいエンドコンテンツは神と評してもいいだろう。俺はゲーマーとしての魂が刺激され、柄にもなく熱血キャラみたいな咆哮をあげた。
「よっしゃ! きたああああああ! 推しのゲーム世界に転生とか、胸熱展開過ぎるだろ!」
俺は前世からゲームだけには命を懸けていた。友達も幼馴染が二人だけしかいなくて、ゲームしかやることがなかったのも大きいが、俺は純粋にゲーム自体が大好きなのだ。それにほぼ確定的に、俺をゲーム世界へと転生させた神的な存在がいる。そいつはわざわざ魔王ルシフに転生させたのだから、俺の破滅を望んでいた可能性が高い。だからこそ、俺は覚悟を決めた。
詳しい原理はまだ分からないが、せっかく大好きなゲームの世界に転生したのだ。俺は限界まで己の強さを極めて、エンドコンテンツに挑戦しながら、推しキャラの家族や大切な人を守り抜き、この世界に転生させて俺を破滅へと追いやろうとした存在に、ゲーマーとしてのプライドを思い知らせてやる。
俺は生来の血が騒いで、今夜は眠れそうにない。そう確信した。
これは闇堕ちして魔王になるはずだった魔剣士ルシフに転生した俺が、初手から破滅フラグをぶっ壊すため、勇者の仲間にならずに、自分の冒険者人生を謳歌しながら、大切な者たちを守り抜く、そんな物語である。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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ちなみに略称は闇堕ち魔王です。今度とも拙作をよろしくお願いいたします。初回は12話連続投稿します。