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夏のホラー2024『うわさ』

交差点で君を待つ

作者: 佐藤そら

「ねえねえ、今日はどこに行くの?」


 僕は君に声をかけた。でも、君はまるで口を利いてくれない。

 喧嘩した時は、いつもこうだ。

 僕が謝るまで、君は態度を変えない。

 でも、今回ばかりは喧嘩をした記憶がない。

 今週末はデートに行く約束だってしている。


 僕はずっと、君を見つめている。

 でも君は、僕と目を合わせようとしなかった。


 君は鏡の前で、今日の洋服選びに夢中なご様子。


「右のピンクのワンピースがいいんじゃない?」


 君は左の黒のワンピースを選んだ。


「ねえ、怒ってる? 僕、何かした……?」


 君は何も答えなかった。


「ごめん……」


 今回ばかりは、謝っても、どうやら口を利いてくれないらしい。



 家のチャイムが鳴り、何かが届いたようだ。

 君は迷いなくドアを開け、それを受け取った。

 届いたのは、チョコレートコスモスの小さな花束だった。

 君は、どこか悲しそうにコスモスの花を見つめた。


「ねえ、それって誰かへのプレゼント?」


 君はやっぱり何も答えなかった。



 黒のワンピースを着て、花束を抱え、君はあの交差点へと向かった。


 そこは、事故が多い交差点だ。

 沢山の花束がいつも置かれている。

 君も同じように、そこに花束を置くと、静かに手を合わせた。


 この交差点で事故に遭い、なんとか生還した者達は、皆同じ言葉を口にする。


『赤いボールを持った男の子が飛び出してきた』と。


 いつしか、この交差点は気味悪がられ、赤いボールを持った男の子を見た者は事故に遭うと、うわさされるようになった。



「チョコレートコスモスの花言葉は、確か……」


「恋の終わり……」


 突然、君が呟いた。


「僕の声、もしかして聞こえたの?」


「でもさ……。簡単に終われるわけ、ないよね?」


 君はそう言うと、涙がこぼれないように空を見上げた。



 あれから、もう一年が経つのか……。


 僕はもう、君と喧嘩することもできない。


 君と僕の人生が、交差する日は永遠に来ない。




 僕もあの日、ボールを持った男の子を見た。

 車の前に飛び出してきた彼は言った。


「お前か……?」


 その昔、男の子が、あの場所でボール遊びをしていたらしい。

 そして、事故に遭い、ひき逃げされたのだという。

 ひき逃げ犯を探して、彼は今でもあの場所に飛び出してくるのだ。


 この交差点のうわさには、一つだけ間違っていることがある。

 男の子が持っていたのは赤いボールではない。

 黄色いボールだ。


 赤いのは、血で真っ赤に染まっていたからだ……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の気持ちを考えとても切なくなりました。 轢き逃げ犯が捕まり男の子が成仏しない限り、また今後も悲劇は重なっていってしまうと考えると、悲しさと同時に怖くもあり仄暗い余韻が残りました。 …
[良い点] 噂と違うボールの色のエピソードを読んで、そこはかとなくひんやりとした気持ちになりました。
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