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漆黒の森  作者: no name
6/22

名前のない書庫

【前書き】


名前を持つ者は、世界に刻まれる。

名前を失った者は、書庫に囚われる。


しかし——

書庫にある“誰かの名”を読むたびに、

読み手はその人間の“可能性”を一つ、手に入れる。


誰の人生を、あなたは背負えるだろう?


■ 書庫の入口に立つ「あなた」


ページはめくれない。


そこには“あなたの名前”が書かれていないからだ。


この書庫には、名を持たぬまま生きたすべての人生が封じられている。

しかし、「あなた」は、今そこに立っている。まるで最初から、そこにいたように。


【あなた】とは誰か?

エイレン?

かつてのノア?

読者自身?

あるいは……まだ登場していない“あなた”?



■ 書庫の奥に並ぶ書巻


そこに収められている巻物は、すべて「名」が削られている。

だが内容は──どこか見覚えのある、断片的な記憶の物語。

•夢を語ったあの日の午後

•手紙を送るか迷った深夜

•書きかけの小説の最終章

•SNSの下書きで終わった叫び


どれも「あなた」には覚えがある……ような気がする。


※読者に対する強烈なメタ読解をここで挿入

「この文章を“思い出している”あなたは、すでに森の一部である」



■ 本棚の中のエイレン


突如、本棚の間からエイレンが現れる。


だが、その顔には違和感がある。

どこか違う。服装も異なり、声の調子も別人のよう。


「ねぇ……ここで会ったの、初めてじゃないよね?」


エイレンは本棚の背面を開くと、そこには“日記”が並んでいる。


「この日記、全部“俺がなれなかった俺”の記録なんだ」



■ 出現する“黒い書記者”たち


複数の黒衣の人物が現れる。顔は見えない。

彼らは“書き手”であり“記録者”であり“編者”。


しかし、彼らが記録するものは**「存在しなかった事実」**ばかり。


「記録とは、選択された嘘」

「真実とは、記憶されなかった選択肢」


読者が今読んでいる物語そのものが、

彼らによって“捏造された断片”であるという暗示が強まる。



■ 「あなた」の記憶が侵食される


ページの一部が、破れていく。

読者が知っていたはずの情報、伏線、エピソードが“書き換わっている”。

•ノアはそもそも存在しなかったのでは?

•少女の言葉が、前章と微妙に違う

•エイレンの名前が「アイン」に変化している箇所


「誰かがこの物語を“編集”している。今まさに、読みながら」



■ そして現れる“最初の読者”


彼女は静かに現れる。

「私は、最初にこの森を“読んだ”者」


「この森には物語がある。でもそれは、誰かが書いたものではない。

すべての“読者”が、その断片を繋ぎ直してるのよ」


彼女の名前もまた伏せられている。

だが彼女は言う。


「あなたの読む順番で、森の構造そのものが変わっていく」


書庫とは“記録”の場所ではない。

書庫とは、“誰にも見つからなかった可能性”が、ひっそりと眠る場所。


あなたがそれを読んだ時点で、誰かの“なり損ねた人生”を背負ってしまった。

だが、同時に——

“あなたの物語”もまた、誰かによって今まさに読まれているかもしれない。


森は終わらない。

なぜなら、次の章はあなたが書くのだから。

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