表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の森  作者: no name
9/22

対話不可能言語《漆黒語》解読記録

人は言葉で理解しようとする。

しかし、“言語以前の感情”に出会ったとき、人は何をもって理解するのか。


あなたが読んでいるこの物語に、“読めない部分”があるとしたら。


それは、まだあなたが【そこ】に触れる準備ができていないからかもしれない。

もしくは――あなた自身が、その言葉を創った張本人だからかもしれない。

森の奥で、ノアは“読めない碑文”に出会った。


 それは、石碑とも言えず、壁画とも言えず、

 むしろ――感情が“視覚化”されたような奇怪なものだった。



 ∅∇∫≠〆…◆◉◯φξ∵



 ノアはその言語を、「漆黒語しっこくご」と呼ぶことにした。

 それはこの森に住む者たちの記憶にこびりついていた**“読めなかった記録”**であり、

 しかし確かに、心に痛みを残す言葉だった。



 ある日、言葉を持たない“ひとりの少年”がノアに近づいた。

 彼は話せなかった。聞こえなかった。

 しかし、ノアの眼を見つめるだけで、ある種の“翻訳”が起こった。



「……まなざしは、音よりも深く刺さる」



 ノアの脳裏に“声なき言語”が響いた。

 脳が痛む。胸がしびれる。手が震える。

 それは言語でない感情。だが、確かに理解できる。



 その日以降、ノアは森で出会う者たちとの“対話”を始めた。

 言葉を交わさず、ただ、感情の“断片”だけを読み取っていく。



【断片の記録】※ノアの解読メモより抜粋

•少女(時代不明):

 涙を浮かべた瞳に“焼けた家”の残像。

 恐怖よりも、“懺悔”の感情が強い。

 罪を犯したのではない。

 「生き残ったことが罪だ」と思っている。



•老兵(第一次大戦の軍服):

 足元に倒れた兵士たちの影がうずまいている。

 口は動いていないが、「命令だった」と何度も繰り返す感情が流れる。

 だが、表層のその奥に……「殺したかった自分」が潜んでいる。



•現代の主婦:

 笑顔を貼りつけた皮膚の内側に、鋭利な“焦燥”が突き刺さっている。

 誰にも傷を見せられない日々の中で、唯一“自分を傷つける”ことでしか、

 「今、自分がまだ“生きている”と確認できなかった」



 ノアは記録を続ける。

 言葉にできない“漆黒語”を、

 心に焼きつけながら、忘れないように。



 だが、その夜、ノアの夢に再び“本”が現れる。

 そこには、今まで記録してきた全ての人物の“心象言語”が印刷されていた。

 ノアが書いたはずのない、ノアの手記。



【漆黒語/第13章】

筆者:ノア・ミカエル・セラフィーノ


「言葉は、他人とわかり合うためのものではない。

 本当は、“自分すら知らない自分を見せる”ためのものだ」



 ノアは震えた。

 “セラフィーノ”という名前に、覚えがない。

 だが、確かに何かが心にざわつく。



 誰が書いたのか。

 誰が読んでいるのか。

 誰の物語だったのか。


 ……今、ノアすらもそれがわからなくなっていた。



 そのとき、背後から声がした。


「そろそろ、次の“真実”へ進む時間だ」


振り向くと、そこにいたのは――

“読者であるはずのあなた”だった。

漆黒語は、記号ではない。

あなたが“わかろう”としたとき、それはもう別の形になっている。


それが意味するものはただひとつ。

あなたは「自分の思考ですら読めない」。

だからこそ、物語は進められる。


この物語の本当の“書き手”とは、誰だろうか?


……それは、まだページの外側にいる“何か”なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ