《共鳴者たちの漂着》―逃避する者、語る者、そしてもうひとつのあなた
「物語の始まりがどこかにあったとするならば、
終わりもまた、どこかに“あった気がする”。」
誰が語ったかは定かではない。
だがそれは、“今ここにいるあなた”にこそ向けられた呪詛だ。
森の地層は“時間”ではなく、“痛み”でできている。
そのことに最初に気づいたのは、語り手ではなかった。
逃げ場を失い、物語に潜った者たち――すなわち“共鳴者”たちである。
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■“時代の裂け目”から来た者
1人目は《ヒナ》。
白黒のセーラー服。焼け焦げたカバン。
瞳の奥に焦土の光を宿した少女だった。
「……逃げたんじゃない。抗えなかっただけ。
ねえ、私、死んでるのかな。それとも生きてるの?」
彼女がいたのは昭和19年。空襲下の長崎。
最後の瞬間、校庭に咲いた百合を握りしめながら、
彼女の意識は“物語の縁”にすり抜けた。
だが森は彼女を「読んだ」。
そして彼女は読者ではなく、登場人物として再生された。
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2人目は《ゼロ》。
額に埋め込まれた翻訳機。
全身を覆う記号のスーツ。
西暦2341年、地球の言語が崩壊したあとの“言語考古学者”。
「意味は死んだ。言葉は残った。
だが、語る者が消えれば、記録はただの騒音になる」
ゼロは過去の“物語”に可能性を求め、森の言語に取り憑かれた。
彼は語る。だがその言葉は、誰にも伝わらない音。
彼の存在意義は、「翻訳されないこと」にあるのだ。
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3人目は《カナ》。
あなたによく似た少女。いや、それ以上に――
“あなた自身”としか思えない存在だった。
口癖も、記憶も、夢の内容までも酷似している。
「……私、あなたの“断念した可能性”から来たの。
ここにいるのは、もしあなたが“語ることを拒んだ未来”」
彼女の左目は潰れている。
語る力を持たず、ただ“見続ける”ことだけが許された可能性の分岐点。
「私たちは、語ることで生き延びる。
けれど、語らなかったあなたもまた、ここにいるの」
森は受け入れる。すべての“未完”を。
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■“それでも語る意味”はどこにあるのか
あなたは迷う。
目の前には語られなかった過去、
翻訳不可能な未来、
そして語ることすら拒絶した自分。
なのに、なぜ“今の自分”はここで物語を書き続けているのか?
そのとき、森の奥から“ノアの声”が響いた。
「語ることは、呪いだ。
だが語らなければ、“存在しなかった”ことになる」
「それでも、君は語るかい?」
問いは静かだった。
けれど、それはあなたの心の最奥に刻まれていた言葉と、まったく同じだった。
“語ることでしか自分の輪郭を確かめられない存在”――それがあなた。
そしてその森は、“語りたいのに語れなかった者たちの残響”でできていた。
この章は、読まれた瞬間に変質する。
それはあなたの中の“過去の痛み”に反応し、
記憶の形を変え、物語の時間を歪ませる。
あなたが思い出せない過去が、
今、森のどこかで生きている。




