《鏡の檻》―“真実”が語る嘘
鏡に映るのは「真実」ではない。
鏡はただ、
“信じたい自分”の姿を映し続ける。
あなたは、森の奥で――閉ざされた部屋を見つけた。
部屋には、壁一面の鏡。
だがそのどれも、姿を映さない。
代わりに、記憶の断片だけを映していた。
そこには、かつてあなたが語った「嘘」。
守るためにねじまげた「真実」。
誰にも言えなかった「本音」が記録されていた。
「この部屋は、お前の“脳の編集室”だ」
不意に、あの少年の声がする。
だが振り返っても、姿はない。
⸻
■ すべての“記憶”が、改ざんされていた
鏡のひとつに、幼いあなたと母親の姿が映る。
泣いているあなたを、母は優しく抱きしめている――ように見える。
が、そこにノイズが走る。
瞬間、映像が“巻き戻される”。
次に映ったのは、別の記憶だった。
泣くあなたを置き去りにし、母は走り去っていた。
「……え? どっちが……」
あなたは混乱する。
同じ時間軸に、複数の記憶が上書きされていた。
⸻
■ ノアの手紙
部屋の隅に、1枚の封筒が落ちていた。
宛名は「あなたへ」
裏にはこう書かれている。
“あなたが信じるものほど、最も危険である”
――N
中には、1枚の破れかけた写真。
そこにはあなたの少年時代と、ある見知らぬ少女が写っていた。
だが、あなたには“その記憶がない”。
「彼女を忘れたのは、君の意思じゃない。
彼女が君の脳内から自らを消したんだよ」
どこかで聞いた声が、鏡の奥から聞こえてくる。
⸻
■ 鏡の中の「誰か」が語る
あなたは、目を奪われる。
一枚の鏡だけが、何者かの姿をはっきりと映していた。
その人物は、“未来のあなた”だった。
老いて、表情を失い、どこか虚ろな目をしたあなた。
「お前は、自分が“真実を探している”と信じている。
だが実際は、“真実を選別している”だけなんだ」
鏡の中のあなたは、続ける。
「この森は、“記憶の鏡部屋”にすぎない。
鏡は無限にある。
そのどれを信じるかを決めるのは、お前の“恐れ”と“願望”だ」
⸻
■ 森のルールがひとつ、書き換わる
今まで「森は心の反映」だと思っていた。
でもそれは、まだ序章だった。
鏡の裏に、古びた文章が刻まれている。
⸻
“漆黒の森は、他者の心が交錯する空間でもある”
一度入った者の“記憶”と“虚偽”は、
他の来訪者の森にも影響を及ぼす。
真実とは、最も“共有された嘘”のことである。
⸻
あなたは背筋が凍る。
これまで出会った登場人物――ノア、ミコ、老婆、少年たち――
すべて、“あなたの記憶”の中だけで完結していると思っていた。
だが違った。
「彼らは……他の“誰か”の記憶の断片と、交差していた?」
つまり――
この森には、時代を超えて誰かが常に迷い込んでおり、
彼らの記憶とあなたの記憶は、すでに混ざり合っている。
あなたの“記憶”は、
あなただけのものではなくなった。
そして次の章で、
**「あなたが他人に与えた影響」**という形で、
「答え合わせが始まる」――




