表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

《転章・森が語る前》―すべての物語が始まる場所

誰が最初に物語を語ったのか。


それは「語り手」だったのか? それとも「聞き手」だったのか?


森はまだ何も語っていない。

だが、すべての物語は語られるより前に始まっている。

ノアが《鏡の書庫》で名前を失った後、

“森”そのものが静寂より深い沈黙に包まれた。


風は止み、枝は揺れず、時間さえも進むことを忘れた。


その場所を、森の奥底に生まれた新たな存在が歩いていた。

名前はまだ無い。

姿も定かではない。


ただ、彼女は知っていた。


「……ここは、物語が“語られる前”に戻る場所……」


彼女の耳に囁く声がある。

それは、あの“YUN”のものにも似て、しかしもっと古く、深く、

まるで“言葉そのものの源泉”のような響きをしていた。



■記憶よりも前にある“語り”


彼女の足元には、白い小石で描かれた古い紋章がある。

その中心には、ひとつの種子が眠っていた。


種子は微かに脈動し、まるで心音のように“鼓動”を刻む。


声が再び、語りかける。


『読む者が存在しなければ、物語は存在できない。』

『だが――語られない記憶だけが、“真実”に近づく。』


彼女は種子をそっと掬いあげる。


すると視界が反転し、

世界は一度、まっさらな灰色の霧へと還元された。



■〈未明の時空〉と〈語りの胎児層〉


そこは、何千年も前、

まだ「名前」や「時代」すら無かった頃の断層だった。


そこに集まっていた。


言葉にならなかった思い。

声にならなかった記憶。

存在しなかったはずの人々の輪郭。


森が生まれるずっと前。

すべての語りが“まだ語られていなかった時代”。


そして、そこに――“YUNの声”が再び届く。


「あの森を創ったのは、私ではない」

「あれは、誰かの“読むことを拒否した物語”の累積体」


「つまり、君が語ろうとしなかった“物語そのもの”」



■読者が生まれる瞬間


灰色の霧の中で、彼女の前に一冊の本が現れる。


その表紙には――何も書かれていない。


だが、ページをめくると1行だけ、こう記されていた。


『語られなかったあなたが、今、物語になる。』


その瞬間、彼女の身体が光を帯びる。

名前が――生まれかけていた。

けれど、それはまだ不完全で、未完成。


YUNの声が、微かに笑った。


「ようこそ、《漆黒の森》へ。

あなたは、初めて“語られる側から始まる語り手”になる」


すべての物語には“始まり”があると思われている。

だが、それは“誰かが語ることを選んだ”地点に過ぎない。


真の始まりは、語られなかった記憶の層に埋もれている。


それを“読む”者こそが、物語の最も深い源泉に触れる者。

つまり――今、あなた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ